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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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第3節 グローバルな安全保障上の課題

背景や態様が複雑で多様な地域紛争が世界各地に依然として存在しており、特に、「アラブの春」後の混乱、統治能力がぜい弱な国家などの存在、テロ組織の拡大・拡散を背景に、各地で紛争を抱える中東やアフリカ地域では、地域機構や国際社会による紛争の対処・解決の努力が活発に行われている。一方、主権国家間の資源・エネルギーの獲得競争や気候変動の問題が今後一層顕在化し、地域紛争の原因となることにより、世界の安全保障環境に影響を与える新たな要因となる可能性がある。さらに、大規模災害や疫病の流行に対しても、迅速な救援活動などのため軍が持つ様々な機能が活用されている。

核・生物・化学(NBC:Nuclear, Biological and Chemical)兵器などの大量破壊兵器およびそれらの運搬手段である弾道ミサイルなどの拡散問題は、依然として、国際社会にとっての大きな脅威の一つとして認識され続けてきた。特に、北朝鮮による核兵器・弾道ミサイルの拡散や、国際テロ組織などの非国家主体による大量破壊兵器などの取得・使用といった懸念も引き続き指摘されている。一方、イランの核問題に対しては、米国や欧州連合(EU:European Union)などがイランに対する制裁を強化しつつ、イランとの協議を行い、13(平成25)年11月、核問題の包括的な解決に向けた「共同作業計画」に合意した。また、11(同23)年2月の米露間における新たな「戦略兵器削減条約」(新START:Strategic Arms Reduction Treaty)の発効など、核軍縮・不拡散に向けた取組が進められている。

各地に分散した国際テロ組織の分子およびそのイデオロギーに共鳴した地域のテロ組織や個人がテロ活動を行う傾向が継続しており、ウサマ・ビン・ラーディン死亡後もなお引き続き国際社会の安全保障上の脅威であることに変化はない。こうした国際テロ組織などは、13(同25)年1月の在アルジェリア邦人に対するテロ事件にみられるように、北アフリカや中東などにおける統治能力のぜい弱な国家を活動や訓練の拠点として利用し、国境を越えてテロを実行しているとの指摘もみられる。また、欧米諸国では、紛争地域で戦闘に参加し、同時に過激な思想を吹き込まれた自国民が、本国帰国後にテロを実行することが懸念されている。

また、海、空、宇宙空間、サイバー空間といった、国際公共財(グローバル・コモンズ(Global Commons))の安定的利用の確保が国際社会の安全保障上の重要な課題となっている。従来の地理的な視点では捉えきれない宇宙空間やサイバー空間が安全保障の観点から注目されている背景としては、軍事科学技術の一層の進展や近年の情報通信技術(ICT:Information and Communications Technology)の著しい進展などにより、様々な社会インフラの維持・発展にともない、また、軍事面でも指揮統制、通信、情報収集などを目的として、こうした空間への依存が進んでいることがあげられる。このような観点から、国家の活動や人々の生活に深刻な影響をもたらしうる政府や軍隊の情報通信ネットワークおよび重要インフラに対するサイバー攻撃は、政府機関の関与も指摘されていることもあり、その対処について、各国において、近年、政府および関係機関の組織改編なども含めた具体的な取組が進められている。同時に、国際社会の合意によりサイバー空間における一定の行動規範の策定を目指す動きがみられる。また、国際的な物流を支える基礎として重視されてきた海洋に関しても、各地で海賊行為などが発生していることに加え、海洋における国際法についての独自の主張に基づいて自国の権利を一方的に主張し、または行動する事例がみられるようになっており、公海の自由が不当に侵害されるような状況が生じている。こうした状況に対し、ソマリア沖・アデン湾などにおける海賊対処のため各国が艦艇などの派遣を行っているほか、国際会議において航行の自由の重要性を確認するなど、国際社会の取組が行われている。

このように、今日の国際社会は、多様で複雑かつ重層的な安全保障上の課題や不安定要因に直面している。これらの課題などは、同時に、また、複合して生じることもあり得る。これらに対応するための軍事力の役割もまた、武力紛争の抑止と対処に加え、紛争の予防から復興支援に至るまで多様化している。このように軍事力が重要な役割を果たす機会が増加していると同時に、外交、警察・司法、情報、経済などの手段とも連携のとれた総合的な対応が必要になっている。

また、近年の科学技術の発展、特にICTの大幅な進歩は、軍事分野にも波及し、米国をはじめとする先進諸国は、精密誘導技術、無人化技術、ステルス技術などの研究開発を重視している一方、開発・生産コストの高騰や国家財政状況の悪化に対応するため、共同開発・生産をさらに積極的に推進している。一方、先端技術を有しない国家や非国家主体は、大量破壊兵器やサイバー攻撃などの非対称的な攻撃手段の開発・取得や先進諸国の技術の不正な取得を行っていくものとみられる。こうした軍事科学技術の動向は、今後の軍事戦略や戦力バランスに大きな影響を与えると考えられる。