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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

5 国際社会の平和と安定への貢献に関する枠組み

1 国際平和共同対処事態への対応

国際平和共同対処事態に際し、わが国は、国際平和支援法21に基づき、国際社会の平和および安全の確保のため、国際社会の平和と安全のために活動する諸外国の軍隊などに対して協力支援活動などを行うことができる。同法は、あらゆる事態への切れ目のない対応を可能にするという観点から、一般法として整備することにより、迅速かつ効果的に活動を行い、国際社会の平和および安全に主体的かつ積極的に寄与することができるようにしている。

KEY WORD国際平和共同対処事態

国際社会の平和および安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国連憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、わが国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの。

(1)要件

わが国が行う協力支援活動などの対象となる諸外国の軍隊などの活動について、次のいずれかの国連(総会または安全保障理事会)決議の存在を要件としている。

  1. ① 支援対象となる外国が国際社会の平和および安全を脅かす事態に対処するための活動を行うことを決定、要請、勧告、または認める決議
  2. ② ①のほか、当該事態が平和に対する脅威または平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国連加盟国の取組を求める決議
(2)対応措置

国際平和共同対処事態に際し、次の対応措置を実施することができる。

ア 協力支援活動

諸外国の軍隊などに対する物品および役務の提供(補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港・港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務および建設)。

なお、重要影響事態安全確保法と同様、武器の提供は行わないものの、「弾薬の提供」と「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備」を実施できる。

イ 捜索救助活動

ウ 船舶検査活動(船舶検査活動法に規定するもの)

(3)武力の行使との一体化に対する回避措置など

他国の武力の行使との一体化を回避するとともに、自衛隊員の安全を確保するため、次の措置が規定されている。

  • 現に戦闘行為が行われている現場では、活動を実施しない。ただし、捜索救助活動については、遭難者が既に発見され、救助を開始しているときは、部隊等の安全が確保される限り当該遭難者にかかる捜索救助活動を継続できる。
  • 自衛隊の部隊等の長などは、活動の実施場所またはその近傍において戦闘行為が行われるに至った場合、またはそれが予測される場合には活動の一時休止などを行う。
  • 防衛大臣は実施区域を指定し、その区域の全部または一部において、活動を円滑かつ安全に実施することが困難であると認める場合などには、速やかにその指定を変更し、またはそこで実施されている活動の中断を命じなければならない。

参照資料12(国際平和協力活動関連法の概要比較)

2 国際平和協力業務

国際平和協力法22は、わが国が国際連合を中心とした国際平和のための努力に積極的に寄与することを目的としている。同法は、国際連合平和維持活動(国連PKO(Peacekeeping Operations))23、国際連携平和安全活動24などに対し適切かつ迅速な協力を行うため、国際平和協力業務の実施体制を整備するとともに、これらの活動に対する物資協力のための措置などを講ずる手続などを定めている。

(1)参加要件

ア 国連PKO

国連PKOへの参加にあたっての基本方針としては、いわゆる「参加5原則」がある。

  1. ① 紛争当事者の間で停戦の合意が成立していること。
  2. ② 国連平和維持隊が活動する地域の属する国および紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動および当該国連平和維持隊へのわが国の参加に同意していること。
  3. ③ 当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的な立場を厳守すること。
  4. ④ 上記の原則にいずれかが満たされない状況が生じた場合には、わが国から参加した部隊は撤収することができること。
  5. ⑤ 武器使用は要員の生命などの防護のための必要最小限のものを基本。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、いわゆる「安全確保業務」およびいわゆる「駆け付け警護」の実施にあたり、自己保存型および武器等防護を超える武器使用が可能。

