Contents

第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

2 国連平和維持活動などへの取組

国連PKOは、世界各地の紛争地域の平和と安定を図る手段として、伝統的な停戦監視などの任務に加え、近年では、文民の保護(POC:Protection of Civilian)、政治プロセスの促進、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration)、治安部門改革(SSR:Security Sector Reform)、法の支配、選挙、人権などの分野における支援などを任務とするようになっている。現在、14の国連PKOが設立されている(19(令和元)年5月末現在)。

また、紛争や大規模災害による被災民などに対して、人道的な観点や被災国内の安定化などの観点から、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)などの国際機関や各国政府、非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)などにより、救援や復旧活動が行われている。

これまで、わが国は、25年以上にわたって、カンボジア、ゴラン高原、東ティモール、ネパール、南スーダンなど、様々な地域において国際平和協力業務などを実施しており、その実績は内外から高い評価を得ている。

現在、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に引き続き司令部要員を派遣しているほか、平和安全法制の施行により、国際連携平和安全活動への参加が可能となり、19(平成31)年4月には多国籍部隊・監視団(MFO)への司令部要員の派遣を開始した。

新防衛大綱及び新中期防3は、今後も国際平和協力活動については、主体的に推進することとしている。特に、これまでに蓄積した経験を活かし、人材育成などに取り組みつつ、現地ミッション司令部要員などの派遣やわが国が得意とする分野における能力構築支援などの活動を通じ積極的に貢献することとしている。

1 国連平和維持活動にかかる国際会議など

防衛審議官は、19(平成31)年3月に、ニューヨーク(米国)で開催された「国連PKOに関する閣僚級会合」において、わが国の今後の貢献策として、PKOミッションの成功のためには、各国部隊や要員が高い能力と即応性を備えていることが重要であることから、わが国が中心となり実施してきた国連PKO支援部隊早期展開プロジェクトへのさらなる貢献、わが国のこれまでの活動で培った知識及び技能を活用した支援となる国連PKO工兵部隊マニュアル改訂作業、PKO分野での女性要員増加に向けた取組などについて言及した。

「国連PKOに関する閣僚級会合」で演説を実施する西田防衛審議官(19(平成31)年3月)

「国連PKOに関する閣僚級会合」で演説を実施する西田防衛審議官
(19(平成31)年3月)

2 多国籍部隊・監視団(MFO Multinational Force and Observers)への派遣
(1)MFOへの派遣の経緯など

1973(昭和48)年の第4次中東戦争の後、1979(昭和54)年3月に「エジプト・アラブ共和国及びイスラエル国との間の平和条約」が締結された。しかしながら、同平和条約に基づく国連の部隊及び監視団の設立については、国連安保理議長から合意不成立の通告があったことから、1981(昭和56)年8月、紛争当事者であるエジプトとイスラエルは、米国の仲介により、多国籍部隊・監視団(以下「MFO」という。)設立の根拠となる「エジプト・アラブ共和国とイスラエル国との間の平和条約の議定書」に署名し、平和条約に定められた国際連合の部隊及び監視団の任務及び責任を代替する機関としてMFOが設立された。

MFOは、1982(昭和57)年の活動開始以来、エジプトとイスラエルとの間の対話や信頼醸成の促進を支援することにより、わが国の「平和と繁栄の土台」である中東の平和と安定に貢献してきた。また、わが国は、中東におけるわが国の果たす役割への期待が高まってきた中、昭和63(1988)年度に初めてMFOへの財政支援を実施し、それ以来、MFOへの財政貢献を行ってきたところである。

このようなわが国の貢献についてMFOから高い評価がなされ、MFOからわが国に対し、要員の派遣について要請があった。わが国としても、世界の平和と安定のために一層の責務を果たしていくにあたり、国際平和のための努力に対し人的な協力を積極的に果たしていくため、協力を行うこととした。このため、19(平成31)年4月2日にシナイ半島国際平和協力業務の実施について閣議決定を行った上で、初めての国際連携平和安全活動としてMFOへの司令部要員2名の派遣を開始した。

参照II部5章2節5項2(国際平和協力業務)

(2)司令部要員などの活動

司令部要員2名は、シナイ半島南部シャルム・エル・シェイクの南キャンプに所在するMFO司令部において、エジプト及びイスラエルの政府その他の関係機関とMFOとの連絡調整に従事する連絡調整部の副部長及び部員として勤務している。

また、MFOに派遣された司令部要員2名が円滑かつ効果的に活動を行えるよう、派遣先国において関係機関との連絡・調整などを行うため、カイロに連絡調整要員1名を派遣している。

この活動を通じ、中東の平和と安定へのわが国の一層積極的な関与の姿勢を示すことになるほか、米国などの他の要員派遣国との連携の促進にもつながり、人材育成の新たな機会となることも期待される。

参照図表III-3-5-2(MFO活動の概要及び関連地図)
図表III-3-5-3(MFO組織図)

