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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

8 大規模災害などへの対応

自衛隊は、自然災害をはじめとする災害の発生時には、地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索・救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送などの様々な活動を行っている。

1 災害派遣などの概要

災害派遣は、都道府県知事などが、災害に際し、防衛大臣又は防衛大臣の指定する者へ部隊などの派遣を要請し、要請を受けた防衛大臣などが、やむを得ない事態と認める場合に派遣することを原則としている30。これは、都道府県知事などが、区域内の災害の状況を全般的に把握し、都道府県などの災害救助能力などを考慮したうえで、自衛隊の派遣の要否などを判断するのが最適との考えによるものである。ただし、大規模地震対策特別措置法に基づく警戒宣言31又は原子力災害対策特別措置法に基づく原子力緊急事態宣言が出されたときには、防衛大臣は、地震災害警戒本部長又は原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)の要請に基づき、派遣を命じることができる。

また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うための初動対処態勢を整えており、この部隊を「FAST-Force(ファスト・フォース)」と呼んでいる。

参照図表III-1-2-15(要請から派遣、撤収までの流れ)
図表III-1-2-16(大規模災害などに備えた待機態勢(基準))

図表III-1-2-15 要請から派遣、撤収までの流れ

図表III-1-2-16 大規模災害などに備えた待機態勢(基準)

2 防衛省・自衛隊の対応
(1)自然災害への対応

ア 台風第10号に伴う大雨にかかる災害派遣

  1. ①16(平成28)年8月30日、台風第10号による大雨により道路の冠水、土砂崩れなどが発生し、岩手県釜石市橋野町及び下閉伊郡岩泉町で孤立者が発生した。同日、岩手県知事からの災害派遣要請を受け、自衛隊は、同年9月16日までの間、孤立者の救助、給水支援、道路啓開、人員及び物資輸送、給食支援、入浴支援を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約2,090名、車両延べ約690両、航空機延べ77機に上った。
  2. ②同年同月31日、台風第10号による大雨により、北海道十勝地方及び上川地方において孤立者や断水などが発生した。同日、北海道知事からの災害派遣要請を受け、自衛隊は、上川地方については同年9月6日までの間、十勝地方については同月18日までの間、孤立者の救助、行方不明者捜索、給水支援、入浴支援、水防活動及び物資輸送を実施した。

本派遣の規模は、人員延べ約1,705名、車両延べ約790両、航空機延べ19機、偵察ボート延べ5隻に上った。

イ 鳥取県中部を震源とする地震にかかる災害派遣

16(同28)年10月21日、鳥取県中部を震源とする地震(マグニチュード6.6)が発生し、鳥取県倉吉市、湯梨浜町及び北栄町で最大震度6弱を観測した。この地震により、鳥取県倉吉市内において断水が発生したことから、同日、鳥取県知事からの災害派遣要請を受け、自衛隊は、同年10月28日までの間、給水支援、公共施設等周辺整備を実施した。

本派遣の規模は、人員延べ約620名、車両延べ約140両、航空機延べ13機に上った。

ウ 鳥インフルエンザにかかる災害派遣

16(同28)年11月から17(同29)年3月にかけて、北海道、宮城県、千葉県、新潟県、岐阜県、佐賀県、熊本県、宮崎県の養鶏農場などにおいて、高病原性鳥インフルエンザの発生が確認され、速やかに鶏の殺処分などの防疫措置を行う必要が生じた。自衛隊は、各道県知事からの災害派遣要請を受け、鶏の殺処分などを実施した。

本派遣の規模は、北海道1件、宮城県1件、千葉県1件、新潟県2件、岐阜県1件、佐賀県1件、熊本県1件、宮崎県2件の合わせて10件で、人員延べ約9,105名、車両延べ約1,500両に上った。

エ 山林火災にかかる災害派遣

17(同29)年4月から5月にかけて発生した山林火災のうち、岩手県、福島県、長野県、静岡県において、自治体により消火活動を実施するも鎮火に至らず、このため自衛隊は、各県知事からの災害派遣要請を受け、空中消火活動などを実施した。

本派遣の規模は、岩手県1件、福島県2件、長野県1件、静岡県1件の計5件で、人員延べ約2,735名、車両延べ555両、航空機延べ182機、散水量約9,881.5t、散水回数2,483回に上った。

参照図表III-1-2-17(災害派遣の実績(平成28年度))
資料43(災害派遣の実績(過去5年間))

図表III-1-2-17 災害派遣の実績(平成28年度)

(2)救急患者の輸送など

自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送(急患輸送)している。平成28(2016)年度の災害派遣総数516件のうち、409件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などへの派遣が大半を占めている。

