安全保障・防衛分野における国際協力の必要性がかつてなく高まるなか、防衛省・自衛隊としても、わが国の安全および地域の平和と安定、さらには国際社会全体の平和と安定、繁栄の確保に積極的に寄与していく必要がある。
国家防衛戦略における第一の目標は、同盟国・同志国などと連携し、力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出していくことである。このため、同盟国のみならず、一か国でも多くの国々と連携を強化することが極めて重要であるとの観点から、自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)というビジョンの実現に資する取組を進めていくこととしている。
また、力による一方的な現状変更やその試みに対抗し、わが国の安全保障環境を確保するためには、同盟国・同志国と協力・連携を深めていくことが不可欠である。
さらに、グローバルな安全保障上の課題などに関しては、海洋における航行・上空飛行の自由や安全の確保、宇宙領域やサイバー領域の利用にかかる関係国との連携・協力、国際平和協力活動、海洋安全保障や気候変動に関する協力、軍備管理・軍縮、大量破壊兵器の不拡散などの取組をより積極的に推進することとしている。
こうした取組の実施にあたっては、日米同盟を重要な基軸と位置づけつつ、地域の特性や各国の事情を考慮したうえで、多角的・多層的な防衛協力・交流を積極的に推進していく。その際、同志国などとの連携強化を効果的に進める観点から、円滑化協定(RAA:Reciprocal Access Agreement)、物品役務相互提供協定(ACSA:Acquisition and Cross-Servicing Agreement)、防衛装備品・技術移転協定などの制度的枠組みの整備をさらに推進していく考えである。
KEY WORD円滑化協定(RAA)
一方の国の部隊が他方の国を訪問して協力活動を行う際の手続や同部隊の地位などを定めることにより、共同訓練や災害救助などの両国部隊間の協力活動の実施を円滑化するもの。
2024年4月現在、オーストラリア、英国との間で締結されている。
KEY WORD物品役務相互提供協定(ACSA)
共同訓練、国連PKO(Peacekeeping Operations)、人道的な国際救援活動大規模災害対処活動などのために必要な物品または役務の相互の提供に関する基本的な条件を定めるもの。
2024年4月現在、米国、オーストラリア、英国、カナダ、フランス、インドとの間で締結され、ドイツとの間で署名されている。
KEY WORD防衛装備品・技術移転協定
締約国間の防衛装備品および技術の移転などに関する一般的な法的枠組みを設定する国際約束。具体的には、個別の移転について決定・確認する手続きを定めるとともに、移転される防衛装備品や技術の適正な使用・管理などを義務付けるもの。
2024年4月現在、米国、英国、オーストラリア、インド、フィリピン、フランス、ドイツ、マレーシア、イタリア、インドネシア、ベトナム、タイ、スウェーデン、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)との間で締結されている(※米国とは対米武器・武器技術供与取極、英国とは日英武器・武器技術移転協定を締結)。
参照図表III-3-1(自由で開かれたインド太平洋(FOIP)ビジョンにおける防衛省の取組(イメージ))
資料:多角的・多層的な安全保障協力
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/index.html
動画:自由で開かれたインド太平洋(FOIP) 防衛省の取組
URL:https://youtu.be/q__RHctUc0I
資料:自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプラン【外務省HP】
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pp/page3_003666.html
グローバルなパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、政治・経済・軍事などにわたる国家間の競争が顕在化するなかで、インド太平洋地域の平和と安定は、わが国の安全保障に密接に関連するのみならず、国際社会においてもその重要性が増大してきている。
こうしたなか、防衛省・自衛隊としては、各国間の信頼を醸成しつつ、地域共通の安全保障上の課題に対して各国が協調して取り組むことができるよう、国際情勢、地域の特性、相手国の実情や安全保障上の課題を見据えながら、多角的・多層的な防衛協力・交流を戦略的に推進していく考えである。
また、力による一方的な現状変更やその試みを抑止し、各種事態において、同盟国・同志国などの支援を受けられるよう、平素から一層連携していくことが必要である。
防衛協力・交流の形態として、ハイレベルの会談、実務者協議など「人による協力・交流」、共同訓練・演習、戦略的寄港(航)など「部隊による協力・交流」のほか、他国の安全保障・防衛分野における人材育成や技術支援などを行う「能力構築支援」、自国の安全保障や平和貢献・国際協力の推進などのために行う「防衛装備・技術協力」などがある。
