第4章 日米安全保障体制の強化 

2 沖縄における再編


 沖縄には、現在、多くの米軍基地が所在しており、わが国における、在日米軍施設・区域(専用施設)のうち、面積にして約75%が集中している状況にある。
 特に、沖縄における米海兵隊(在沖米海兵隊)は、その高い機動性、即応能力により、わが国の防衛をはじめ、04(同16)年12月のインド洋における津波、本年2月のフィリピンにおける地滑り被害や本年5月のインドネシアのジャワ島における地震への対応など地域の平和と安全の確保を含めた多様な役割を果たしている。
 米国は、世界的な軍事態勢見直しの一環として、太平洋においても兵力構成を強化するための見直しを行っている。今後の安全保障環境において、事態の性質や場所に応じて、より柔軟かつ適切な対応を可能とするため、この地域における海兵隊の緊急事態への対応能力の強化や、これらの能力の適切な形での分配を行う。この変化により、地域の諸国との安全保障協力の拡大が可能となり、安全保障環境が改善される。
 この海兵隊の再編との関連で、沖縄の負担を大幅に軽減することにもなる相互に関連する総合的な措置が、次のとおり特定されている。

(1)普天間飛行場代替施設
 米海兵隊普天間飛行場は、在沖米海兵隊の航空能力に関し、
1) ヘリなどによる海兵隊の陸上部隊の輸送機能
2) 空中給油機を運用する機能
3) 緊急時に航空機を受け入れる基地機能
といった機能を果たしている。
 一方で、同飛行場は市街地の中心にあって、地域の安全、騒音、交通などの問題から、地元住民より早期の返還が強く要望されてきた。このため、普天間飛行場の持つ機能について、それぞれ以下の措置を講じ、同飛行場を返還する。

ア 普天間飛行場代替施設(ヘリなどによる海兵隊の陸上部隊の輸送機能)
【SACO最終報告に基づく計画に関する状況】
 普天間飛行場については、政府としても一日も早い普天間飛行場の移設・返還に向けて一貫して努力してきた。96(同8)年4月の橋本総理とモンデール駐日米国大使(いずれも当時)の会談において、5〜7年の間に、十分な代替施設が完成した後、全面返還されることで合意され、同年12月に、この合意を受けた「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO:Special Action Committee on Okinawa)最終報告がとりまとめられた。
参照> 本章本節6

 その後、99(同11)年末、建設地点を「キャンプ・シュワブ水域内名護(なご)市辺野古(へのこ)沿岸域」とする旨の方針が閣議決定された。その後、政府と地元地方公共団体との間で「代替施設協議会」において協議を行った結果、02(同14)年には普天間飛行場代替施設(代替施設)の基本計画が決定されたが、その時点で、返還合意以降6年以上を経過していた。その後、04(同16年)に環境影響評価手続きを開始したが、現在に至るまで、当初想定されていた5〜7年での返還は実現していない。
 また、
○ 基本計画策定後、工事着工に必要な手続きとして、03(同15)年より現地技術調査を実施してきたが、そのプロセスが必ずしも円滑に進まなかった上、04(同16)年4月に開始した環境影響評価手続きなどにさらに3年程度を要すると見込まれたこと、
○ さらに、代替施設建設に9年半が必要と見積もられたことから、
 普天間飛行場の移設・返還には、さらに十数年近くの長期間を要することが見込まれた。
 さらに、04(同16)年8月の宜野湾(ぎのわん)市におけるヘリ事故の発生もあり、同飛行場が市街地のただ中に所在することによる危険性の問題が顕在化し、早期移設・返還が必須であることが改めて強く認識された。
 これらのことから、周辺住民の不安を解消するため、一日も早い移設・返還を実現するための方法について、兵力態勢の再編に関する日米協議の過程で改めて検討を行ってきた。
(図表4-2-10参照)
 
図表4-2-10 普天間代替施設に関する経緯

【代替施設に関する検討の考え方】
 在沖米海兵隊は、航空、陸上、後方支援の部隊や司令部機能から構成されており、実際の運用において、これらの機能が相互に連携し合うことが必要である。このため、普天間飛行場に現在駐留する回転翼機が、訓練、演習など日常的に活動をともにするほかの組織の近くに位置するよう、普天間飛行場の代替施設についても、沖縄県内に設ける必要があるとの認識に至り、その上で検討を行った。
 その検討においては、以下を含む複数の要素を考慮した。
○ 近接する地域、軍要員の安全
○ 代替施設の周辺の将来的な住宅および商業開発を考慮した、地元への騒音の影響
○ 藻場などの自然環境に対する影響
○ 平時、緊急時における運用上の所要
○ 交通渋滞など地元へ悪影響を与えかねない問題発生を避けるため、必要となる運用上の支援施設および関連施設は代替施設の中に確保

