国家防衛戦略における第三の目標は、万が一、抑止が破れ、わが国への侵攻が生起した場合には、その態様に応じてシームレスに即応し、わが国が主たる責任をもって対処し、同盟国などの支援を受けつつ、これを阻止・排除することである。
島嶼(しょ)部を含むわが国に対する侵攻に対しては、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除するとともに、領域を横断して優越を獲得し、宇宙・サイバー・電磁波の領域や陸・海・空の領域における能力を有機的に融合した領域横断作戦を実施し、非対称な優越を確保し、侵攻戦力を阻止・排除する。そして、粘り強く活動し続けて、相手の侵攻意図を断念させる。
また、ミサイル攻撃を含むわが国に対する侵攻に対しては、ミサイル防衛により公海やわが国の領域の上空でミサイルを迎撃し、攻撃を防ぐために他に手段がないと認められる場合におけるやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において有効な反撃を加える能力としてスタンド・オフ防衛能力などを活用し、ミサイル防衛とあいまってミサイル攻撃を抑止する。さらに、国民の生命・身体・財産に対する深刻な脅威である大規模テロや重要インフラに対する攻撃などに際しては、関係機関と連携し実効的な対処を行う。そして、わが国への侵攻が予測される場合には、住民の避難誘導を含む国民保護のための取組を円滑に実施できるようにする。
東西南北、それぞれ約3,000kmに及ぶわが国領域には、広範囲にわたり多くの島嶼を有し、そこには守り抜くべき国民の生命・身体・財産・領土・領海・領空や各種資源が広く存在している。
そうした地理的特性を持つわが国への侵攻に的確に対応するためには、平素から安全保障環境に即して部隊などを配置するとともに、自衛隊による常時継続的な情報収集・警戒監視などにより、兆候を早期に察知できる態勢を維持することが必要である。また、状況に応じて迅速に機動・展開を行うとともに、海上優勢1・航空優勢2を確保することが重要である。
万が一、抑止が破れ、わが国への侵攻が生起した場合には、わが国の領域に対する侵害を排除するため、宇宙・サイバー・電磁波の領域や陸・海・空の領域における能力を有機的に融合し、相乗効果によって全体の能力を増幅させる領域横断作戦により、個別の領域が劣勢である場合にもこれを克服しつつ、統合運用により機動的・持続的な活動を行い、迅速かつ粘り強く活動し続けて領域を確保し、相手方の侵攻意図を断念させる。
参照図表III-1-4-1(将来の領域横断作戦(イメージ))
諸外国のレーダー探知範囲や各種ミサイルの射程・性能は著しく向上しており、これらの脅威が及ぶ範囲は侵攻部隊の周囲数百km以上となる。
わが国領域を守り抜くため、島嶼部を含むわが国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊などに対し、対空ミサイルなどの脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力を抜本的に強化し、わが国への武力攻撃に対する抑止を向上させることが必要である。このため、わが国への侵攻がどの地域で生起しても、わが国の様々な地点から、重層的にこれらの艦艇や上陸部隊などを阻止・排除できる必要かつ十分な能力を保有する。また、ミサイルを地上発射機や航空機、艦艇から発射できるといった、発射プラットフォームの多様化を行いつつ、様々な異なる特徴を有するスタンド・オフ・ミサイルを組み合わせて対処することにより、相手方に複雑な対応を強いる。さらに、外国製スタンド・オフ・ミサイルの早期取得とともに、国産スタンド・オフ・ミサイルの国内製造態勢の拡充を後押ししつつ必要かつ十分な数量の早期獲得を図る。加えて、目標情報の収集や指揮統制を含め、スタンド・オフ・ミサイルの運用に必要な一連の機能を確保する取組を推進する。スタンド・オフ・ミサイルを実践的に運用する能力を構築したうえで、より先進的なスタンド・オフ・ミサイルを運用する能力を早期に獲得すべく、研究開発・量産の取組を加速化する。
KEY WORDスタンド・オフ防衛能力
島嶼部を含むわが国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊などに対して脅威圏の外から対処する能力。脅威圏の外から対艦・対地攻撃を行うため、長射程化され、迎撃を回避できる高い残存性を有する誘導弾などのことであり、自衛隊員の安全を確保しつつ、わが国への攻撃を効果的に阻止する能力。
