地球環境の持続可能性に対する危機感は、国際的に高まっており、2015年には、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の国連における採択や気候変動に関する国際枠組みであるパリ協定の採択などを受け、各国で取組が進められている。
わが国においても、2018年に第5次環境基本計画を閣議決定し、持続可能な社会の実現に取り組んでいるところであり、国内外における取組をさらに加速させる旨表明している。また、2021年10月に地球温暖化対策計画、気候変動適応計画などを閣議決定し、2050年カーボンニュートラルや2030年度目標の達成に向け、具体的な気候変動対策が進められている。
こうした国内外における取組の加速を受け、防衛省・自衛隊としても、政府の一員として気候変動や環境問題の各種課題に対応し、解決に貢献するとともに、自衛隊施設や米軍施設・区域と周辺地域の共生についてより一層重点を置いた施策を進める必要がある。
また、気候変動の問題は、将来のエネルギーシフトへの対応を含め、今後、防衛省・自衛隊の運用や各種計画、施設、装備品、さらにわが国を取り巻く安全保障環境により一層の影響をもたらすことは必至であり、これらへも適切に対応していく必要がある。
防衛省・自衛隊は、従前から政府の一員として、環境関連法令を遵守し、環境保全の徹底や環境負荷の低減に努めてきたところであり、防衛省環境配慮の方針のもとで環境への取組の推進を図ることとしている。2021年度には、本省内部部局に防衛省・自衛隊の環境政策全般を担当する環境政策課を新設するとともに、2022年度には、全国の地方防衛局に環境対策室を設置するなど、環境問題への対応について防衛省・自衛隊として一元的・効果的に実施する体制を整備したところであり、引き続き、さらなる施策の推進に取り組んでいく方針である。
気候変動を安全保障上の課題として捉える動きが、国連安保理をはじめ各国の国防組織にも広がってきている。防衛省では、2021年5月に、防衛省気候変動タスクフォースを設置し、気候変動がわが国の安全保障に与える影響について幅広く検討を行い、2022年8月、防衛省気候変動対処戦略を策定した。同戦略では、気候変動が今後与える直接的・間接的な影響に対し、防衛省において今後推進すべき10の具体的な施策を掲げたところである。防衛省・自衛隊としては、同文書に基づき、気候変動への対処を防衛力の維持・強化と同時に進めていくこととしている。
同戦略を踏まえ、2023年5月のG7広島サミットにおける運航時に政府専用機が、同年6月にF-15、F-2戦闘機が、それぞれ持続可能な航空燃料1(SAF:Sustainable Aviation Fuel)を使用した。
資料:防衛省気候変動対処戦略
URL:https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/kikouhendou/pdf/taishosenryaku_202208.pdf
資料:環境対策に関する取組
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/kankyo_taisaku/index.html
防衛省・自衛隊は、約25万人の隊員を有し、日本各地で施設や様々な装備品を運用しており、政府の機関で最大の電力需要家として、温室効果ガスの排出の削減などに貢献するため、2020年度から、防衛省・自衛隊施設の電力の調達にあたり、再生可能エネルギーにより発電された電力(再エネ電力)の調達を積極的に進めてきたところである。
2024年度においては、契約件数は全国で968件あり、その内213施設などにおいて、再エネ電力の調達が実現した。また、157施設などでは、再エネ比率100%の電力の調達が実現した。2024年度の再エネ電力の調達見込み量は、約56千万kWh(一般家庭約13万世帯超の年間電力使用量)であり、防衛省・自衛隊全体の予定使用電力量(約131千万kWh)の約43%を再エネ電力で調達することになる。2024年度の再エネ電力の調達は、前年度に比べ調達量が大幅に増加したところ、防衛省としては、政府の一員として、引き続き、再エネ電力の調達比率が向上するよう努力していくこととしている。
気候変動問題への対応として風力発電を含む再生可能エネルギーの導入が進められており、風力発電設備は今後増加していくことが予想される。風力発電設備は、その設置場所や規格によっては、例えば、警戒管制レーダーの運用に支障を及ぼし、航空機やミサイルの探知を困難にさせるなど、自衛隊や在日米軍の活動に影響を及ぼすおそれがある。このため、防衛省・自衛隊としては、事業者をはじめとする関係者との調整を事業計画の早期の段階からきめ細やかに行っている。また、国家防衛戦略も踏まえ2、現在の取組を制度化するための法整備として、令和6年通常国会に防衛・風力発電調整法案3を提出し、同法案は同年5月に可決・成立した。
資料:風力発電設備が自衛隊・在日米軍の運用に及ぼす影響及び風力発電関係者の皆様へのお願い
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/windpower/index.html
防衛省においては、PFOSを含有する泡消火薬剤などについて、PFOS処理実行計画を策定し、作業を進めている。
また、2022年7月、全国の自衛隊施設において、過去にPFOSを含有する泡消火薬剤を使用していたまたは使用していた可能性がある施設の泡消火設備専用の水槽の水の分析結果を公表した。この調査により、PFOSなどが検出された水槽の水については、引き続き適切に管理するとともに、2024年度末の処理完了を目標として作業を進めている。
1 空自は、2022年11月、政府専用機の運航時において、SAFを初めて使用した。(2023年1月と5月の運航時においてもSAFを使用)
2 国家防衛戦略では、「海空域や電波を円滑に利用し、防衛関連施設の機能を十全に発揮できるよう、風力発電施設の設置等の社会経済活動との調和を図る効果的な仕組みを確立する」とされている。
3 風力発電設備の設置等による電波の伝搬障害を回避し電波を用いた自衛隊等の円滑かつ安全な活動を確保するための措置に関する法律案
4 有機フッ素化合物の一種であり、撥水性、撥油性、耐熱性の性質を持ち、これまで泡消火薬剤や半導体用反射防止剤・レジスト、金属メッキ処理剤などに使用されてきた。