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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

5 自衛隊の能力などに関する主要事業

1 各種事態における実効的な抑止および対処

新防衛大綱における防衛力の役割に示された、重視すべき事態への対応ごとに、各自衛隊の装備品の整備などの各種事業を行うこととしている。

参照図表II-5-1-3(「各種事態における実効的抑止および対処」にかかる事業)

図表II-5-1-3 「各種事態における実効的抑止および対処」にかかる事業

ティルト・ローター機の画像

ティルト・ローター機(イメージ)

新型護衛艦の画像

新型護衛艦(イメージ)

(1)周辺海空域における安全確保

広域において常続監視を行い、各種兆候を早期に察知する態勢を強化する。

(2)島嶼部に対する攻撃への対応

ア 常続監視体制の整備

常続監視に必要な体制を整備し、各種事態発生時に迅速に対処する。

イ 航空優勢の獲得・維持

巡航ミサイル対処能力を含む防空能力の総合的な向上を図る。

ウ 海上優勢の獲得・維持

常続監視や対潜戦などの各種作戦の効果的な遂行により、周辺海域を防衛する。

エ 迅速な展開・対処能力の向上

迅速かつ大規模な輸送・展開能力を確保し、実効的な対処能力の向上を図る。

参照図表II-5-1-4(南西地域への機動展開イメージ)

図表II-5-1-4 南西地域への機動展開イメージ

オ 指揮統制・情報通信体制の整備

統合機能の充実の観点から、島嶼部をはじめとする所要の地域に迅速に集中できる指揮統制体制を確立する。また、全国的運用を支えるための前提となる情報通信能力について、島嶼部における基盤通信網を強化する。

(3)弾道ミサイル攻撃への対応

北朝鮮の弾道ミサイル能力向上を踏まえ、わが国の弾道ミサイル対処能力の総合的な向上を図る。

また、弾道ミサイル防衛用の新たな装備品も含め、将来の弾道ミサイル防衛システム全体のあり方についての検討を行う。

弾道ミサイル攻撃にあわせ、同時並行的にゲリラ・特殊部隊による攻撃が発生した場合を考慮し、警戒監視態勢の向上、原子力発電所などの重要施設の防護および侵入した部隊の捜索・撃破のため、引き続き必要な装備品などを整備する。

(4)宇宙空間およびサイバー空間における対応

ア 宇宙利用の推進

様々なセンサーを有する各種の人工衛星を活用した情報収集能力を引き続き充実させるほか、高機能なXバンド衛星通信網の着実な整備により、指揮統制・情報通信能力を強化する。また、宇宙状況監視にかかる取組や人工衛星の防護にかかる研究を積極的に推進し、人工衛星の抗たん性の向上に努める。

イ サイバー攻撃への対応

自衛隊の各種の指揮統制システムや情報通信ネットワークの抗たん性の向上、情報収集機能や調査分析機能の強化、サイバー攻撃対処能力の検証が可能な訓練環境の整備など、所要の態勢整備を行う。その際、攻撃側が圧倒的に優位であるサイバー空間での対処能力を確保するため、相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力の保有の可能性についても視野に入れる。

(5)大規模災害などへの対応

各種の災害に際し十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、統合運用を基本としつつ、要員のローテーション態勢を整備することで、長期間にわたる対処態勢の持続を可能とする。その際、東日本大震災の教訓を十分に踏まえるものとする。

(6)情報機能の強化

高度な情報機能は、防衛省・自衛隊がその役割を十分に果たしていくための基礎となるものであり、情報の収集・分析・共有・保全などの全ての段階において情報能力を総合的に強化する。

情報収集施設の整備や能力向上、宇宙空間や滞空型無人機の積極的活用などを進め、電波情報や画像情報を含む多様な情報源に関する情報収集能力を抜本的に強化する。その際、地理空間情報に関し、画像・地図上において各種情報を融合して情勢の可視化・将来予測などを行うなど、その高度な活用を実現するとともに、データ基盤の統合的かつ効率的な整備を行う。また、防衛駐在官の新規派遣のための増員をはじめとして、人的情報収集機能の強化に資する措置を講ずるほか、同盟国などとの協力や公開情報の収集態勢の強化などにより、海外情報の収集・分析能力を強化する。

2 アジア太平洋地域の安定化およびグローバルな安全保障環境の改善

新中期防においては、①訓練・演習の実施、②防衛協力・交流の推進、③能力構築支援の推進、④海洋安全保障の確保、⑤国際平和協力活動の実施、⑥軍備管理・軍縮および不拡散の努力への協力に区分して、具体的な施策を掲げている。

