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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 韓国・在韓米軍

1 全般

韓国では、13(平成25)年2月に朴槿恵(パク・クネ)政権が発足した。朴政権は、南北関係の改善には対話を通じた信頼構築が最も重要という姿勢を示している。核問題については、北朝鮮の核開発は断じて容認できず、国際社会とも協調して対応するとしつつ、同年8月、人道問題への取組や南北交流などを通じた信頼構築により非核化の実現を目指す「朝鮮半島信頼プロセス」と呼ばれる政策を発表した。また、韓国は北朝鮮の軍事的挑発行動に対しては断固として対処していくとし、北朝鮮の脅威を抑止・対処するための確固たる態勢を構築することの重要性を強調している。

韓国には、朝鮮戦争の休戦以降、現在に至るまで陸軍を中心とする米軍部隊が駐留している。韓国は、米韓相互防衛条約を中核として、米国と安全保障上きわめて密接な関係にあり、在韓米軍は、朝鮮半島における大規模な武力紛争の発生を抑止する上で大きな役割を果たしている。現在、両国は戦時作戦統制権54の韓国への移管などを通じて「韓国軍が主導し米国が支援する」新たな共同防衛体制への移行を進めており、これが現在の朝鮮半島情勢のもとでどのように進展していくか注目していく必要がある。

2 韓国の国防政策・国防改革

韓国は、全人口の約4分の1が集中する首都ソウルがDMZから至近距離にあるという防衛上の弱点を抱えている。韓国は、「外部の軍事的脅威と侵略から国家を守り、平和的統一を後押しし、地域の安定と世界平和に寄与する」との国防目標を定めている。この「外部の軍事的脅威」の一つとして、かつては国防白書において北朝鮮を「主敵」と位置づけていたが、現在では、「北朝鮮政権と北朝鮮軍は韓国の敵」との表現が用いられている55

韓国国防部は、05(同17)年、「兵力中心の量的軍構造」から「情報・知識中心の質的軍構造」への転換のための計画として、「国防改革基本計画2006-2020」を発表した56。09(同21)年には、北朝鮮によるミサイル発射や核実験実施といった情勢の変化などを踏まえ、兵力削減規模の縮小や、北朝鮮の核およびミサイル施設への先制攻撃の可能性などについて明示した「国防改革基本計画2009-2020」を発表した。さらに、10(同22)年の韓国哨戒艦沈没事件や延坪島砲撃事件などを受け、12(同24)年8月には、北朝鮮への抑止能力の向上や、軍のさらなる効率化を盛り込んだ「国防改革基本計画2012-2030」が発表57され、さらに朴槿恵政権は14(同26)年3月、北朝鮮による脅威への対応能力を確保しつつ、朝鮮半島統一後の潜在的脅威に対応するための長期的な防衛力整備も視野にいれた「国防改革基本計画2014-2030」を発表した58

3 韓国の軍事態勢

韓国の軍事力については、陸上戦力は、陸軍22個師団と海兵隊2個師団、合わせて約55万人、海上戦力は、約190隻約19.5万トン、航空戦力は、空軍・海軍を合わせて、作戦機約620機からなる。

韓国軍は、北朝鮮の脅威はもとより、あらゆる形態の脅威に対応できる全方位体制を確立するとして、近年では、海・空軍を中心とした近代化に努めている。海軍は、潜水艦、大型輸送艦、国産駆逐艦などの導入を進めており、10(同22)年2月には、韓国初の機動部隊が創設されている59。空軍は02(同14)年以降進めてきたF-15K戦闘機の導入を12(同24)年4月に完了させており、現在はステルス機能を備えた次世代戦闘機としてF-35戦闘機の導入事業が推進されている。

12(同24)年10月、韓国政府は、北朝鮮の武力挑発への抑止能力を高めるため、自ら保有する弾道ミサイルの射程などについて定めたミサイル指針について、弾道ミサイルの最大射程を300kmから800kmに延伸することなどを内容とする改定を行ったことを発表した。さらに、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対応するため、ミサイル能力の拡充60、ミサイル能力を発揮するための一連のシステムの構築61、ミサイル防衛システム構築の進展62などに取り組むこととしている。

また、韓国は近年、装備品の輸出を積極的に図っており、13(同25)年の輸出実績は34億ドルに達し、輸出品目についても通信電子や艦艇など多様化を遂げているとされている。

なお、14(同26)年度の国防費(本予算)は、対前年度比約3.5%増の約35兆7,057億ウォンとなっており、00年(同12)年以降15年連続で増加している。

参照図表I-1-2-4(韓国の国防費の推移)

