第III部 わが国の防衛に関する諸施策
第5節 防衛省・自衛隊の国際協力開始20年を振り返って

91(平成3)年のペルシャ湾への掃海艇派遣から20年間、防衛省・自衛隊は世界各地において、国連平和維持活動、国際緊急援助活動など、様々な活動を行ってきた。今後より積極的にこれらの活動を行っていくにあたり、防衛省・自衛隊の国際協力について、その重要性を今一度、国民の皆様にご理解していただくことが必要である。そのため、本節では、国際協力開始から20年の節目において振り返り、防衛省・自衛隊の国際社会での歩みを説明する。

1 防衛省・自衛隊の国際協力の軌跡

湾岸戦争後の91(平成3)年4月、海自掃海部隊をペルシャ湾へ派遣し、自衛隊の創設以来、初めてとなる国際社会での活動を開始した。本派遣は、わが国船舶の航行の安全確保という目的に加えて、被災国の復興という平和的、人道的な目的を有する人的な国際貢献・国際協力という意義を持つものであった。

ペルシャ湾で機雷を処分する海自掃海艇「さくしま」 (91(平成3)年8月)海自掃海部隊は合計34個の機雷を処分)
ペルシャ湾で機雷を処分する海自掃海艇「さくしま」
(91(平成3)年8月)海自掃海部隊は合計34個の機雷を処分)

その後約20年が経過したが、その間、防衛省・自衛隊は、国際社会において様々な活動を行い、厳しい環境のもと、試行錯誤を繰り返しつつ与えられた任務を遂行し、国内外からの評価を積み重ねてきた。
冷戦後の国際環境の中、わが国では国連平和維持活動などに対する協力や海外における大規模な災害に対する救援などの国際協力をより一層行っていくことが国民的課題となった。政府は、特に人的な面を中心にわが国の国際貢献をより積極的に行うため、様々な検討を進め、91(同3)年秋、自衛隊による国際平和協力活動に道を開くこととなる国際平和協力法案および国際緊急援助隊法改正案を国会に提出した。
これらの法案をめぐっては様々な議論がなされ、国際平和協力法案については一部修正がされた後、92(同4)年、両法律は成立、同年6月には、国際平和協力法1に基づく、防衛庁(当時)・自衛隊初の国連平和維持活動への参加となる国連カンボジア暫定機構(UNTAC:United Nations Transitional Authority in Cambodia)への陸自施設部隊などの派遣が実現した。これは、わが国の国際平和への取組に対する新しい時代の幕開けと言えるものであった。カンボジア国際平和協力業務は、自衛隊にとって初めての経験であり、その準備や業務の実施において手探りの面がありつつも、道路・橋の修理を始めとする各種の業務において大きな成果を上げることができた。このことは、国の防衛という基本的な任務を果たすため、日夜厳しい訓練を通じて培ってきた自衛隊の技能、経験および組織的な機能が、国際協力の場においても十分に活かされたものであったともいえる。
その後、防衛省・自衛隊は、現在活動中のものも含め、中東、中米、アジアおよびアフリカの様々な地で、12(同24)年5月末までに合計14の国際平和協力業務を行ってきている。国際緊急援助活動についても、92(同4)年の国際緊急援助隊法改正以降、自衛隊は任務に対応できる態勢をとりつつ、着実に活動を積み重ねてきた。98(同10)年10月の中米のホンジュラスで発生したハリケーン災害救援に対応するため、医療活動や防疫活動を行う自衛隊部隊の派遣が決定された。これは、自衛隊が行った初の国際緊急援助活動であったが、中米という遠隔の地で、被災後の劣悪な環境のもと、現地の要請に応え、ホンジュラス政府および一般市民から感謝される立派な成果を上げたことは、きわめて有意義な第一歩であったと言える。

カンボジアで簡易舗装の道路を構成する陸自施設部隊(93(平成5)年) 陸自施設部隊は、道路のべ約100km、橋約40か所の補修を行った。
カンボジアで簡易舗装の道路を構成する陸自施設部隊(93(平成5)年)
陸自施設部隊は、道路のべ約100km、橋約40か所の補修を行った。

