サイバー空間、海洋、宇宙空間、電磁波領域などにおいて、自由なアクセスやその活用を妨げるリスクが深刻化している。特に、サイバー攻撃の脅威は急速に高まっており、機微情報の窃取などは、国家を背景とした形でも平素から行われている。そして、武力攻撃の前から偽(にせ)情報の拡散などを通じた情報戦が展開されるといった、軍事目的遂行のために軍事的な手段と非軍事的な手段を組み合わせるハイブリッド戦が、今後さらに洗練された形で実施される可能性が高い。こうした動向は、わが国を含む国際社会が直面している重大な課題である。
科学技術とイノベーションの創出は、わが国の経済的・社会的発展をもたらす源泉であり、技術力の適切な活用は、安全保障だけでなく、気候変動などの地球規模課題への対応にも不可欠である。各国は、例えばAI(Artificial Intelligence)、量子技術、次世代情報通信技術など、将来の戦闘様相を一変させる、いわゆるゲーム・チェンジャーとなりうる先端技術の研究開発や、軍事分野での活用に力を入れている。
このような技術の活用は、これまで人間や従来のコンピュータなどにより行われてきた情報処理を、高速かつ自動で行うことを可能とするものであり、意思決定の精度やスピードにも大きな影響を及ぼすものとして注視していく必要がある。また、こうした技術に基づく高速大容量かつ安全な通信は、今後の防衛における大きなニーズでもある無人化や省人化にも大きく寄与するため、この観点からも注視が必要である。
さらに、サイバー領域などにおけるリスクも深刻化している。なかでも、サイバー攻撃による通信・重要インフラの妨害やドローンの活用など、純粋な軍事力に限られない多様な手段により他国を混乱させる手法はすでにいくつもの実例があり、こうした技術は、軍事と非軍事の境界を曖昧にし、いわゆるグレーゾーン事態を増加・拡大させる要因ともなっている。AI技術を応用して偽の動画を作るディープフェイクと呼ばれる技術も広がりを見せており、偽(にせ)情報の拡散などを通じた情報戦などが恒常的に生起するなど、安全保障面での技術の影響力が高まり続けている。
加えて、国の経済や安全保障にとって重要となる新興技術の分野で優位を獲得し、国際的な基準をリードすることが有利であるといった認識から、次世代情報通信システム(Beyond 5G)や半導体などの分野において、技術をめぐる国家間の争いが顕在化している。また、半導体やレアメタルをはじめとした重要物資について、安全保障の観点からサプライチェーンを確保することの重要性について共通の理解が進んでいる。
このような状況において、一部の国家が、サイバー空間、企業買収、投資を含む企業活動、学術交流、工作員などを利用し、他国の民間企業や大学などが開発した先端技術に関する情報を窃取した上で、自国の軍事目的に活用していることが懸念となっており、各国は、輸出管理や外国からの投資にかかる審査を強化するとともに、技術開発や生産の独立性を高めるなど、いわゆる「経済安全保障」の観点からの施策を講じている。