図表I-1-2-4 韓国の国防費の推移

4 米韓同盟・在韓米軍

米韓両国は近年、米韓同盟を深化させるため様々な取組を行っている。09(同21)年6月の米韓首脳会談では、米韓同盟の範囲を朝鮮半島からグローバルなものに広げるとともに、両国間の協力を軍事面以外の他の領域に広げる「包括的戦略同盟」化を盛り込んだ「米韓同盟のための共同ビジョン」が合意された。さらに、10(同22)年10月の第42回米韓安保協議会議において、米韓同盟の未来ビジョンを実現するためのガイドラインである「国防協力指針」などが盛り込まれた共同声明が発表されるなど、関係の強化が図られている。両国は、13(同25)年3月に北朝鮮の挑発に対応するための「米韓共同局地挑発対応計画」63に署名したほか、同年5月の米韓首脳会談では、米韓相互防衛条約締結60周年を記念した共同宣言が発出され、21世紀の安全保障上の課題に対応するため、同盟強化を継続することなどが確認された。さらに、同年10月の第45回米韓安保協議会議において、両国は、北朝鮮の核・大量破壊兵器の脅威に対する抑止力向上の戦略である「オーダーメード型抑止戦略(Tailored Deterrence Strategy)」64を承認した。

これに加え、両国は、在韓米軍の再編や米韓連合軍に対する戦時作戦統制権の韓国への移管などの問題に取り組んでいる。しかし、在韓米軍の再編問題については、03(同15)年、ソウル中心部に所在する米軍龍山(ヨンサン)基地のソウル南方の平沢(ピョンテク)地域への移転や、漢江(ハンガン)以北に駐留する米軍部隊の漢江以南への再配置などが合意されていたが、平沢地域への移転は、遅延している模様である65。また、15(同27)年12月1日に予定されている戦時作戦統制権の韓国への移管66については、10(同22)年10月に移管のためのロードマップである「戦略同盟2015」が策定されたが、北朝鮮の核・ミサイルの脅威が深刻化したことなどを受け、移管の条件や時期について協議を継続することとなった。在韓米軍再編や戦時作戦統制権の移管完了後、韓国防衛は、従来の「米韓軍の連合防衛体制」から「韓国軍が主導し米軍が支援する新たな共同防衛体制」に移行することとなり、在韓米軍の性質にも大きな影響を与えるものと考えられるため、これらの動向に注目する必要がある。

5 対外関係
(1)中国との関係

これまで中国と韓国との間では、08(同20)年5月の中韓首脳会談において、両国は中韓関係を従来の「全面的協力パートナーシップ」から「戦略的協力パートナーシップ」に格上げするなど、関係強化が図られてきた。朴槿恵政権の発足後も、13(同25)年6月、中国を訪問した朴槿恵大統領は習近平国家主席と首脳会談を行い、「中韓未来ビジョン共同声明」を発表した。また、実務レベルでも、同月、韓国の合同参謀本部議長が6年ぶりに訪中したほか、13(同25)年12月には両国の外務・防衛当局局長級による初の「中韓外交・安保対話」が開催され、同対話を定例的に実施することとされた。さらに、14(同26)年7月、習近平国家主席が韓国を国賓訪問し、政治・安全保障分野における両国間の対話の促進や朝鮮半島の非核化実現などを合意事項として含む共同声明を発表した。

一方、13(同25)年11月に中国が発表した「東シナ海防空識別区」が、韓国の防空識別圏と一部重複し、また排他的経済水域の管轄権をめぐって中韓の主張が対立している暗礁・離於島(イオド)(中国名・蘇岩礁)周辺海域上空なども含んでいたことから、韓国政府は同年12月、韓国防空識別圏の拡大を発表し、同月から発効させた。

(2)ロシアとの関係

韓国とロシアとの間では、近年、軍高官の交流などの軍事交流が行われているほか、軍事技術、防衛産業、軍需分野の協力についても合意されている。08(同20)年9月の韓露首脳会談では、今後の両国関係を「戦略的協力パートナーシップ」に格上げすることで合意した。12(同24)年3月には初の韓露国防戦略対話が開催され、同対話を定例化することで合意している。13(同25)年11月には、プーチン大統領が訪韓し、政治・安保分野における対話の強化などを盛り込んだ共同声明を発表した。

(3)海外における活動

韓国は、93(同5)年にソマリアに工兵部隊を派遣して以来現在まで、様々な国連平和維持活動(PKO:UN Peacekeeping Operations)に参加している。09(同21)年12月には、PKOへの派遣要員を現行の水準から大幅に拡大する方針を明らかにし67、10(同22)年7月には海外派遣専門部隊である「国際平和支援団」を創設している。13(同25)年3月以降、工兵部隊を中心とする部隊を国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)へ派遣している。

韓国は、アフガニスタンで活動している韓国の地方復興チーム(PRT:Provincial Reconstruction Team)要員の警護を目的として軍部隊を派遣しているほか、海軍艦艇をソマリア沖・アデン湾に派遣し、韓国船舶の護送および連合海上部隊(CMF:Combined Maritime Forces)の海上安全活動(MSO:Maritime Security Operation)に従事させている。11(同23)年1月からは、アラブ首長国連邦(UAE:United Arab Emirates)軍特殊部隊に対する教育訓練支援、共同訓練、有事における韓国国民の保護などを目的として、韓国特殊戦部隊を同国に派遣している。さらに、13(同25)年12月には、台風被害を受けたフィリピンに工兵・医官など約500人規模の災害復旧支援部隊を派遣した。

