Contents

コラム

防衛白書トップ > コラム > <解説>南沙諸島の地形開発による安全保障上の影響

<解説>南沙諸島の地形開発による安全保障上の影響

南シナ海の中心から南に広がる南沙諸島では、様々な国が地形開発を行っています。本コラムでは近年急速かつ大規模に地形開発を強行している中国の活動に焦点を当て、その安全保障上の影響について考察します。

まず、中国が南沙諸島に港湾を建設し、軍艦艇や公船などの展開・補給・整備能力を確保した場合、中国は南シナ海全域に軍艦艇や公船を常続的に配備・展開することが可能になります。その結果、中国の南シナ海における警戒監視・作戦遂行能力は大幅に向上する可能性があります。

次に、ファイアリークロス礁での滑走路建設により、中国は様々な航空戦力の前方展開、補給などが可能になります。また、南沙諸島へのレーダー施設の配備は、中国による南シナ海における警戒監視能力を著しく向上させることになります。こうした状況は、中国にとって、南シナ海全域での戦力投射能力の向上や航空優勢獲得の容易化、ひいては「A2/AD」能力の向上に繋がる可能性があります。さらに、中国はスビ礁やミスチーフ礁でも滑走路建設を行っているとみられ、これらが完成すれば、中国の航空プレゼンスは一層増大し、将来的には「南シナ海防空識別区」設定の可能性もあります。

わが国にとって、南シナ海における「公海自由の原則」及びシーレーンの安全確保は重要な関心事項です。中国による地形開発とその軍事利用が進む場合、周辺国などとの緊張が一層高まると同時に、シーレーンの安定的利用に対するリスク増大など、安全保障上の影響が否定できないと考えられます。

南シナ海を巡る問題は、アジア太平洋地域の平和と安定に直結する国際社会全体の関心事項であり、引き続き中国の活動を含め、南シナ海における情勢を注視する必要があります。