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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 生物・化学兵器

生物・化学兵器は、比較的安価で製造が容易であるほか、製造に必要な物資や技術の多くが軍民両用であり容易に偽装ができるなど、非対称的な攻撃手段2を求める国家やテロリストなどの非国家主体による開発・取得が特に懸念される。また、生物・化学兵器を求める主体がビッグデータやAI(Artificial Intelligence)といった新興技術を利用すれば、兵器の開発能力はさらに高まるものと考えられる。

生物兵器は、①製造が容易で安価、②暴露から発症までに通常数日間の潜伏期間が存在、③使用されたことの認知が困難、④実際に使用しなくても強い心理的効果を与える、⑤種類や使用される状況によっては、膨大な死傷者を生じさせるといった特性を有する。

生物兵器に関しては、北朝鮮、ロシアが生物兵器禁止条約(BWC:Biological Weapons Convention)で定められた義務に反して攻撃的な生物兵器の計画を有しているとの見方が示されている3。また、中国については、軍の医療機関が、生物兵器に転用されるおそれのある毒物やバイオ技術の研究開発を行っていることが指摘されている4

化学兵器は、1995年のわが国における地下鉄サリン事件などで使用され、都市における大量破壊兵器によるテロの脅威を示した。最近では、シリアのアサド政権や「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)による化学兵器の使用や、ロシアによって開発された「ノビチョク」類が使用されたとされる反体制派指導者毒殺未遂事件などが指摘されている。また、ウクライナにおける戦闘でロシア軍が暴動鎮圧剤を使用した疑惑も指摘されている。

このほか、中国が化学兵器にも転用されるおそれのある薬剤などについての研究を行っていることが指摘されており、化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention)で定められた義務の遵守に対する懸念も示されている5。また、北朝鮮はCWCに加入せず、現在も化学兵器を保有しているとされている。

2 相手の弱点をつくための攻撃手段であって、在来型の手段以外のもの。大量破壊兵器、弾道ミサイル、テロ、サイバー攻撃など。

3 米国防省「Biodefense Posture Review」(2023年)による。

4 米国務省「ADHERENCE TO AND COMPLIANCE WITH ARMS CONTROL, NONPROLIFERATION, AND DISARMAMENT AGREEMENTS AND COMMITMENTS」(2024年)による。

5 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(2024年)、米国務省「Condition (10)(C) Annual Report on Compliance with the Chemical Weapons Convention (CWC)」(2024年)による。