図表III-3-5-2 MFO活動の概要及び関連地図

図表III-3-5-3 MFO組織図

3 国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS United Nations Mission in the Republic of South Sudan)
(1)UNMISSへの派遣の経緯など

05(平成17)年1月、スーダン政府とスーダン人民解放運動・軍が南北包括和平合意(CPA:Comprehensive Peace Agreement)に署名したことを受けて、国連スーダン・ミッション(UNMIS:United Nations Mission in Sudan)が設立された。

わが国は、08(平成20)年10月以降、UNMIS司令部要員(兵站幕僚及び情報幕僚)として陸上自衛官2名を派遣していたところであり、11(平成23)年7月には、南スーダン独立にともなってUNMISの任務は終了したが、平和と安全の定着や南スーダンの発展のための環境構築の支援などを目的として、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)が設立された。政府は、国連からのUNMISSに対する協力、特に陸自施設部隊の派遣要請を受け、同年11月に司令部要員2名(兵站幕僚及び情報幕僚)の派遣、同年12月には自衛隊の施設部隊、現地支援調整所(当時)及び司令部要員1名(施設幕僚)などの派遣、14(平成26)年10月には司令部要員1名(航空運用幕僚)の派遣をそれぞれ閣議決定した。

南スーダンは6つの国と国境を接し、アフリカ大陸を東西南北に結ぶ、極めて重要な位置にある。南スーダンの平和と安定は、南スーダン一国のみならず、周辺諸国の平和と安定、ひいてはアフリカ全体の平和と安定につながるものであり、かつ国際社会で対応すべき重要な課題である。防衛省・自衛隊は、これまでの国連PKOにおいて実績を積み重ね、国連も高い期待を寄せているインフラ整備面での人的な協力を行うことで、同国の平和と安定に貢献してきた。

参照I部3章7節3項7(南スーダン情勢)

(2)派遣施設隊の活動

12(平成24)年1月、南スーダンの首都ジュバ及びウガンダにおいて、自衛隊の国連PKO活動では初めて、現地支援調整所(当時)を設置し、派遣施設隊が行う活動に関する調整を開始した。派遣施設隊は同年3月にジュバの国連施設内での施設活動を開始して以降、順次活動を拡大し同年6月の第2次要員への交代以後は300名を超える規模を維持し、安全を確保しながら道路の補修や避難民向けの施設構築を行うなど、意義のある活動を行ってきた。16(平成28)年12月の第11次要員への交代後、平和安全法制で新たに認められたいわゆる「駆け付け警護」の任務を付与するとともに、宿営地の共同防護を行わせることとした。

派遣施設隊は、17(平成29)年1月で派遣開始から5年という節目を越え、主要な実績だけでも、道路補修は延べ約260km、用地造成は延べ約50万m2など、これまでのわが国PKO活動の中で、最大規模の実績を積み重ねてきた。わが国として、自衛隊が担当するジュバにおける施設活動について一定の区切りをつけることができたことなどを総合的に勘案した結果、17(平成29)年3月10日、同年5月末をもって自衛隊の施設部隊による活動を終了することを政府として決定し、同年3月24日、防衛大臣から派遣施設隊の業務終結に係る行動命令が発出された。要員は撤収作業に従事した後、同年5月末までに南スーダンから順次撤収し、UNMISSにおける施設部隊による業務を終結した。

なお、国連から、道路の維持補修などに活用するため派遣施設隊が保有する重機、車両、居住関連コンテナなどの物品の譲渡要請があったことから、わが国によるUNMISSへの協力をさらに効果的なものにするため、これらの物品を無償でUNMISSに譲渡した。また、この譲渡に先立ち、UNMISSの要請を受け、日本隊撤収後もUNMISSがこれらの重機などを用いて円滑に施設活動を行えるよう、UNMISS職員に対し重機などの操作や整備に関する教育を行った。

派遣施設隊のこうした献身的な活動は、国連及び南スーダンから感謝され高い評価を受けた。

(3)司令部要員などの活動

UNMISS司令部に対する要員派遣は継続しており、現在、4名の陸上自衛官(兵站幕僚、情報幕僚、施設幕僚、航空運用幕僚)がUNMISS司令部において活動を実施している。兵站幕僚はUNMISSの活動に必要な物資の調達・輸送、情報幕僚は治安情勢にかかる情報の収集・整理、施設幕僚はUNMISS全体の施設業務にかかる企画・立案、航空運用幕僚はUNMISSが運航する航空機の運航支援といった業務を行っている。

さらに、司令部要員の活動を支援するため、1名の連絡調整要員を在南スーダン連絡調整事務所に派遣している。連絡調整要員は、わが国のUNMISSに対する協力を円滑かつ効率的に行うことを目的として、南スーダン政府などと南スーダン国際平和協力隊との間の連絡調整に当たっている。このように、わが国は引き続き、UNMISSの活動に貢献していく。

