Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 インド太平洋地域における気候変動

インド太平洋地域においても、各地で表面温度が上昇している。例えば、アジア地域では、世界の平均を上回る海面上昇2が生じたり、ヒマラヤ・ヒンドゥークシュ地方の氷河が融解し続けたりしている。また、インド洋と西太平洋赤道付近の海面温度は、世界平均より速い温暖化が観測されている。

この地域では、海面上昇や極端な気象が安全保障環境を複雑にしており、気候変動に関連する軍事作戦が増加する可能性を念頭に、各種演習3が実施されている。2023年4月から5月にかけて行われたニューカレドニア駐留仏軍主催多国間訓練「南十字星」は、自然災害後の危機管理と人道支援に関する訓練で、19か国から約3,000人が参加し、病院施設を有する強襲揚陸艦「ディクスミュード」などが運用された。

また、運用面については、例えば、米国はグアム、マーシャル諸島、パラオに重要な軍事アセットが存在し、これらは災害に対して脆弱とされる。ヒックス国防副長官は2023年8月、インド太平洋地域について、「最も抗たん性があり、最もうまく気候変動の影響に対処できる国は、戦略的優位を獲得することになる。そのため国防省は競争相手よりもうまく迅速に気候変動に備え、適応しなければならない」と述べた。

2 海面上昇は島嶼国だけでなく、例えば中国大陸の経済的に重要な沿岸地域でも大きな影響を及ぼしていると指摘される。

3 2022年には、米海軍省は気候変動が任務、即応性、戦闘能力に及ぼす影響を研究するため、初めて気候に関する机上演習を実施した。