中東地域の平和と安定は、わが国を含む国際社会の平和と繁栄にとって極めて重要である。また、世界における主要なエネルギーの供給源であり、わが国の原油輸入量の約9割を依存する中東地域での日本関係船舶の航行の安全を確保することは、わが国にとっても非常に重要である。
中東地域においては、緊張が高まるなか、船舶を対象とした攻撃事案が生起し、2019年6月には日本関係船舶の被害も発生した。このような状況のもと、米国や欧州諸国などの各国は、その地域において艦船、航空機などを活用し、船舶の航行の安全のための取組を進めている。
わが国は、中東地域における緊張緩和と情勢の安定化に向けて、政府として外交的な取組を積極的に進めるとともに、政府内での議論を経て、2019年12月、日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について閣議決定した。そのなかで、わが国としては、中東地域における平和と安定および日本関係船舶の安全の確保のためのわが国独自の取組として、①中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けたさらなる外交努力、②関係業界との綿密な情報共有をはじめとする航行安全対策の徹底、③自衛隊アセットの活用による情報収集活動を行っていくこととしている。
本情報収集活動では、オマーン湾、アラビア海北部、バブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾の三海域の公海(沿岸国の排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)を含む。)を活動海域とし、派遣海賊対処行動航空隊のP-3C哨戒機に加え、派遣海賊対処行動水上部隊の護衛艦を活用することとしている。
防衛省・自衛隊が収集した情報については、内閣官房、国土交通省、外務省をはじめとする関係省庁に共有しており、官民連絡会議などを通じて関係業界にも共有するなど、政府としての航行安全対策に活用されている。
防衛省・自衛隊による情報収集活動は、政府の航行安全対策の一環として日本関係船舶の安全確保に必要な情報を収集するものである。
これは、不測の事態の発生など、状況が変化する場合への対応としての自衛隊法第82条に規定する海上警備行動に関し、その要否にかかる判断や発令時の円滑な実施に必要であることから、防衛省設置法第4条第1項第18号の規定に基づき実施するものとしている。
2020年1月、海賊対処部隊のP-3C哨戒機が、同年2月、派遣情報収集活動水上部隊の護衛艦が情報収集活動を開始した。
2023年11月の閣議決定に基づき、現在、護衛艦1隻、哨戒機1機が海賊対処活動と情報収集活動を兼務して実施している。
情報収集活動に従事中の航空隊の隊員
ア 水上部隊(2022年2月以降、派遣海賊対処行動水上部隊が兼務)
オマーン湾の公海とアラビア海北部の公海において活動している。確認した船舶数は2024年3月31日現在で累計90,577隻となっている。
イ 航空隊(派遣海賊対処行動航空隊)
アデン湾の公海とアラビア海北部の西側の公海において活動している。確認した船舶数は2024年3月31日現在で累計82,686隻となっている。
中東地域においては、高い緊張状態が継続していること、また、米国などによる海洋安全保障イニシアティブをはじめ、各国も活動を継続していることなどを踏まえ、2020年以降、政府は自衛隊の活動期間を毎年約1年間延長している。
なお、期間満了前に、日本関係船舶の航行の安全確保の必要性に照らし、自衛隊による活動が必要と認められなくなった場合には、活動期間の終了を待たず、その時点においてこの活動を終了するほか、情勢に顕著な変化が見られた場合は、国家安全保障会議において対応を検討することとしている。
参照図表III-1-2-1(中東地域における情報収集活動に従事する部隊)、図表III-1-2-2(自衛隊による情報収集のための活動(イメージ))、資料13(中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について)
わが国として、中東地域における日本関係船舶の航行の安全を確保するためにどのような対応が効果的かについて、原油の安定供給の確保、米国との関係、イランとの関係といった点も踏まえつつ、総合的に検討した結果、米国などの海洋安全保障イニシアティブには参加せず、日本独自の取組を適切に行っていくこととした。一方、中東地域における航行の安全を確保するため、米国とはこれまでも様々な形で緊密に連携してきているところであり、自衛隊の情報収集活動に際しても、わが国独自の取組を行うとの政府方針を踏まえつつ、同盟国である米国と適切に連携することとしている。このため、海自からバーレーンに所在する米中央海軍司令部へ、海上自衛官1名を連絡官として派遣し、米軍と情報共有を行っている。
また、2023年11月、イギリスの会社が運航するリベリア船籍タンカー「セントラルパーク」が一時的に乗っ取られた事案発生時に、イエメンのホーシー派が支配する地域からアデン湾に向けて弾道ミサイルが発射された際にも、その発射情報について米国から迅速に共有を受けている。
わが国独自の取組として実施する今般の情報収集活動については、イランを含む沿岸国の理解を得ることは重要であり、これまでもこの活動について、透明性をもって説明してきている。また、中東地域における船舶の航行の安全確保については、沿岸国の役割が重要であり、わが国の取組について、沿岸国に働きかけ、理解を得てきている。
資料:中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/m_east/index.html