具体的には、12(ヒトニ)式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)の早期部隊配備に向け、2023年度から量産に着手した。また、当初2026年度配備を計画していたところ、1年前倒しが可能となり、2025年度から配備を開始する。さらに、残存性を確保するため、多様なプラットフォーム(地上、艦艇、航空機)から発射できるよう12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型・艦艇発射型・航空機発射型)の開発を継続している。島嶼防衛用高速滑空弾は、2026年度からの納入を見込んで2023年度から量産に着手し、研究事業を継続している。また、2023年度から着手した島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)の開発を継続している。さらに、2023年度から極超音速3誘導弾の研究を行い、2024年度からは早期の量産取得に向けて製造態勢の拡充に着手するなど、各種誘導弾の長射程化を図っている。このほか、12式地対艦誘導弾能力向上型の地上装置を活用しつつ、長距離飛しょう性能、精密誘導性能など対艦・対地対処能力を向上した新たなスタンド・オフ・ミサイルの開発に着手する。
地上での様々な試験に耐えた12式地対艦誘導弾能力向上型(試作品)
【三菱重工業(株)提供】
また、これら国産のスタンド・オフ・ミサイルの量産弾を取得するほか、外国製スタンド・オフ・ミサイルの導入を実施・継続する。この際、国産スタンド・オフ・ミサイルを必要な数量整備するには一定の時間を要することから、既に量産が行われている米国製のトマホークを早期に取得することとしている。米国製のトマホークの導入は、2026年度と2027年度にブロックV4を最大400発取得する予定であったが、より厳しい安全保障環境を踏まえ、米側と取得時期を早めるべく交渉した。その結果、一部のブロックVをブロックIV5に変更し、当初予定より1年早く2025年度から取得するとともに、トマホーク発射機能の艦艇への付加や要員の教育を進めることで、国産スタンド・オフ・ミサイルの増産体制確立前に十分な能力を速やかに確保する。
トマホーク取得前倒しのLOA署名式
(2024年1月)
指揮統制面では、スタンド・オフ・ミサイルの運用を中核として一元的な指揮活動を円滑に実施するために必要な機能などの整備を進めることとしている。
参照図表III-1-4-2(今後のスタンド・オフ防衛能力の運用(イメージ))
無人アセットは、有人装備と比べて、人的損耗を局限し、長期連続運用ができるといった大きな利点がある。さらに、この無人アセットをAI(Artificial Intelligence)や有人装備と組み合わせることにより、部隊の構造や戦い方を根本的に一変させるゲーム・チェンジャーとなりうることから、空中・水上・水中などでの非対称的な優勢を獲得することが可能である。このため、こうした無人アセットを情報収集・警戒監視のみならず、戦闘支援などの幅広い任務に効果的に活用していく。
広域における常時監視能力の強化のために2015年度から取得を開始したRQ-4B(グローバルホーク)は、2023年6月に3機目が空自三沢基地(青森県)に到着し、当初計画の体制が完整した。また、2023年5月から、海自八戸航空基地(青森県)においてMQ-9B(シーガーディアン)の試験的運用を行っており、2024年4月以降に、海自鹿屋(かのや)航空基地(鹿児島県)への離着陸の検証を行うこととしている。
他にも、輸送用UAV(Unmanned Aerial Vehicle)、偵察用UAV(中域用)(能力向上)などについても実証を進めており、2024年2月には、輸送用UAVを用いた艦上への物資輸送の実証を行った。
2024年度予算では、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT:Intelligence, Surveillance, Reconnaissance and Targeting)機能の強化のため、UAV(中域用)機能向上型6などに加え、無人水上航走体(USV:Unmanned Surface Vehicle)運用の知見の早期獲得と国産USVの開発促進を図るため、各国で運用実績のあるUSVを供試器材として取得する。また、警戒監視や対艦ミサイル発射などの機能を選択的に搭載し、有人艦艇を支援するステルス性を有した戦闘支援型多目的USVなどの研究を実施していく。加えて、島嶼部のあらゆる正面から着上陸可能で、海上から部隊近傍まで補給品輸送などの任務を行う輸送機能をもつ無人アセットである無人水陸両用車の開発に着手する。