イ 国際連携平和安全活動

国際連携平和安全活動は、その性格、内容などが国連PKOと類似したものであるため、参加5原則を満たしたうえで、次のいずれかが存在する場合に参加可能である。

  1. ① 国連の総会、安全保障理事会または経済社会理事会が行う決議
  2. ② 次の国際機関が行う要請
    • 国連
    • 国連の総会によって設立された機関または国連の専門機関で、国連難民高等弁務官事務所その他政令で定めるもの
    • 当該活動にかかる実績もしくは専門的能力を有する国連憲章第52条に規定する地域的機関または多国間の条約により設立された機関で、欧州連合その他政令で定めるもの
  3. ③ 当該活動が行われる地域の属する国の要請(国連憲章第7条1に規定する国連の主要機関のいずれかの支持を受けたものに限る)
(2)主な業務内容
  • 停戦監視、被災民救援
  • 防護を必要とする住民、被災民などの生命、身体、財産に対する危害の防止、抑止その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問、警護(いわゆる「安全確保業務」)
  • 活動関係者の生命または身体に対する不測の侵害または危難が生じ、または生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命、身体の保護(いわゆる「駆け付け警護」)
  • 国の防衛に関する組織などの設立または再建を援助するための助言または指導
  • 活動を統括・調整する組織において行う業務の実施に必要な企画、立案、調整または情報の収集整理(司令部業務)
(3)その他

ア 自衛官の国連への派遣(国連PKOの司令官などの派遣)

国連の要請に応じ、国連の業務であって、国連PKOに参加する自衛隊の部隊等または外国軍隊の部隊により実施される業務の統括に関するものに従事させるため、内閣総理大臣の同意を得て、自衛官を派遣することが可能である25

イ 大規模災害に対処する米軍等に対する物品または役務の提供

自衛隊の部隊等と共に同一の地域に所在して大規模な災害に対処する米国・オーストラリア・英国・フランス・カナダ・インド・ドイツの軍隊から応急の措置として要請があった場合は、国際平和協力業務などの実施に支障のない範囲で、物品または役務の提供が可能である。

参照III部3章3節2項(国連PKOなどへの取組)資料12(国際平和協力活動関連法の概要比較)資料60(自衛隊が行った国際平和協力活動など)

3 国際緊急援助活動

国際緊急援助隊法26は、海外の地域、特に開発途上にある地域における大規模な災害に対し、救助活動や医療活動などを実施する国際緊急援助隊を派遣するために必要な措置について定めている。

自衛隊の部隊等による活動については、外務大臣が特に必要があると認める場合には、防衛大臣と協議を行うこととしており、防衛大臣は、協議に基づき、自衛隊の部隊等に、救助活動、医療活動、人員または物資の輸送などを行わせることができる27

参照III部3章3節3項(国際緊急援助活動への取組)資料12(国際平和協力活動関連法の概要比較)資料60(自衛隊が行った国際平和協力活動など)

21 国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律

22 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律

23 国連の統括する枠組みのもと、紛争に対処して国際の平和および安全を維持することを目的として行われる活動であって、国連事務総長の要請に基づき参加する2以上の国および国連により、紛争当事者の同意などを確保した上で実施される活動。

24 国連が統括しない枠組みのもと、紛争に対処して国際の平和および安全を維持することを目的として行われる活動であって、2以上の国の連携により、紛争当時者の同意などを確保した上で実施される活動。

25 この自衛官の派遣は、派遣される自衛官が従事することとなる業務にかかる国連PKOが行われる地域の属する国および紛争当事者の当該国連PKOが行われることについての同意(紛争当事者が存在しない場合にあっては、当該国連PKOが行われる地域の属する国の同意)が当該派遣の期間を通じて安定的に維持されると認められ、かつ、当該派遣を中断する事情が生ずる見込みがないと認められる場合に限ることとしている。

26 国際緊急援助隊の派遣に関する法律

27 被災国内において、治安の状況などによる危険が存在し、国際緊急援助活動またはこれにかかる輸送を行う人員の生命、身体、当該活動にかかる機材などを防護するために武器の使用が必要と認められる場合には、国際緊急援助隊を派遣しないこととしている。したがって、被災国内で国際緊急援助活動などを行う人員の生命、身体、当該活動にかかる機材などの防護のために、当該国内において武器を携行することはない。