世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)によると、2023年は工業化以前の1850~1900年の基準線を約1.4℃上回り、記録上最も暖かい年となった。温室効果ガスレベルは増加し続け、記録的な海面水温と海面上昇を引き起こしている。2023年の南極海氷の最大面積は観測史上最低で、過去最低面積より100万km2も減少した。これはフランスとドイツを合わせた面積より大きい。
大規模な洪水、猛暑と干ばつ、山火事などを含む異常気象と気候現象は全世界に大きな影響を与えた。例えば、2023年9月に発生した地中海のサイクロン「ダニエル」による洪水は、特にリビアでの多くの人命の喪失につながった。猛暑は特に同年7月後半に厳しく、南ヨーロッパと北アフリカで顕著だった。ハワイは単一の山火事で最も死者数が多かった。
こうした気候変動への対策として、国際社会は気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量を減らし、排出を吸収する「緩和」と、既に生じている、あるいは将来予測される気候変動の影響による被害を回避・軽減させる「適応」を行っている。
気候変動の問題は緊急性の高い世界の平和と安全に対する脅威とみなされている。同年11月30日から12月13日、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28:The 28th session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)がアラブ首長国連邦で開催され、パリ協定の実施状況を検討し、長期目標の達成に向けた全体としての進捗を評価する仕組みであるグローバル・ストックテイクについて、初めての決定が採択された。
米国は、気候危機に対する政府全体のアプローチにおける国防省の重要な役割を踏まえ、2年連続で国防省の高官をCOPに派遣している。オーウェンス国防次官補(エネルギー・環境・施設担当)は、気候変動が戦闘員の訓練、任務の遂行、戦術計画、プラットフォームと施設の取得と維持、国家や世界の安全保障を含む即応性に影響を与えるという認識を示した。
COP28に参加したストルテンベルグNATO事務総長も、気候変動が我々の安全にとって重要であり、従ってNATOにも重要であると強調した。気候変動の影響で人々は移動を強いられ、同時に希少な資源をめぐる競争も激化している。
また、NATOは化石燃料から安全で再生可能なエネルギーへの転換に強く賛成している。これはエネルギー安全保障とも関連しており、ロシアがウクライナへの侵攻後、強制手段としてガスを利用したことを踏まえ、エネルギー転換を行う際に、重要な材料を信頼できない供給者に依存しすぎるという同じ間違いを犯すべきではないと、ストルテンベルグ事務総長は指摘している。
さらに、NATOは軍事部門についても、2050年までに温室効果ガス排出量のネット・ゼロ1を達成すべきことを強調した。
また、NATOは2023年7月、事務総長報告書「気候変動と安全保障影響評価」を公表した。報告書は具体的なケーススタディを用い、異常気象がいかに軍の運用上のストレスを生み出し、装備品のライフサイクルを短縮し、その追加のメンテナンスや交換コストを発生させるかを明らかにしている。