【代替施設の概要】
 このような認識の下、日米間で集中的に検討した結果として、昨年10月の「共同文書」において、「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦(おおうら)湾の水域を結ぶL字型に普天間代替施設を設置する。」とする案が承認された。
 その後、名護市をはじめとする地元地方公共団体との協議を行った結果、本年4月、代替施設について、「共同文書」において承認された案を基本に、地元地方公共団体の要求する周辺地域の上空の飛行ルートを回避すべく、滑走路を2本設けることとし、1)周辺住民の生活の安全、2)自然環境の保全、3)同事業の実行可能性に留意して建設することに、名護市、宜野座(ぎのざ)村との間で合意した。今後、防衛庁と沖縄県、名護市、宜野座村および関係地方公共団体は、代替施設の建設計画について誠意を持って継続的に協議し、結論を得ることとした。
 
会談を終えた後の額賀防衛庁長官と島袋名護市長(本年4月)
 
キャンプ・シュワブ沖(辺野古)
 この合意を踏まえ、本年5月の最終取りまとめにおいて、代替施設を「辺野古崎とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ」形で設置することとした。この施設においては、2本の滑走路がV字型に配置される。滑走路はそれぞれ1,600mの長さを有し、2つの100mのオーバーランを有する。各滑走路のある部分の施設の長さは、護岸を除いて1,800mとなるとしている。
 この施設は、合意された運用上の能力を確保するとともに、安全性、騒音および環境への影響という問題に対処するものであるとしている。
 この代替施設は、SACO最終報告において示されたとおり、普天間飛行場に所在するヘリコプターのほかに、短距離で離発着できる航空機の運用をも支援する能力を有するものとなる。この施設からの戦闘機の運用は計画されていない。
 さらに、代替施設をキャンプ・シュワブ区域内に設置するため、同区域内の施設および隣接する水域の再編成などの必要な調整が行われることとしている。
 この代替施設の工法は、原則として、埋立てとなり、14(同26)年までの完成が目標とされる。代替施設への移設は、同施設が完全に運用上の能力を備えた時に実施されることとしている。
 このように新たに合意された代替施設は、陸上部分をベースに工事を行うことができ、より早期かつ着実に建設することが可能であり、一日も早い移設の実現を可能とするものである。また、海上に設置する部分を少なくするなど、環境への影響にも極力配慮するものである。
 代替施設の建設にあたっては、本年5月、沖縄県知事と防衛庁長官との間で、「政府案を基本として、1)普天間飛行場の危険性の除去、2)周辺住民の生活の安全、3)自然環境の保全、4)同事業の実行可能性―に留意して、対応することに合意する。」ことなどを盛り込んだ「基本確認書」を取り交わした。今後、この「基本確認書」を踏まえ、沖縄県などと誠意をもって継続的に協議していく考えである。
 政府は、本年5月30日の閣議決定において、本年5月1日に「2+2」会合において承認された案を基本として、政府、沖縄県および関係地方公共団体の立場や普天間飛行場の移設に係る経緯を踏まえて、進めることとし、早急に建設計画を策定することとした。さらに、具体的な代替施設の建設計画、安全・環境対策および地域振興については、沖縄県および関係地方公共団体と協議機関を設置して協議し、対応することとしている。
 なお、これに伴い、建設地点を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」としていた従来の閣議決定は廃止することとされた。
参照> 資料39

 
図表4-2-11 普天間代替施設のイメージ
イ 空中給油機を運用する機能
 現在、普天間飛行場に所在する空中給油機KC-130(12機)については、SACO最終報告において岩国飛行場に移駐されるとされていたが、昨年10月の「共同文書」において、移駐先として海上自衛隊(海自)鹿屋基地(鹿児島県)が優先して検討されるとされた。しかしながら、さらなる検討の結果、SACO最終報告と同様、岩国飛行場に移駐されることとなった。
 なお、KC-130は、訓練および運用のため定期的にローテーションで鹿屋基地およびグアムに展開されることとしている。

ウ 緊急時に航空機を受け入れる基地機能
 緊急時における空自新田原(にゅうたばる)基地(宮崎県)および築城(ついき)基地(福岡県)の米軍による使用が強化される。このための施設整備は、実地調査実施の後、普天間飛行場の返還の前に必要に応じて実施される。また、役割・任務・能力に関する検討において、日米の共同訓練を拡大するとしているが、整備後の施設は、このような訓練活動のためにも活用されることを想定している。
 さらに、普天間飛行場代替施設では確保されない、長い滑走路を用いた活動のため、緊急時における米軍による民間施設の使用の改善について、日米間の計画検討作業において検討されるとともに、普天間飛行場の返還を実現するための適切な措置がとられるとしている。