参照図表II-5-1-5(「アジア太平洋地域の安定化およびグローバルな安全保障環境の改善」にかかる事業)

図表II-5-1-5 「アジア太平洋地域の安定化およびグローバルな安全保障環境の改善」にかかる事業

3 防衛力の能力発揮のための基盤
(1)訓練・演習

全国の部隊による北海道の良好な訓練環境の活用を拡大し、効果的な訓練・演習を行うほか、輸送艦や民間輸送力の積極的な活用や部隊の機動性の向上を進める。また、各種事態に国として一体的に対応し得るよう、警察、消防、海上保安庁などの関係機関との連携を強化するとともに、各種事態のシミュレーションや総合的な訓練・演習を平素から計画的に実施する。

(2)運用基盤

駐屯地・基地などの抗たん性を高め、特に、滑走路や情報通信基盤の維持をはじめとする駐屯地・基地などの各種支援機能を迅速に復旧させる能力を強化する。また、各種事態発生時に民間空港・港湾の自衛隊による速やかな使用を可能とするための施策を推進する。

(3)人事教育

技能、経験、体力、士気などの様々な要素を勘案しつつ、精強性を維持・向上するとともに、厳しい財政事情のもとで人材を効果的に活用するため、長期的に実行可能な施策を推進する。

ア 階級構成および年齢構成など

各部隊などの特性を踏まえた階級構成を実現するため、所要の能力を有する幹部・准曹を適正な規模で確保・育成し、質の高い士を計画的に確保するための施策を推進する。

適正な年齢構成を確保するため、60歳定年職域の定年のあり方を見直すとともに、幹部・准曹・士の各階層において年齢構成の適正化のための施策を講ずるほか、新たな中途退職制度に関する研究を行う。また、航空機操縦士を民間部門に操縦士として再就職させる施策(割愛)を実施する。

イ 人材の有効活用など

女性自衛官のさらなる活用を進めるとともに、高度な知識・技能・経験を有する隊員について、総合的に精強性の向上に資すると認められる場合には、積極的に再任用を行う。また、隊員が高い士気と誇りを持って任務を遂行するため、防衛功労章の拡充をはじめ、栄典・礼遇に関する施策を推進する。

ウ 募集および再就職支援

自衛隊が就職対象として広く意識されるよう、国の防衛や安全保障に関する理解を促進するための環境整備、時代の変化に応じた効果的な募集広報、関係府省・地方公共団体などとの連携・協力の強化を推進する。

また、地方公共団体や関係機関との連携を強化しつつ、退職自衛官の知識・技能・経験を社会に還元するとの観点から、退職自衛官の雇用企業などに対するインセンティブを高めるための施策の検討や公的部門における退職自衛官のさらなる活用などを進め、再就職環境の改善を図る。

エ 予備自衛官などの活用

より多様化・長期化する事態における持続的な部隊運用を支えるため、即応予備自衛官および予備自衛官の幅広い分野での活用を進める。司令部などへの勤務も想定した予備自衛官の任用などを進めるとともに、招集訓練を充実させる。また、民間輸送力の積極的な活用に向け、艦船の乗組員としての経験を有する者を含む予備自衛官の活用について検討のうえ、必要な措置を講ずるほか、割愛により再就職する航空機操縦士など、専門的技能を要する予備自衛官の任用を推進する。さらに、制度の周知を図るとともに、本人や雇用企業などに対するインセンティブを高めるための施策を実施する。

(4)衛生

自衛隊病院の拠点化・高機能化や病院・医務室間のネットワーク化を進め、地域医療にも貢献しつつ、防衛医科大学校病院などの運営の改善も含め、効率的かつ質の高い医療体制の確立を図る。また、事態対処時における救急救命措置にかかる制度改正を含めた検討を行い、第一線の救護能力の向上や統合機能の充実の観点を踏まえた迅速な後送態勢の整備を図る。

(5)防衛生産・技術基盤

わが国の防衛生産・技術基盤全体の将来ビジョンを示す戦略を策定し、わが国として強みを有する技術分野を活かした、諸外国との国際共同開発・生産などを積極的に進めるとともに、防衛省・自衛隊が開発した装備品の民間転用を進める。これらの推進にあたっては、民間事業者と国の双方に裨益(ひえき)するものとなるよう検討する。