これまで防衛省・自衛隊は、二国間の対話など、人による協力・交流を通じて、いわば顔が見える関係を構築することにより、対立感や警戒感を緩和し、協調的・協力的な雰囲気を醸成する努力を行ってきた。これに加え、共同訓練・演習や能力構築支援、防衛装備・技術協力、さらに、RAA、ACSAなどの制度的な枠組みの整備など、多様な手段を適切に組み合わせ、二国間の防衛関係を従来の交流から協力へと段階的に向上させている。
また、多国間安全保障協力・交流も、従来の対話を中心とするものから国際秩序の維持・強化に向けた協力へと発展しつつある。こうした二国間・多国間の防衛協力・交流を多角的・多層的に推進し、望ましい安全保障環境の創出につなげていくことが重要となっている。
2023年5月に岸田内閣総理大臣が議長として主催したG7広島サミットにおいては、招待国の首脳とゼレンスキー・ウクライナ大統領を交えたセッションにおいて、法の支配や国連憲章の諸原則などの重要性について認識の一致を得ることができた。また、エネルギー・食料安全保障を含む世界経済や、気候変動、保健、開発といった地球規模の課題への対応をG7が主導し、グローバル・サウスと呼ばれる国々への関与を強化していくことで一致した。
G7広島サミット(2023年5月)【首相官邸HP】
広島サミット後の議長国記者会見において、岸田内閣総理大臣は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜き、国際的なパートナーへの関与を強化する観点から、引き続きG7の議論を主導していく旨表明した。
参照図表III-3-1-1(防衛協力・交流とは)、図表III-3-1-2(ハイレベル交流の実績(2023年4月~2024年3月))、図表III-3-1-3(自衛隊による寄港・寄航実績(2023年4月~2024年3月))、資料39(各種協定締結状況)、資料40(留学生受入実績(2023年度の新規受入人数))
法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序は、国際社会の安定と繁栄の礎である。特に、インド太平洋地域は、世界人口の半数を擁する世界の活力の中核であり、この地域を自由で開かれた「国際公共財」とすることにより、地域全体の平和と繁栄を確保していくことが重要である。
一方で、この地域においては、わが国周辺を含め、軍事力の急速な近代化や、軍事活動を活発化させている国がみられるなど、FOIPの実現のためには多くの課題が存在している。
こうした状況を踏まえ、防衛省・自衛隊としては、例えば、防衛協力・交流を活用しながら、主要なシーレーンの安定的な利用を継続できるように取組を進めている。また、軍事力の近代化や軍事活動を活発化させている国に対しては、相互理解や信頼醸成を進めながら、不測の事態を回避することで、わが国の安全を確保することとしている。さらに、地域内において、環境の変化に対応すべく取組を実施している各国に対しては、防衛協力・交流を通じてこうした取組に協力することにより、地域の平和と安定にも貢献することを目指している。
わが国は、日米同盟を基軸としつつ、日米豪印(クアッド)などの枠組みを通じて、同志国との協力を深化し、FOIPの実現に向けた取組をさらに進める方針である。東南アジア・南アジア・太平洋島嶼(しょ)国および中東・アフリカ・中南米地域の国々に対しては、幅広い手段を活用しながら、FOIPの実現に向けて協力を強化することとしている。例えば、2023年5月のG7広島サミットにおいて、各国首脳はFOIPの重要性を改めて表明し、同時期に行われた日米豪印首脳会合においても、引き続きFOIPという共通のビジョンへの強固なコミットメントを確認した。
防衛省・自衛隊もFOIPの実現に向け、防衛協力・交流を推進しており、同地域の沿岸国と良好な関係を確立し、自衛隊による港湾・空港の安定的な利用を可能にすることで、シーレーンの安定的な利用の維持に取り組んでいる。また、これらの国々が、インド太平洋地域の安定のための役割をさらに効果的に果たすことができるよう、共同訓練や能力構築支援といった取組を進めている。
同盟国である米国をはじめ、オーストラリア、インド、英国・フランス・ドイツなどの欧州諸国、カナダ、ニュージーランドは、わが国と基本的価値を共有するのみならず、インド太平洋地域に地理的・歴史的なつながりを有する国々である。これらの国々に対しては、インド太平洋地域へのさらなる関与を行うよう働きかけ、わが国単独の取組よりも効果的な取組を実施できるように防衛協力・交流を進めている。
FOIPというビジョンは包摂的であり、今後とも、このビジョンに賛同するすべての国と協力を推進することとしている。
中国に対しては、防衛交流の機会を通じ、国際的な行動規範の遵守やインド太平洋地域の平和と安定のために責任ある建設的な役割を果たすよう引き続き促していく。その際、わが国周辺における軍事活動の活発化や軍備の拡大に対するわが国の懸念を率直に伝えることで、相互理解や信頼醸成を進め、不測の事態を回避することにより、わが国の安全を確保することとしている。
ロシアとは、力による一方的な現状変更は認められないとの考えのもと、ウクライナ侵略を最大限非難しつつ、ロシアとの間で不測の事態や不必要な摩擦を招かないために必要な連絡を絶やさないようにする。