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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

3 統合作戦司令部

国家防衛戦略や防衛力整備計画において、各自衛隊の統合運用の実効性の強化に向けて、平素から有事まであらゆる段階においてシームレスに領域横断作戦を実現できる体制を構築するため、陸・海・空自の部隊の一元的な指揮を行いうる常設の統合司令部を創設することとされた。これを踏まえ、2025年3月に、常設の統合司令部として、統合作戦司令官を長とする「統合作戦司令部」を市ヶ谷に設置した。

参照図表II-4-2-5(自衛隊の運用体制と統合作戦司令部)

図表II-4-2-5 自衛隊の運用体制と統合作戦司令部

1 意義

統合作戦司令部が新設されるまでは、統合作戦を行う際、必要に応じて、陸・海・空自の部隊のいずれか2以上の部隊からなる統合任務部隊1を臨時に組織していた。このような体制下では、事態の状況や推移に応じた柔軟な防衛態勢を迅速に構築することができず、また、平素から領域横断作戦に必要な態勢を整えることが困難であった。

統合作戦司令部の新設により、陸・海・空自による統合作戦の指揮などについて、平素から統合作戦司令部に一本化することができる。また、平素から領域横断作戦の能力を練成することができるため、統合運用の実効性が向上し、迅速な事態対応や意思決定を行うことが常続的に可能となる。

加えて、従来、統幕長はカウンターパートとして、米軍の中長期的な軍事戦略を担当する統合参謀本部議長と、自衛隊と米軍の共同作戦を担当するインド太平洋軍司令官の両者とそれぞれ調整していた。統合作戦司令部と統合作戦司令官の新設により、作戦にかかる米軍との調整をより緊密に行い、日米共同対処能力を強化することができる。

統合作戦司令部新編行事の様子(2025年3月)

統合作戦司令部新編行事の様子(2025年3月)

2 統幕との関係

統幕は、自衛隊の運用に関し、軍事専門的見地から防衛大臣を補佐する「幕僚機関」である。一方、統合作戦司令部は、自衛隊の運用に関し、平素から全国の陸・海・空自の部隊を一元的に指揮することを念頭に置いて新設された「部隊」であり、これまで自衛隊には常設されていなかった機能である。このように、両者は趣旨や位置づけが異なる組織であり、統合作戦司令部の新設に伴って、統幕の役割が変更されることはない。

また、従来、自衛隊の運用に関し、防衛大臣の指揮は統幕長を通じて行い、防衛大臣の命令は統幕長が執行することとされており、統合作戦司令部が新設された際も、統幕長は、統合作戦司令部などの部隊に対して、自衛隊の運用に関する防衛大臣の指揮や命令を伝達し、またその範囲内で細部指示することとなる。

このように、統合作戦司令部や統合作戦司令官は、統幕長を長とする統幕と役割を明確に分担することになる。そして、統合作戦司令部を新設し、平素から全国の陸・海・空自の部隊を一元的に運用するという新たな機能を設けたことにより、統合運用の実効性が向上し、迅速な事態対応や意思決定を行うことが常続的に可能となった。

1 自衛隊法第22条第1項または第2項に基づき、特定の任務を達成するために特別の部隊を編成し、または隷属する指揮官以外の指揮官の一部指揮下に所要の部隊を置く場合であって、これらの部隊が陸・海・空自の部隊のいずれか2以上からなるものをいう。弾道ミサイル対処や大規模災害対処など、様々な任務を迅速かつ効果的に遂行するためには、陸・海・空自を一体的に運用する必要があるため、単一の指揮官のもとに陸・海・空自にまたがる統合任務部隊を組織し、対応している。有事と災害の同時対処のような事態に対応するため、統合作戦司令部設置後においても、統合任務部隊を別途組織することは可能である。