多摩川精機株式会社 第一事業所長
熊谷 隆志(くまがい たかし)
当社は、1938(昭和13)年に多摩川のほとりで創業し、その後創業者の出身地である長野県飯田市に工場を建設、太平洋戦争中は飛行機の油量計を製造していました。戦後は角度センサやサーボモータ、ジャイロ装置などをスタートに、角度精度にこだわった製品開発を進め、防衛事業に携わらせていただいています。近年では、戦車・戦闘車両搭載機器(電力増幅器、スリップリング、砲塔旋回・ふ仰モータなど)のほか、飛しょう体用管制装置、地上装置、航空機、艦船搭載機器などの上位機器も手掛けています。
当社の特徴の一つは創業の原点である巻線を使ったセンサであり、防衛・航空・宇宙で使用いただく角度センサやモータの巻線のほとんどは女性による手巻き作業にて製造しています。高精度の角度センサのマグネットワイヤ径は0.1mm 以下であり、巻線時のテンションを指の感覚で一定に保ちながら間違いなく数十のコイル束を鉄心に入れる匠の技によって高精度な製品を実現することができます。
当社は従来から巻線作業は女性の仕事として技術伝承を行ってきており、一人前に巻線ができるまでには最低5年はかかることから、結婚・出産しても引き続き勤務できる職場環境作りに努めて参りました。これからも品質を確実に確保できる体制維持に努めて参ります。
車長用潜望鏡、砲手用潜望鏡の部品となるレゾルバ(角度センサ)の巻線作業の様子
株式会社四ツ井工作所 代表取締役社長
四ツ井 泰彦(よつい やすひこ)
当社は1917(大正6)年の創立以来およそ100年にわたり、神戸において建造所の下請として造船業に携わってきました。現在は受注品のほぼ100%が防衛関連の製品で、潜水艦および護衛艦部品の製造・修理を中心に行っています。特に潜水艦に関しては戦後初の初代「おやしお」(57(昭和32)年起工)から携わり、長年の経験と実績に基づく製造技術により高品質な製品供給を維持しています。
潜水艦機器の製造においては、その性格上、深度耐圧が非常に重要な要素となります。水中は宇宙空間と同じで、ほんのわずかな隙間が乗員の危機に直結します。映画のワンシーンに、通路のハッチを締め隣の区画への浸水を防ぐ場面が登場しますが、このハッチの製造には細心の注意力と長年の経験が必要であり、1/1000ミリ単位のすり合わせ技術をもって初めて完成することができます。この様に機械加工だけでは対応のできない経験に基づく技術を継承するため、過去10年間若年作業員を連続採用し、高齢技能者からの技能継承を積極的に進めています。
世間では最近の若者のものづくり離れがよく言われていますが、作業員に「国防の一翼を担っている。」という意識を持たせることにより、「高品質」「仕事への情熱」が維持できるものと考えています。
すり合わせ作業の様子(イメージ)
潜水艦「そうりゅう」
株式会社フジワラ 専務取締役 航空機部門長
松島 雄一郎(まつしま ゆういちろう)
当社は戦後まもなく名古屋で創業し、68年にわたり防衛関係の航空機およびヘリコプター用風防製品を製造している国内唯一のメーカーです。
この風防は、主にアクリル樹脂に特殊な加工を施し、高強度で、精度の高い複雑な形状の半製品に成形、さらに、パイロットの視界の障害となるような光学的ゆがみなどを、目で確認しながら、長年の経験により会得した繊細な技を駆使し、ひたすら磨き、完全に除去して製品を完成させていきます。
光学的な要求を満足させるためには、規格や基準では明確に表すことのできない、人間の『感覚』や『感性』に頼る部分が非常に大きく、風防製品の生産は、10年以上のベテラン技能者の技により、支えられていると言っても過言ではありません。しかし、長い目で事業計画を立てることが難しいため、熟練者の高齢化が急速に進み、若手の採用が途絶えた時期が長かったこともあり、技能の伝承は思うように進まず、高齢者の雇用延長で何とか凌いでいるのが実情です。育成に長期を要する技能の伝承には、切れ目のない若年者の確保と継続的な作業の確保が必要であると痛感する次第です。
風防の研磨作業の様子
T-4ブルーインパルス