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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第8節 欧州

1 全般

冷戦終結以降、欧州の多くの国では、欧州域内やその周辺における地域紛争の発生、国際テロリズムの台頭、大量破壊兵器の拡散、サイバー空間における脅威の増大といった多様な安全保障課題に対処する必要性が認識されてきた一方で、国家による大規模な侵攻の脅威は消滅したと認識されてきた。しかし、14(平成26)年2月以降のウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシアによる力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」に対応すべく、既存の戦略の再検討や新たなコンセプト立案の必要に迫られている。また、国際テロリズムに関しては、15(同27)年11月のパリ同時多発テロや16(同28)年3月のブリュッセルにおける連続爆破テロなど、各国国内におけるテロとみられる事案の発生を受け、その対応が急務となっている1。こうした状況のもと、厳しい財政状況により国防費や兵力を縮小する傾向は、最近になって変化が生じている。NATO加盟国は14(同26)年、国防支出を24(同36)年までに対GDP比2%以上の額とすることで合意した。17(同29)年5月のNATO首脳会合において、トランプ米大統領は対GDP比2%以上の国防支出を、未達成国に強く要求した2。また、10(同22)年から12(同24)年にかけて、アラブ世界で広がった民主化運動「アラブの春」以降、弾圧や迫害を逃れて自国を脱出する人の数が急増していることを背景に、中東地域などからの難民が増えている。特に15(同27)年以降はシリア内戦の長期化に伴い、欧州に流入する難民・移民の数が急増したが、最近は落ち着き始めている。しかし、依然として国境の安全確保が課題となっており、こうした課題・状況に対処するため、欧州では、北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)や欧州連合(EU:European Union)といった多国間の枠組みをさらに強化・拡大3しつつ、欧州域外の活動にも積極的に取り組むなど、国際社会の安全・安定のために貢献している。また、各国レベルでも、安全保障・防衛戦略の見直しや国防改革、二国間4・多国間5での防衛・安全保障協力強化を進めている。

参照図表I-2-8-1(NATO・EU加盟国の拡大状況)

図表I-2-8-1 NATO・EU加盟国の拡大状況

1 16(平成28)年7月にはフランスのニースでISILに感化された人物が運転するトラックが民衆に突入する事案、同年12月にはドイツのベルリンでトラックがクリスマスマーケットに突入する事案、17(同29)年3月にはイギリスのロンドンで車両が歩行者の列に突入するなどの事案、同年5月には同国中部のマンチェスターで自爆テロが発生した。各国は警備体制の見直しや入国管理の強化などの対策を行っている。3章1節参照

2 NATO加盟国は14(平成26)年、国防支出を24(同36)年までに対GDP比2%以上の額とすることで合意したが、16(同28)年は加盟国28ヵ国中5ヵ国(米国、英国、ギリシャ、エストニア、ポーランド)しかこの基準を満たしておらず、現在、NATO加盟国全体の国防費総計の約7割を米国が占めている。17(同29)年2月のNATO国防相会合の際のNATO事務総長とマティス国防長官の共同会見にて、NATO事務総長が、「米国は加盟国がより多くの国防費を支出し、より公平な負担分担する必要性について明確にした」と述べ、マティス米国防長官は「世界最高の防衛に対する全ての受益国が、自由を守るために必要な相応のコストを共有することは公平な要求であり、完全に適切である」旨の見解を示した。

3 NATOは、欧州・大西洋地域全体の安定を目的として、中・東欧地域への拡大を継続しており、15(平成27)年12月にNATOの外相会合はモンテネグロに加盟招請を行い、17(同29)年6月にモンテネグロがNATOに加盟した。NATOの加盟国拡大は09(同21)年のアルバニアとクロアチア以来となる。現在、マケドニア及びボスニア・ヘルツェゴビナの2か国が、将来的に加盟国となる準備を支援するプログラムである「加盟のための行動計画」(MAP:Membership Action Plan)への参加(ボスニア・ヘルツェゴビナは条件付で)を認められている。ウクライナ、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニア、カザフスタン及びモルドバの6か国については、NATOとの政治的な協力関係を深めようとする国に対し提供されるプログラムである「個別のパートナーシップ行動計画」(IPAP:Individual Partnership Action Plan)などの枠組みにおいて、欧州・大西洋地域への統合の取組を支援しており、MAPへの参加は現在のところ未定である。

4 例えば、英国とフランスは10(平成22)年11月の首脳会議において、二国間の防衛・安全保障協力に関する条約と、核施設の共用などに関する条約に署名した。また、14(同26)年1月に開かれた英仏首脳会談では、「安全保障・防衛に関する宣言文書」が採択され、対艦ミサイルの共同開発や無人攻撃機の共同研究、16(同28)年までに共同統合派遣部隊の運用開始を目指すことなどで合意し、12(同24)年から16(同28)年にかけて共同訓練を数回実施した。

5 例えば、10(平成22)年9月に、フランス、ドイツ、オランダ及びベルギーの欧州4か国が、C-130やA-310といった各国の輸送機及び空中給油機約150機を共同で運用する欧州航空輸送司令部(EATC:European Air Transport Command)を創設した。12(同24)年にはルクセンブルク、14(同26)年7月にはスペイン、12月にはイタリアが新たに参加している。