22大綱において構築していくこととされた「動的防衛力」においては、ISR(Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance)(情報収集・警戒監視・偵察)活動などの常時継続的かつ戦略的な実施などによる抑止の考え方が提示された。しかしながら、純然たる平時でも有事でもない、いわばグレーゾーンの事態の増加および長期化の傾向が見られ、かつ、これらがより重大な事態に転じる可能性が懸念されるなど、わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。そのため、22大綱の考え方によっては、状況に即応する十分な抑止力を維持・構築できない可能性が生じた。それらの状況を踏まえ、新防衛大綱では、事態の状況の推移に応じて訓練・演習などを戦略的に実施し、また、安全保障環境に即した部隊配置と機動的な部隊展開を含む対処態勢を迅速に構築することにより、わが国の防衛意思と高い能力を示し、事態の深刻化を抑制することとした。これは、一層厳しさを増した安全保障環境に対応して、より烈度の高い事態に対応し得るように、ISR活動を中心とした22大綱の抑止概念に代わる新たな抑止力の考え方を示したものである。
また、22大綱策定時の防衛大臣談話においては、「装備の質と量の確保のみならず、自衛隊の活動量を増していくことを主眼」とするとされたものの、「動的防衛力」は防衛力の「質」と「量」を整備するための防衛力整備の論理を内包していない概念であったため、防衛力の「活動量」の増大のみに焦点が当たっていた。そのため、これまでよりもさらに実効性を求められる自衛隊の活動を下支えする防衛力の「質」と「量」の確保が必ずしも十分とはいえない状況と言わざるを得なかった。
新防衛大綱で示した「統合機動防衛力」は、そうした状況を踏まえ、特に現在の安全保障環境において実効的な抑止力を構築するには、活動量だけでなく防衛力の「質」と「量」の十分な確保が必要であるとの観点から、想定される各種事態について、統合運用を踏まえた能力評価をはじめて実施した。そのうえで、総合的な観点から特に重視すべき機能・能力を導き出し、海上優勢および航空優勢の確実な維持に加え、機動展開能力の整備などを重視し、必要な防衛力の「質」と「量」を確保するとともに、多様な活動を実効的に行うための幅広い後方支援基盤を強化することとしたものである。