また、他機関の航空機では航続距離が短いなどの理由で対応できない、本土から遠く離れた海域で航行している船舶からの急患輸送や、火災、浸水、転覆など緊急を要する船舶での災害の場合については、海上保安庁からの要請に基づき海難救助を実施しているほか、状況に応じ、機動衛生ユニットを用いて重症患者をC-130H輸送機にて搬送する広域医療搬送も行っている。

さらに、平成28(2016)年度には、57件の消火支援を実施しており、そのうち、53件が自衛隊の施設近傍の火災への対応であった。

航海中の客船「飛鳥II」甲板からホイストで救急患者を救難機へと収容する海自第73航空隊機上救護員(17(平成29)年5月)

航海中の客船「飛鳥II」甲板からホイストで
救急患者を救難機へと収容する海自第73航空隊機上救護員(17(平成29)年5月)

空自小牧基地において機動衛生ユニットによる急患輸送を行う隊員(16(平成28)年10月)

空自小牧基地において機動衛生ユニットによる
急患輸送を行う隊員(16(平成28)年10月)

(3)原子力災害への対応

防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、「自衛隊原子力災害対処計画」を策定している。また、国、地方公共団体、原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、自治体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。さらに、14(同26)年10月以降、内閣府(原子力防災担当)に自衛官(17(同29)年4月1日現在5人)を出向させ、原子力災害対処能力の実効性の向上に努めている。

(4)各種対処計画の策定

防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、統合運用を基本としつつ、要員のローテーション態勢を整備することで、長期間にわたる対処態勢の持続を可能とする態勢を整備している。その際、東日本大震災などの教訓を十分に踏まえることとしている。

また、防衛省・自衛隊は、中央防災会議で検討されている大規模地震に対応するため、防衛省防災業務計画に基づき、各種の大規模地震対処計画を策定している。

(5)自衛隊が実施・参加する訓練

自衛隊は、大規模災害など各種の災害に迅速かつ的確に対応するため、各種の防災訓練を実施しているほか、国や地方公共団体などが行う防災訓練にも積極的に参加し、各省庁や地方自治体などの関係機関との連携強化を図っている。

ア 自衛隊統合防災演習(JXR:Joint Exercise for Rescue)

16(同28)年6月から7月にかけて、南海トラフ地震を想定して机上演習及び指揮所演習を行い、自衛隊の震災対処能力の向上を図った。

イ 離島統合防災訓練(RIDEX:Remote Island Disaster Relief Exercise)

16(同28)年9月、沖縄県が計画する沖縄県総合防災訓練に参加し、離島における突発的な大規模災害への対処について実動による訓練を実施し、関係機関などとの連携の強化及び自衛隊の離島災害対処能力の維持・向上を図った。

離島統合防災訓練において海自輸送艦「おおすみ」への陸自車両搭載(16(平成28)年8月)

離島統合防災訓練において海自輸送艦「おおすみ」への陸自車両搭載
(16(平成28)年8月)

ウ その他

16(同28)年7月には、陸自中部方面隊が南海トラフ地震を想定した訓練(南海レスキュー28)を、17(同29)年3月には陸自東部方面隊が首都直下地震を想定した訓練を実施するなど、震災対処能力の向上を図った。

参照資料44(災害派遣にかかる主な訓練の実施及び参加実績(平成28年度))

大規模地震医療活動訓練において羽田空港で空輸した患者を救急車に引き継ぐ陸自第1ヘリ団(16(平成16)年8月)

大規模地震医療活動訓練において羽田空港で空輸した患者を
救急車に引き継ぐ陸自第1ヘリ団(16(平成16)年8月)

(6)地方公共団体などとの連携

災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などと連携を強化することが重要である。このため、①自衛隊地方協力本部に国民保護・災害対策連絡担当官(事務官)を設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)及び事務官による相互交流(陸自中部方面総監部と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。17(同29)年3月末現在、全国46都道府県・271市区町村に402人の退職自衛官が、地方公共団体の防災担当部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化するうえで極めて効果的であり、東日本大震災などにおいてその有効性が確認された。特に、陸自各方面隊は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。

参照資料74(退職自衛官の地方公共団体防災関係部局における在職状況)

30 海上保安庁長官、管区海上保安本部長及び空港事務所長も災害派遣を要請できる。災害派遣、地震防災派遣、原子力災害派遣について、①派遣を命ぜられた自衛官は、自衛隊法に基づく権限を行使できる。②災害派遣では予備自衛官及び即応予備自衛官に、地震防災派遣又は原子力災害派遣では即応予備自衛官に招集命令を発することができる。③必要に応じ特別の部隊を臨時に編成することができる。

31 気象庁長官から、地震予知情報の報告を受けた場合において、地震防災応急対策を行う緊急の必要があると認めるとき、閣議にかけて、地震災害に関する警戒宣言を内閣総理大臣が発する。