54 米韓両国は、朝鮮半島における戦争を抑止し、有事の際に効果的な連合作戦を遂行するための米韓連合防衛体制を運営するため、78(昭和53)年より、米韓連合軍司令部を設置している。米韓連合防衛体制のもと、韓国軍に対する作戦統制権については、平時の際は韓国軍合同参謀本部議長が、有事の際には在韓米軍司令官が兼務する米韓連合軍司令官が行使することとなっている。

55 韓国の「2012国防白書」では、北朝鮮について、「大規模な通常戦力、核・ミサイルなどの大量破壊兵器の開発と増強、哨戒艦攻撃・延坪島砲撃のような継続的な武力挑発などを通じ、韓国の安全保障に深刻な脅威を加えている。このような脅威が継続する限り、その遂行主体である北朝鮮政権と北朝鮮軍は、韓国の敵である」と表現されている。

56 06(平成18)年に成立した国防改革に関する法律において、国防改革基本計画は、その策定後も、情勢の変化や国防改革推進実績を分析・評価し、修正・補完を行うことが義務づけられている。

57 韓国国防部は、韓国軍を朝鮮半島の作戦環境に一致する「オーダーメード型の軍構造」に転換するため、北西島嶼地域の対処能力の大幅拡充、戦時作戦統制権の移管に備えた上部指揮構造の改編、兵力削減と部隊改編の漸進的な推進、ミサイルおよびサイバー戦対応能力の大幅拡充などを行うとしているほか、「高効率の先進国防運営体制」を構築するため、効率化の推進、人材管理体系の改編、軍の福祉の向上および将兵の服務環境の改善を行うとしている。

58 韓国国防部は、現存および潜在的脅威に対応するための能力を確保するため、イージス艦3隻の追加導入、次期駆逐艦・潜水艦の戦力化、中・高高度無人偵察機や多目的衛星の導入などを計画している。

59 韓国初の機動部隊である第7機動戦団の任務は、シーレーンの防衛、北朝鮮に対する抑止、国家の対外政策の支援などとされている。

60 12(平成24)年4月、韓国国防部は、北朝鮮全域を攻撃可能な巡航ミサイルなどを独自開発し、実戦配備していると発表した。また、13(同25)年2月には、12(同24)年10月のミサイル指針改定により保有が可能となった射程800kmの弾道ミサイルの開発を加速すると表明したほか、艦艇および潜水艦から発射され、北朝鮮全域を攻撃可能な巡航ミサイルを実戦配備していると発表した。また、同年10月、韓国軍は建軍65周年の記念行事において、射程300kmとされる弾道ミサイル「玄武(ヒョンム)2」および射程1,000kmとされる地対地巡航ミサイル「玄武(ヒョンム)3」を初めて一般に公開したほか、14(同26)年4月には射程500kmの新型弾道ミサイルの発射実験に成功した。

61 韓国国防部はこのシステムを「Kill Chain」と呼称しており、ミサイル発射兆候の探知から識別、攻撃の決心、攻撃までが即時に可能なシステムとしている。

62 韓国は、06(平成18)年12月、独自のミサイル防衛体系(KAMD:Korea Air and Missile Defense)の推進を表明しており、15(同27)年までを目標にシステムの構築を進めていると伝えられている。一方、韓国国防部は、米国のミサイル防衛システムへの参加を否定し、あくまで独自のシステムを構築することを強調しており、米韓の脅威認識の違いなどがその理由として伝えられている。

63 韓国合同参謀本部は、本計画には北朝鮮の挑発時に米韓共同で対応するための協議手続きと強力かつ徹底的な対応方法が含まれると発表しているが、計画の細部は公開されていない。

64 第45回米韓安保協議会共同声明によれば、本戦略は、戦時および平時における北朝鮮の主要な脅威シナリオに合わせた抑止の戦略的枠組みを制定し、米国と韓国の連携を強化するものとされているが、細部は公開されていない。

65 米国は、在韓米軍に関し、漢江以南への再配置を2段階で進めるとの合意(03(平成15)年6月)や約3万7,500人の人員のうち1万2,500人を削減するとの合意(04(同16)年10月)などに基づき、その態勢の変革を進めているが、人員については、08(同20)年4月の米韓首脳会談において、現在の2万8,500人を適切な規模として維持することで合意された。

66 07(平成19)年、両国は12(同24)年4月に米韓連合軍司令部を解体し戦時作戦統制権を韓国に移管することとしたが、10(同22)年6月、北朝鮮の軍事的脅威の増加などを理由に移管時期を15(同27)年12月1日に延期することで合意していた。

67 韓国は、韓国軍のPKOへの参加を拡大するための法的・制度的基盤を整えるとしており、09(平成21)年12月には、国際連合平和維持活動参加に関する法律を制定している。