Contents

第II部 わが国の安全保障・防衛政策

4 わが国を取り巻く安全保障環境

1 現在の安全保障環境の特徴

新たな防衛計画の大綱を策定するためには、その背景となるわが国を取り巻く安全保障環境の現実をしっかりと分析することが必要である。

新防衛大綱では、現在の安全保障環境の特徴について次のように分析した。

国際社会においては、中国などのさらなる国力の伸長などによるパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性が増している中、自らに有利な国際秩序・地域秩序の形成などを目指した、政治・経済・軍事にわたる国家間の競争が顕在化している。

このような国家間の競争は、軍や法執行機関を用いて他国の主権を脅かすことや、ソーシャル・ネットワークなどを用いて他国の世論を操作することなど、多様な手段により、平素から恒常的に行われている。

また、いわゆるグレーゾーンの事態が今後、増加・拡大していく可能性があり、さらに明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらんでいる。それとともに、いわゆる「ハイブリッド戦」のような、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法が、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いている。

また、情報通信などの分野における急速な技術革新に伴い、軍事技術の進展は目覚ましいものとなっている。こうした技術の進展を背景に、現在の戦闘様相は、陸・海・空のみならず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を組み合わせたものとなり、各国は、こうした新たな領域における能力を裏付ける技術の優位を追求している。

軍事技術の進展により、現在では、様々な脅威が容易に国境を越えてくるものとなっている。さらに、各国は、ゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術を活用した兵器の開発に注力するとともに、人工知能(AI)を搭載した自律型の無人兵器システムの研究にも取り組んでいる。今後のさらなる技術革新は、将来の戦闘様相をさらに予見困難なものにするとみられる。

国際社会においては、一国のみでの対応が困難な安全保障上の課題が広範化・多様化している。宇宙領域やサイバー領域に関しては、国際的なルールや規範作りが安全保障上の課題となっている。海洋においては、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づいて自国の権利を一方的に主張し、又は行動する事例がみられ、公海における自由が不当に侵害される状況が生じている。また、核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散及び深刻化する国際テロは、引き続き、国際社会にとっての重大な課題である。

こうした中、わが国の周辺には、質・量に優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力のさらなる強化や軍事活動の活発化の傾向が顕著となっている。

2 各国の動向

新防衛大綱は、国際社会の、そしてとりわけ、わが国周辺の安全保障環境を形作る中心的な国々の軍事動向について次のように分析した。

米国は、あらゆる分野における国家間の競争が顕在化する中で、世界的・地域的な秩序の修正を試みる中国やロシアとの戦略的競争が特に重要な課題であるとの認識を示しつつ、軍事力の再建のため、技術革新などによる全ての領域における軍事的優位の維持、核抑止力の強化、ミサイル防衛能力の高度化などに取り組んでいる。

中国は、今世紀中葉までに「世界一流の軍隊」を建設することを目標に、透明性を欠いたまま、高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化しつつ、特に宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における優位の獲得やミサイル防衛を突破する能力の向上などを図っている。さらに、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした一方的な現状変更を試みるとともに、東シナ海をはじめとする海空域において、軍事活動を拡大・活発化させている。中国の軍事動向などについては、国防政策や軍事力の不透明性とあいまって、わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。

尖閣諸島周辺で活動する中国公船【海上保安庁提供】

尖閣諸島周辺で活動する中国公船【海上保安庁提供】

北朝鮮は、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を表明しものの、全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄は行っておらず、北朝鮮の核・ミサイル能力に本質的な変化は生じていない。サイバー領域における大規模な部隊保持、重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられ、大規模な特殊部隊を保持している。このような北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっている。

ロシアは、核戦力を中心に軍事力の近代化に向けた取組を継続することで軍事態勢の強化を図っており、また、北極圏、欧州、米国周辺、中東に加え、北方領土を含む極東においても軍事活動を活発化させる傾向にあり、その動向を注視していく必要がある。

3 わが国の特性

新防衛大綱では、わが国の特性について次のように指摘した。

海洋国家であるわが国にとって「開かれ安定した海洋」の秩序を強化し、海上交通及び航空交通の安全を確保することが、平和と繁栄の基礎である。

一方、わが国は、大きな被害を伴う自然災害が多発することに加え、都市部に産業・人口・情報基盤が集中するとともに、沿岸部に原子力発電所などの重要施設が多数存在している。

これらに加えて、わが国においては、人口減少と少子高齢化が経験をしたことのない速度で急速に進展している。

4 まとめ

新防衛大綱は、以上の状況を踏まえ、今日のわが国を取り巻く安全保障環境については、主要国間の大規模武力紛争の蓋然性は引き続き低いと考えられるとしつつ、25大綱を策定した際に想定したものよりも、格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増しているとしている。

その上で、わが国に対する脅威が現実化し、国民の命と平和な暮らしを脅かすことを防ぐためには、この現実を踏まえた措置を講ずることが必要となっている旨明示した。