(6)装備品の効率的な取得

プロジェクト・マネージャーの仕組みを制度化し、装備品の構想段階から廃棄段階に至るまでそのライフサイクルを通じ、一貫したプロジェクト管理を強化する。また、装備品の取得業務にかかる専門的な知識・技能・経験が必要とされる人材について、民間の知見も活用し、積極的に育成・配置する。さらに、ライフサイクルコストにかかる見積と実績との間で一定以上の乖離(かいり)が生じた場合には、仕様や事業計画の見直しを含めた検討を行う制度を整備する。

取得業務の迅速かつ効率的な実施のため、透明性・公平性を確保しつつ、随意契約が可能な対象を類型化・明確化し、その活用を図る。企業の価格低減インセンティブを引き出すための契約制度のさらなる整備、さらなる長期契約の導入の可否、国際競争力を有する各企業の技術の結集を可能とする共同企業体の活用といった柔軟な受注体制の構築などについても検討のうえ、必要な措置を講ずる。

(7)研究開発

厳しい財政事情のもと、費用対効果を踏まえつつ、自衛隊の運用にかかるニーズに合致した研究開発を優先的に実施する。

また、防空能力の向上のため、将来地対空誘導弾の技術的検討を進める。このほか、将来戦闘機に関し、国際共同開発の可能性も含め、戦闘機(F-2)の退役時期までに開発を選択肢として考慮できるよう、国内において関連技術の蓄積・高度化を図るため、実証研究を含む戦略的な検討を推進し、必要な措置を講ずる。また、警戒監視能力の向上のため、電波情報収集機の開発のほか、新たな固定式警戒管制レーダーや複数のソーナーの同時並行的な利用により探知能力を向上させたソーナーの研究を推進する。加えて、大規模災害を含む各種事態発生時に柔軟な運用が可能な無人装備などの研究を行うほか、既存装備品の能力向上に関する研究開発を推進する。

さらに、先進的な研究を中長期的な視点に基づいて体系的に行うため、主要な装備品ごとに中長期的な研究開発の方向性を定める将来装備ビジョンを策定する。さらに、先端技術などの流出を防ぐための技術管理機能を強化しつつ、大学や研究機関との連携の充実などにより、防衛にも応用可能な民生技術(デュアルユース技術)の積極的な活用に努めるとともに民生分野への防衛技術の展開を図る。

(8)地域コミュニティーとの連携

防衛施設周辺対策事業を推進するとともに、防衛省・自衛隊の政策や活動に関する積極的な広報などにより、地方公共団体や地元住民の理解および協力の獲得に努める。

地方によっては、自衛隊の部隊の存在が地域コミュニティーの維持・活性化に大きく貢献し、あるいは、自衛隊の救難機などによる急患輸送が地域医療を支えていることなどを踏まえ、部隊の改編や駐屯地・基地などの配置・運営にあたっては、地方公共団体や地元住民の理解を得られるよう、地域の特性に配慮する。

その際、効率性にも配慮しつつ、地元中小企業の受注機会の確保を図るなど、地元経済に寄与する各種施策を推進する。

(9)情報発信の強化

ソーシャルネットワークなどの多様な情報媒体のさらなる活用も含め、積極的かつ効果的な情報発信の充実に努める。また、自衛隊の海外における活動を含む防衛省・自衛隊の取組について、英語版ホームページの充実などを通じ、諸外国に対する情報発信を強化する。

(10)知的基盤の強化

国民の安全保障・危機管理に対する理解を促進するため、安全保障・危機管理の専門家としての職員の論文発表や講師としての派遣などを通じ、教育機関などにおける安全保障教育の推進に寄与する。また、防衛研究所について、市ヶ谷地区への移転による政策立案部門などとの連携の促進、諸外国の研究機関との研究交流の推進などにより、防衛省のシンクタンクとしての機能を強化する。

(11)防衛省改革の推進

文官と自衛官の一体感を醸成するとともに、防衛力整備の全体最適化、統合運用機能の強化、政策立案・情報発信機能の強化などを実現するため、防衛省の業務および組織を不断に見直し、改革を推進する。その際、防衛力整備の計画体系の確立などを行うとともに、外局の設置も視野に入れ、装備品取得の効率化・最適化に向けた取組を行う。また、実際の部隊運用に関する業務を統合幕僚監部に一元化することなどにより、内部部局および統合幕僚監部の間の実態としての業務の重複を解消し、運用企画局の改廃を含めた組織の見直しを行う。