その後、防衛省・自衛隊は、様々な地で現在まで合計13の活動を行い、これらの活動実績を踏まえ、自衛隊の態勢についても迅速な派遣、効果的な援助活動の実施といった観点から、逐次改善を重ねてきた。
このように、国連平和維持活動や災害救援のための活動実績を重ねる一方、国際テロ対応のための取組やイラク国家再建に向けた取組への協力など、その時々の国際情勢の中で求められた国際社会としての取組に対しても、わが国として主体的かつ積極的に寄与する必要があるとの判断のもと、制度的な基盤を整備しつつ、補給支援や人道復興支援といった分野の支援や協力を行ってきた。
01(同13)年に発生した9.11テロ以降、わが国は、テロ対策のため、様々な分野での取組を行ってきており、こうした取組の一つとして、旧テロ対策特措法2(同法の失効後は旧補給支援特措法3)に基づき、海自はインド洋において、米国、英国、フランス、ドイツ、パキスタンなど、テロ対策に取り組む諸外国の艦船に対し、洋上における補給支援活動を行ってきた。こうした諸外国による活動のもとで行われるテロリストや麻薬などの海上移動の防止は、アフガニスタン国内のテロリストの移動と物資および資金の調達を含む行動の自由を制約することに一定の効果をもたらした。また、この活動を通じ、海自の洋上補給技術はきわめて信頼性の高いものであることが確認され、また、諸外国などとの各種業務についてのノウハウ・知見の蓄積・共有が進み、長期間継続して洋上補給を行う能力を向上させることができた。
参照 資料5657

ホンジュラスへの援助物資を準備する空自隊員とC―130輸送機(98 (平成10)年11月)空自は飛行時間36時間をかけて、約1万8,000km におよぶ長距離空輸を達成
ホンジュラスへの援助物資を準備する空自隊員とC―130輸送機(98
(平成10)年11月)空自は飛行時間36時間をかけて、約1万8,000km
におよぶ長距離空輸を達成
インド洋にて、カナダ艦船(左)に洋上補給する海自補給艦「おうみ」(右)
インド洋にて、カナダ艦船(左)に洋上補給する海自補給艦「おうみ」(右)

イラクについても、国際社会は、03(同15)年5月以降、国連安保理決議第1483号およびそれに引き続く国連安保理決議を踏まえ、同国の復興支援に積極的に取り組んできた。
わが国は、同年7月に成立した旧イラク人道復興支援特措法4に基づき、同年12月から08(同20)年12月までの間、自衛隊の部隊を派遣した。自衛隊は、医療、給水、学校・道路など公共施設の復旧・復興および人道復興物資などの輸送などの支援を行い、イラクの自主的な国家再建に向けた取組に寄与してきた。また、空自の部隊は、イラクの復興および安定に協力するため、ムサンナー県に派遣された陸自の部隊、国連、多国籍軍などに対する空輸支援を行ってきた。こうしたイラクの国家再建に向けたわが国の協力は、国際社会とイラク国民から高い評価を受け、わが国に対する信頼を向上させただけでなく、米国とともに活動したことを通じて、日米の安全保障面での協力をさらに緊密かつ実効性あるものとする上でも有意義であった。
参照 資料58

イラク人道復興支援活動において陸自隊員に集まる イラクの子供たち(イラク・サマワ)
イラク人道復興支援活動において陸自隊員に集まる
イラクの子供たち(イラク・サマワ)
イラク人道復興支援で空輸活動を行う空自C―130輸送機(クウェート)
イラク人道復興支援で空輸活動を行う空自C―130輸送機(クウェート)

国際社会としての取組が求められると同時に、わが国としても自らの国民の生命または財産の保護という公共の秩序の維持の観点から対応が求められる活動も存在する。08(同20)年以降、ソマリア沖・アデン湾における海賊事案発生件数が急増し、大きな国際問題となった。このような状況の中、日本関係船舶に対する海賊襲撃事案も発生していたことから、防衛省・自衛隊は、09(同21)年3月に、護衛艦2隻を派遣し、同海域における民間船舶の護衛活動を、同年5月にP―3C哨戒機2機を派遣し、同海域における警戒監視活動を開始し、09(同21)年7月以降は、海賊対処法に基づき、活動を継続している。この活動は、海賊行為が海上における公共の安全と秩序の維持に対する重大な脅威であることなどを踏まえ、わが国としても自ら海上における公共の安全と秩序の維持に取り組むとともに、国際的な責任を積極的に果たしていくことが必要との考えのもとで行われているものであり、ペルシャ湾への海自掃海部隊の派遣と同様、人的な国際貢献・国際協力という意義も有するものである。
(図表III―3―5―1参照)

図表III―3―5―1 国際社会における防衛省・自衛隊の活動実績

1)国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律<http://www.pko.go.jp/PKO_J/data/law/law_data02.html>参照
2)平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置および関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法 <http://www.cas.go.jp/jp/hourei/houritu/tero_h.html>参照
3)テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法 <http://www.cas.go.jp/jp/hourei/houritu/kyuuyu_sinpou.pdf>参照
4)イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法 <http://www.cas.go.jp/jp/hourei/houritu/iraq_h.html>参照
 
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