また、わが国は、次期戦闘機を英国、イタリアと共同開発し、2035年度までの開発完了を目指しているところ、この次期戦闘機に随伴して飛行し、自律的に判断して次期戦闘機を支援する無人機の開発着手を計画している。2023年12月、この無人機にも適用が見込まれる、AI技術に関する共同研究を日米で実施することに日米両政府が合意した。米国をはじめとする関係国と協力して無人アセット防衛能力の強化を図っていく。
東西南北、それぞれ3,000kmに及び、多数の島嶼部を含むというわが国の地理的特性を踏まえると、わが国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保し、わが国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止するため、平素配備している部隊が常時活動するとともに、状況に応じて必要な部隊(人員・装備・補給品など)を迅速に機動展開する能力の構築や、それを可能にする基盤の整備が必要である。
このため、輸送船舶、輸送機、輸送ヘリコプターなどの各種輸送アセットの取得などにより自衛隊自身の海上・航空輸送力を強化するとともに、民間資金等活用事業(PFI:Private Finance Initiative)などの民間輸送力を最大限活用する。具体的には、共同の部隊として自衛隊海上輸送群(仮称)を新編して南西地域への機動展開能力を向上させる。また、南西地域の島嶼部などに部隊や物資を迅速に輸送するために使用する輸送船舶や、輸送ヘリコプターなどの輸送アセットの取得を推進する。さらに、民間船舶を活用した輸送体制に空白を生じさせないよう引き続きPFI船舶を確保するとともに、民間船舶の活用による統合輸送体制の強化を図る。
自衛隊海上輸送群(仮称)に配備予定の機動舟艇(イメージ)
加えて、これらによる部隊への輸送・補給などがより円滑かつ効果的に実施できるように、統合による後方補給態勢を強化し、既存の空港・港湾施設などを運用基盤として使用するために必要な措置を講じ、補給能力の向上を実施していくとともに、全国に所在する補給拠点の改修を積極的に推進していく。
防衛省・自衛隊は、南西地域の防衛体制強化のため、九州・南西地域における部隊の新編を進めてきた。2023年3月、陸自は石垣島に駐屯地を新設し、警備部隊、地対空誘導弾部隊や地対艦誘導弾部隊を配置した。2024年3月には、陸自竹松駐屯地(長崎県)に水陸機動団第3水陸機動連隊、陸自勝連(かつれん)分屯地(沖縄県)に第7地対艦ミサイル連隊を新編し、陸自与那国駐屯地(沖縄県)に電子戦部隊を配備した。また、今後、第15旅団(沖縄県)の師団への改編を予定している。
陸自V-22(オスプレイ)の運用については、防衛省・自衛隊はその配備先として、佐賀空港が最適の飛行場と判断しており、佐賀県知事から受入れの表明を頂き、2023年5月、佐賀県有明海漁業協同組合との間で不動産売買契約を締結し、駐屯地予定地を取得した7。防衛省・自衛隊は、2023年6月から陸自佐賀駐屯地(仮称)の工事に着手しており、喫緊の課題である島嶼防衛能力の強化のため、早期に佐賀空港の隣接地に陸自オスプレイの配備を行うことで、長崎県佐世保市などに所在する水陸機動団と一体的に運用できる体制の構築を進めていく。なお、佐賀空港配備には一定期間を要することを考慮し、2020年以降、オスプレイを運用する輸送航空隊を陸自木更津(きさらづ)駐屯地(千葉県)に新編し、オスプレイを暫定配備している。
参照図表III-1-4-3(九州・南西地域における主要部隊新編状況(2016年以降)(概念図))
1 海域において相手の海上戦力より優勢であり、相手方から大きな損害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態。
2 わが航空部隊が敵から大きな妨害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態。
3 音速の5倍以上の速度域。
4 トマホークの最新型。
5 ブロックIVは、ブロックVと弾頭、誘導方式、射程などは同等の性能を有しているが、通信方式はブロックVの方が新しい方式を採用している。
6 夜間や悪天候による視界不良時においても鮮明に目標の撮影が可能。
7 佐賀空港の西側に駐機場や格納庫などを整備し、陸自目達原(めたばる)駐屯地(佐賀県)から移駐する約50機のヘリコプターとオスプレイ17機をあわせて約70機の航空機を配備することを想定している。