第6章 今後の防衛庁・自衛隊のあり方 

3 今後の防衛力の役割とそのあり方

 安全保障上の不安定要因に的確に対応していくためには、まず、総合的な対応が一層必要になると考えられる。すなわち、平素から防衛力のみならず経済力・技術力など、わが国の戦略基盤を充実させた上で、経済・外交などの諸施策の有機的な連関による総合的な安全保障政策の下での戦略的な取組を行っていくことが重要である。同時に、最近の国際社会においては、多様な段階・局面で軍事力が重要な手段として活用される機会が増大しており、その役割も「抑止と対処」から「予防から復興まで」と広がっていることから、自衛隊の役割を考える場合にも、このような傾向についての配慮が必要となろう。
 その際、対応に当たっては、国際協調が極めて重要であり、二国間・多国間あるいは国連の場を通じて、わが国に相応しい取組を主体的・積極的に行う必要がある。
 これまで述べてきた内外諸情勢の変化を踏まえ、今後の防衛力の役割として次の3点を重視しつつ、真に実効性のある防衛力を追求していくことが必要である。

(1)「新たな脅威」や多様な事態への対応
 最近の防衛力整備においても、今後の留意事項として、サイバー攻撃(各種情報システムに対するネットワークや情報システムを利用した電子的な攻撃)、ゲリラや特殊部隊による攻撃、NBC攻撃(核・生物・化学兵器による攻撃)など、新たな脅威や多様な事態への対応を重視して取り組んでいるところであるが、今後は、これらも含め、国際テロやミサイル攻撃などの非対称的な攻撃1、さらに、テロ組織など非国家主体による攻撃や不法行動などにも十分考慮した対応能力の充実・強化を図っていく必要がある。
 なお、非対称的な攻撃事態への対処には、その攻撃形態に適した専門的な能力なども必要となるが、自衛隊の現体制ではその対処能力は不十分なものも少なくなく、今後、これら能力の獲得が必要である。また、各種の不法行動への対応や災害対応については、国家として最も効率的な資源配分を行い万全の対処体制が構築できるよう、関係省庁や地方自治体との緊密な連携を図ることが重要であろう。

(2)国際的な安全保障環境の安定化などのための積極的・能動的な取組
 最近の国際的な活動の趨勢(すうせい)として、わが国は、ゴラン高原での国連平和維持活動に、96(同8)年以降継続して参加するとともに、インド洋での米軍などへの支援や東ティモールでの国連平和維持活動、アフガニスタン難民やイラク難民の救援のための人道支援物資の空輸など自衛隊の国際的な活動は多様化・拡大している2。この10年間の経験を経て、このような自衛隊の国際的な任務は国民から十分理解され、かつ期待されている活動であり3、自衛隊の主要な活動の一つになったといえる。今後の軍事力の役割は、単に脅威に対して防衛するだけではなく、平和や安定のために積極的に働きかけることが求められる4とともに、自衛隊の国際的な努力・活動を国連や関係国との協力の下で、タイムリーかつ柔軟に行う重要性は引き続き高まっていく5ものと考えられる。
 この国際的な活動に代表されるように、自衛隊は存在することで脅威に対する抑止効果を果たすだけでなく、実際に、いかに積極的にその任務を果たすかということが問われるようになってきている。このように事実上「運用の時代」へと変化している状況に併せて、統合運用の検討を推進し、統合運用態勢の確立を含め、今後、より実効的な自衛隊の体制を構築することが必要である。

 
近年における自衛隊の活動等

(3)国家の存立を脅かす本格的な侵略事態への備え
 冷戦が崩壊して10年以上が経ち、現在の周辺諸国の状況にかんがみれば、近い将来、わが国に対する大がかりな準備を伴う着上陸侵攻の可能性は低いと考えられる。しかし、防衛力の整備が一朝一夕になし得ないものであることから、将来の予測し難い情勢変化への備えを保持しておくことも必要である。また、万一周辺国が現有の軍事能力を十分に活用した侵略事態を企図する場合には、それに適切に対処し得る能力を保有し、侵略事態の未然防止に努めることがこれまでと同様に重要である。このため、わが国の存立を脅かす本格的な侵略事態への備えについても、わが国周辺の状況などを十分に見据えつつ、引き続き留意していくことが必要である。
 なお、現在のわが国を取り巻く状況にかんがみれば、専ら本格的な着上陸侵攻に備えた装備などの規模は縮小を検討するものの、将来の不確実性に備えて所要の戦闘技量と高度の技術水準の維持を図るための「最も基盤的な部分」は確保しておくことが不可欠と考えられる。



 
1)在来型の戦力以外の相手の弱点をつくための攻撃手段。大量破壊兵器、弾道ミサイル、テロ、サイバー攻撃など。

 
2)4章123節参照。

 
3)4章3節1でも述べているとおり、平成5年度の世論調査では、自衛隊の国際平和維持活動への賛成が48%だったのに対し、平成14年度の調査では、賛成が70%へと大幅に増加している。(資料76)。

 
4)昨年6月、中谷前防衛庁長官は、IISSアジア安全保障会議で「軍事力の役割は、単に脅威に対して防衛するだけではなく、平和や安定のために積極的に働きかけることが求められ、今後は、『域内の秩序維持』などの分野に拡大する傾向がある」旨述べている。

 
5)本年5月、IISSアジア安全保障会議で石破長官は、同旨の発言を行うとともに、「わが国として変化する安全保障環境の安定化に向けた役割を積極的に果たしていきたい」旨発言している。


 

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