第2章 わが国の防衛政策 

2 平成16年度の防衛力整備1

 大量破壊兵器などの拡散、テロなどの新たな脅威やわが国の平和と安全に影響を与える多様な事態の顕在化をはじめとした新たな安全保障環境の下、将来にわたって必要な機能の充実と防衛力の質的向上を図ることを基本として、国民の安心・安全の確保に努める。
 その際、現下の厳しい財政事情の下、一層の効率化、合理化を図るとともに、「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」2などを踏まえ、次の諸点を重視する。

(1)弾道ミサイル防衛(BMD)にかかわる諸施策の推進
 大量破壊兵器などの拡散状況を踏まえ、国民の生命と財産を守るため、弾道ミサイル防衛にかかわる諸施策を推進する。BMDシステムの整備は、イージス艦、地対空誘導弾ペトリオット・システム、自動警戒管制組織(バッジ・システム)など、現有装備を最大限活用して効率的に進める3

(2)ゲリラや特殊部隊の侵入への対応
 中期防の重視事項であるゲリラや特殊部隊の侵入対処などに重点的に取り組む。その際、沿岸部などにおける警戒監視、侵入した特殊部隊などの捜索、捕獲・撃破、重要施設防護などについて対処能力の向上を図る。また、警察など関係機関との連携を重視する4
 
軽装甲機動車

(3)不審船への対応
 これまでの政府全体の取組を踏まえつつ、不審船の発見・分析、停船のための対応、停船後の対応について対処能力の向上(航空機の情報伝送能力・自機防御能力の強化、海自特別警備隊の即応態勢の維持・強化5など)を図る。その際、引き続き海上保安庁との共同訓練を実施するなど関係機関との連携を重視する6

(4)核・生物・化学兵器による攻撃への対応
 中期防の重視事項である核・生物・化学兵器による攻撃対処について必要な能力の向上を図る。特に生物兵器への対処については、02(平成14)年1月の防衛庁報告書「生物兵器対処に係る基本的考え方」に沿って、検知・同定7、防護、予防、診断・治療、除染など、必要な各種機能の充実に取り組む。その際、一連の対処行動のうち最初に行うこととなる検知・同定機能を重点的に整備する8

(5)各種災害への対処
 各種災害に適切に対処し得る態勢を整備する9
 
離島災害対処訓練(宮古島)に派遣された陸自UH-60JA

(6)統合運用態勢の充実
 02(同14)年12月に統合幕僚会議がとりまとめた「統合運用に関する検討」成果報告書などを踏まえつつ、「自衛隊の運用は統合運用を基本とする」態勢へ平成17年度末に円滑に移行しうるよう、必要な施策を総合的・計画的に推進する10

(7)より安定した安全保障環境の構築への取組
 安全保障対話・防衛交流について、これまで築いてきた関係諸国との信頼関係を維持しつつ、二国間交流ではさらなる拡大を図るよう努める。また、多国間対話についても、アジア太平洋地域の平和と安定を確保し、国際社会からより一層の信頼を得られるよう、わが国が主体的に交流の場を提供する。さらに、アジア太平洋地域での多国間共同訓練についても各国間の信頼関係を深めるものとして、引き続き積極的に取り組む。
 また、国際社会の軍備管理・軍縮分野への努力に対して、国連を含む国際機関などが行う各種国際会議への参加を積極的に拡大する。さらに、国際平和協力業務などを積極的に推進する11

(8)軍事科学技術の進展への対応
 軍事科学技術の進展を踏まえ、統合運用や防衛力の情報化・ネットワーク化などを重視しつつ、先進的な技術研究開発を推進する12

(9)情報機能の強化
 情報機能などの強化を図るため、情報本部などの情報収集・分析体制や情報保全体制の充実強化を図るとともに、各種情報収集器材・装置の充実を図る。

(10)高度情報通信ネットワークの構築
 情報通信技術(IT)を活用した情報通信機能を強化し、情報セキュリティの確保を図りつつ、防衛庁・自衛隊を通じた高度なネットワーク環境の整備を一層推進する13

(11)人事施策、教育訓練の充実
 自衛隊員として常に高い規律と士気の保持に努めるとともに、メンタルヘルス(精神的健康)の維持向上や各種隊員施策の充実を図る。また、自衛隊の任務の多様化・国際化、装備品の高度化に対応し得るよう、質の高い人材の確保育成に努めるとともに、多様な事態に迅速かつ適切に対応し得る精強な部隊の練成を図る14

(12)環境対策など
 自衛隊駐屯地(基地)・演習場などにおける環境対策の徹底を図るとともに、自らの経済活動によって生じる環境負荷を低減するための取組の推進を図る15。また、安全対策、衛生施策、総合取得改革16の推進を図る。

(13)着実な体制変換(組織改編、定員など)
 防衛大綱に示された防衛力の水準への円滑な移行に配意しつつ、合理化・効率化・コンパクト化を着実に進める。また、装備の更新・近代化などに対応するべく所要の組織改編を行うとともに、必要な要員の確保を図る。平成16年度には、陸上自衛隊の新たな体制への移行のための第8師団(熊本県熊本市)の改編などを行う。

(14)着実な防衛力整備
 防空能力、周辺海域の防衛能力、海上交通の安全確保能力、着上陸侵攻対処能力、各種の攻撃形態の対処能力の確保に留意しつつ、必要な装備の更新・近代化を行う。
 平成16年度の防衛力整備のうち、主なものは次の事項である。
1)対戦車ヘリコプター(AH-1S)の減勢に伴う戦闘ヘリコプター(AH-64D)、地対空誘導弾(改良ホーク)の後継としての03式中距離地対空誘導弾の整備
2)生物兵器対処に有効な生物偵察車、生物剤警報器などの整備
3)護衛隊群の旗艦17機能を有する護衛艦(DDH)の減勢に伴う情報・指揮通信能力、ヘリコプター運用・整備能力などを向上させた護衛艦(新DDH)の整備
4)潜水艦の減勢に伴う水中持続力などを向上させた潜水艦(SS)の整備
5)現有の掃海・輸送ヘリコプター(MH-53E)の後継として、掃海具の小型化の動向に対応するとともに、護衛艦への離発着も可能となる掃海・輸送ヘリコプター(MCH-101)を整備
6)航空軍事技術の進歩や経空脅威の動向に対応し得る防空能力を確保するための要撃戦闘機(F-15)の近代化改修
7)現有爆弾に精密誘導性能を付加するための爆弾用精密誘導装置の整備
 
MH-53Eの後継機となる掃海・輸送ヘリコプター(MCH-101)(イメージ図) 飛行中のF-15
 
中期防における主要装備品の整備の進捗状況
 
陸上自衛隊の編成定数の推移 主要装備の勢力推移(戦車)
 
主要装備の勢力推移(護衛艦) 主要装備の勢力推移(戦闘機)



 
1)資料16〜17参照。

 
2)昨年12月19日安全保障会議及び閣議決定。資料61参照。

 
3)6章3節参照。

 
4)3章2節1参照。

 
5)装備品の整備など。

 
6)3章2節1参照。

 
7)生物剤の種類を特定すること。

 
8)3章2節3参照。

 
9)3章4節参照。

 
10)6章2節参照。

 
11)4章3節4章4節参照。

 
12)5章1節3参照。

 
13)3章2節45章1節3参照。

 
14)5章1節15章1節2参照。

 
15)5章3節3参照。

 
16)研究開発から調達・補給・ライフサイクル管理などの諸施策についての総合的な改革。

 
17)通常、群司令などの指揮官が乗艦し、指揮官旗が掲揚される艦をいう。


 

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