治安部門と電話での調整を行う情報幕僚

治安部門と電話での調整を行う情報幕僚

参照II部5章3節5項(南スーダンPKOにおける新たな任務の付与)
図表III-3-5-4(UNMISSの組織)

図表III-3-5-4 UNMISSの組織

4 国連事務局への防衛省職員の派遣

防衛省・自衛隊は、国連の国際平和に向けた努力に積極的に寄与し、また、派遣された職員の経験をわが国のPKO活動への取組に活用することを目的に、国連事務局へ職員を派遣している。19(令和元)年5月現在、2名の自衛官(担当級)が国連平和活動局において国連PKOの方針や計画の作成などに関する業務を行っており、また、1名の事務官(担当級)が国連活動支援局において「三角パートナーシップ・プロジェクト4」に関する業務を行っている。02(平成14)年12月以降、現在派遣中の職員を含め、これまでに国連平和活動局に延べ6名(課長級1名、担当級5名)の自衛官を、また、国連活動支援局に延べ2名(担当級2名)の事務官を派遣した。

参照資料52(国際機関への防衛省職員の派遣実績)

5 PKOセンターへの講師などの派遣

防衛省・自衛隊は、アフリカ諸国などの平和維持活動における自助努力を支援するため、PKO要員の教育訓練を行うアフリカ所在のPKOセンターなどに自衛官を講師などとして派遣しており、これらPKOセンターの機能強化を通じ、アフリカなどの平和と安定に寄与している。

ベトナムにおける国連PKO支援部隊早期展開プロジェクトにおいて、重機操作訓練を実施する陸自隊員(18(平成30)年11月)

ベトナムにおける国連PKO支援部隊早期展開プロジェクトにおいて、
重機操作訓練を実施する陸自隊員(18(平成30)年11月)

参照1節3項1(多国間安全保障枠組み・対話における取組)
資料52(国際機関への防衛省職員の派遣実績)

6 国連PKO支援部隊早期展開プロジェクトへの支援

わが国は、これまでPKOの円滑化に欠かせない施設や輸送の分野で確かな信頼を得てきた。今後とも、PKOの早期展開を支援し、質の高い活動を実現するため、14(平成26)年9月のPKOサミットにおいて、安倍内閣総理大臣が積極的な支援を表明し、本プロジェクトによって具体化された。

本プロジェクトは、わが国が拠出した資金を基に、国連活動支援局が重機の調達や施設要員への訓練を実施するものである。15(平成27)年9月の試行訓練以来、ナイロビ(ケニア)にある国際平和支援訓練センターに自衛官を教官として派遣しており、18(平成30)年6月から10月には同訓練センターにおいて、被教育者の重機操縦練度に応じて効率的かつ多くの隊員を訓練できるように、初級及び中級の2種類の訓練を年2回ずつ実施することとし、これに自衛官を派遣し、ガーナ国軍などの要員に対して施設機材操作訓練を実施した。これまで、7回の訓練を、アフリカの8か国 211名の要員に対して実施してきている。

また、PKO要員の30%以上がアジアから派遣されていることを踏まえ、施設要員に対する重機の操作訓練を実施する本プロジェクトを初めてアジア及び同周辺地域で行うこととした。18(平成30)年11月から12月にベトナムで試行訓練を行い、ベトナム、インドネシアなどアジア及び同周辺地域の9か国16名の要員に対して実施した。

7 国連PKO工兵部隊マニュアルの改訂

防衛省・自衛隊は、国際平和協力活動において、より主導的な役割を果たすため、13(平成25)年以降、国連が進める国連PKO部隊マニュアル5の策定を支援することを目的に、工兵(施設)に関する分科会の議長国を務め、国連PKO工兵部隊マニュアルの完成に寄与した。

国連より、同マニュアルを改訂するにあたり、再度議長国の依頼を受けた。防衛省・自衛隊にとって、これまでのPKOミッションなどへの派遣を通じて蓄積した経験・能力を活かした貢献を実施できる有意義な機会であり、工兵部隊マニュアルの改訂を担う議長国に再度就任することとした。マニュアル改訂作業のために、第1回の専門家会合を18(平成30)年12月に東京で開催した。

防衛省・自衛隊としては、引き続きマニュアルの改訂作業を続けるとともに、同マニュアルの普及に向け支援していく。

3 II部4章1節脚注2参照

4 国連、国連PKOの要員派遣国及び技術や装備を有する第三国間の協力により、国連PKOの要員派遣国の要員の能力向上を支援するパートナーシップ

5 国連は、PKO派遣部隊に求められる能力の明確化と参加国の理解促進を目的として、職種ごとに、その目的、能力、任務などを規定するマニュアルを作成しており、PKO工兵部隊マニュアルはその1つである。国連PKOマニュアルは、工兵以外に、憲兵、航空、海上、偵察、河川、通信、特殊部隊、輸送、後方支援及び司令部支援の計10個の分野が存在している。