(2)兵力の削減とグアムへの移転
 アジア太平洋地域における米海兵隊の能力の再編に関連し、現在沖縄に所在する第3海兵機動展開部隊(IIIMEF)の要員はグアムに移転され、また、残りの在沖米海兵隊部隊は、再編される。この沖縄における再編により、約8,000名のIIIMEF要員とその家族約9,000名が部隊の一体性を維持するような形で14(同26)年までに沖縄からグアムに移転することとしている。
 移転する部隊は、IIIMEFの指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群(戦務支援群から改称)司令部、第1海兵航空団司令部および第12海兵連隊司令部を含む。対象となる部隊は、キャンプ・コートニー、キャンプ・ハンセン、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧(ずけらん)および牧港(まきみなと)補給地区といった施設から移転する。一方、沖縄に残る米海兵隊の兵力は、司令部、陸上、航空、戦闘支援および基地支援能力といった海兵空地任務部隊の要素から構成されることとしている。

【グアムへの移転経費】
 このような沖縄からの兵力の移転は、これまで沖縄県民が強く要望してきたものである。また、政府としても、日米同盟の重要性にかんがみ、在日米軍の抑止力を維持しつつ沖縄の負担を軽減することが必要と考えてきたところである。昨年10月の「共同文書」がとりまとめられた後、このような兵力の移転をできる限り早期に実現するため日米双方が応分の負担を行うとの観点から米国との協議を行い、本年4月23日に行われた日米防衛首脳会談において、グアム移転に伴う経費について合意に至った。
参照> 本章3節

 具体的には、総経費102.7億ドルのうち、わが国は60.9億ドル、米国は41.8億ドルをそれぞれ分担することとし、そのうち直接的な財政支出については、わが国は最大で28億ドル、米国は31.8億ドルとされた。
参照> コラム

(3)土地の返還および施設の共同使用
【嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還】
 嘉手納飛行場以南の人口が集中している地域に、在日米軍施設・区域が所在しており、その合計は約1,500haにものぼる。上記の普天間飛行場代替施設への移転、普天間飛行場の返還およびグアムへのIIIMEF要員の移転に続いて、沖縄に残る施設・区域が統合され、嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還が可能となる。
 日米は、07(平成19)年3月までに、以下の6つの候補施設について、統合のための詳細な計画を作成する。
○キャンプ桑江(くわえ)(約68ha):全面返還
○キャンプ瑞慶覧(約643ha):部分返還および残りの施設とインフラの可能な限りの統合
○普天間飛行場(約481ha):全面返還((上記の普天間代替施設関連記述参照)
○牧港補給地区(約274ha):全面返還
○那覇港湾施設(約56ha):全面返還(浦添(うらそえ)に建設される新たな施設(追加的な集積場を含む。)に移設)
○陸軍貯油施設第1桑江タンク・ファーム(約16ha):全面返還

【SACO最終報告の着実な実施】
 96(同8)年のSACO最終報告は、在日米軍の能力および即応態勢を十分維持しつつ、沖縄県民に対する米軍活動の影響を軽減するものであり、その着実な実施は重要である。一方、SACOによる移設・返還計画については、今回の「ロードマップ」により、再評価が必要となる可能性がある。
参照> 本章本節6

【沖縄における米軍施設・区域の共同使用】
 沖縄における自衛隊施設は、那覇基地をはじめ限られており、その大半が都市部にあり、運用面での制約がある。沖縄にある米軍施設・区域の共同使用は、沖縄における自衛隊部隊の訓練環境を大きく改善するとともに、共同訓練や自衛隊と米軍との間の相互運用性を促進するものである。また、即応性をより向上させ、災害時における県民の安全性の確保により資するものもある。
 このような考えの下、キャンプ・ハンセンは、陸上自衛隊の訓練に使用され、施設整備を必要としない共同使用は、06(同18)年から可能になる。また、空自は、地元への騒音の影響を考慮しつつ、米軍との共同訓練のために嘉手納飛行場を使用することとしている。

(4)再編間の関係
 全体的な再編パッケージの中で、沖縄に関連する再編は、相互に結びついている。特に、嘉手納以南の統合および土地の返還は、第3海兵機動展開部隊要員およびその家族の沖縄からグアムへの移転にかかっている。また、沖縄からグアムへのIIIMEF部隊の移転は、1)普天間飛行場代替施設の完成に向けた具体的な進展、2)グアムにおける所要の施設およびインフラ整備のための日本の資金的貢献にかかっている。

 

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