朝鮮半島では、半世紀以上にわたり同一民族の南北分断状態が続き、現在も、非武装地帯(DMZ:Demilitarized Zone)を挟んで150万人程度の地上軍が厳しく対峙している。
このような状況にある朝鮮半島の平和と安定は、わが国のみならず、東アジア全域の平和と安定にとって極めて重要な課題である。
参照図表I-3-4-1(朝鮮半島における軍事力の対峙)
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)国務委員長1(金委員長)は2016年5月、経済建設と核武力建設を並行して進めていくという、いわゆる「並進路線」を「先軍政治2」とあわせて堅持する旨明らかにした。実際に、北朝鮮は同年から翌2017年にかけて3回の核実験や多数の弾道ミサイルの発射を強行し、国家核武力の完成を実現した旨発表したが、こうした動きを受け、国連安保理決議による制裁が強化されたほか、わが国や米国が独自の措置を講じてきた。
転じて2018年に入ると、金委員長は「並進路線」が貫徹されたとし、「社会主義経済建設に総力を集中」する「新たな戦略的路線」を発表した。米朝や南北間の対話機運が高まるなか、金委員長は「核実験と大陸間弾道ロケット試験発射」の中止決定、核実験場の爆破公開などを進め、同年6月の米朝首脳会談で朝鮮半島の完全な非核化の意思を表明した。
しかし、2019年2月の米朝首脳会談は、双方が合意に達することなく終了し、金委員長は同年12月、米国の対北朝鮮敵視が撤回されるまで、戦略兵器開発を続ける旨表明した。また、2021年1月には、米国を敵視して「核戦争抑止力を一層強化」するなど、核・ミサイル能力の開発を継続する姿勢を示した。
その後も北朝鮮は米国の対北朝鮮姿勢を批判しつつ、「自衛的」な権利として核武力をはじめとする軍事力強化への意思を表明し続けている。近年、北朝鮮はかつてない高い頻度で弾道ミサイルなどの発射を繰り返した。2022年2月、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)級弾道ミサイルの発射を再開し、2023年9月には憲法に「核兵器発展を高度化」するとの内容を明記した。
これまでも北朝鮮は、6回の核実験に加え、核兵器の運搬手段たる弾道ミサイルの発射を繰り返し、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発推進や運用能力の向上を図ってきた。技術的には、わが国を射程に収める弾道ミサイルについては、必要な核兵器の小型化・弾頭化などを既に実現し、これによりわが国を攻撃する能力を保有しているとみられるが、北朝鮮は今後も引き続き核・ミサイルをはじめとする戦力・即応態勢の維持と一層の強化に努めていくものと考えられる。また、北朝鮮は大規模な特殊部隊を保持しているほか、サイバー部隊の強化を進めているとみられる。
2024年1月の最高人民会議に関する北朝鮮の発表によれば、北朝鮮の同年度予算に占める国防費の割合は15.9%となっているが、これは実際の国防費の一部にすぎないとみられ、深刻な経済的困難に直面し、人権状況も全く改善されないなかにあっても、軍事面に資源を重点的に配分し続けている。加えて、北朝鮮は、わが国を含む関係国に対する挑発的言動を繰り返してきた。
北朝鮮のこうした軍事動向は、わが国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっており、地域と国際社会の平和と安全を著しく損なうものである。また、大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっている。
北朝鮮の核開発・保有が認められないことは当然であり、弾道ミサイルなどの開発・配備状況、朝鮮半島における軍事的対峙、大量破壊兵器やミサイルの拡散の動きなどともあわせ、わが国として強い関心を持って注視していく必要がある。また、拉致問題については、引き続き、米国をはじめとする関係国と緊密に連携し、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現すべく、全力を尽くしていく。
北朝鮮は、南北分断下で一貫して軍事力を増強してきた3が、冷戦終結による旧ソ連圏からの軍事援助の減少や経済低迷、韓国軍の近代化といった要因から、装備の多くは旧式化し、通常戦力では韓国軍と在韓米軍に対して著しい質的格差がみられる。それでも、北朝鮮は、核・ミサイル能力の増強に集中的に取り組む傍ら、通常戦力についても、研究開発や訓練を継続的に実施するなど、一定の戦力基盤の保有に注力しているものとみられる。
北朝鮮の総兵力は陸軍を中心に約128万人にのぼり、DMZ付近に展開する砲兵部隊を含め、依然として大規模な軍事力を維持している。また、情報収集や破壊工作などに従事する大規模な特殊部隊などを保有しているほか、全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、北朝鮮の特徴の一つである。
さらに、北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルなどの増強に集中的に取り組んでいると考えられる。米国全土を射程に含むICBM級弾道ミサイルの開発推進と同時に、近年、低空を変則的な軌道で飛翔することが可能な短距離弾道ミサイル(SRBM:Short-Range Ballistic Missile)などを繰り返し発射し、急速に関連技術や運用能力の向上を図っており、その発射態様も鉄道発射型や潜水艦発射型など多様化させつつ、より実戦的なSRBM戦力の拡充に努めているとみられる。また、2021年1月に金委員長が「中長距離巡航ミサイルをはじめとする先端核戦術兵器」や「戦術核兵器」の開発を掲げて以降、北朝鮮は実際に長距離巡航ミサイルの試験発射を成功させた旨の発表や、「戦術核運用部隊」の訓練と称する弾道ミサイルの発射などを行っている。
一連の開発・発射の背景には、体制維持・生存のため、核兵器や長射程弾道ミサイルの保有による核抑止力の獲得に加え、米韓両軍との間で発生しうる通常戦力や戦術核を用いた武力紛争においても対処可能な手段を獲得するという狙いがあるものとみられる4。北朝鮮は、2021年1月の朝鮮労働党第8回大会で提示されたとされる「国防科学発展及び武器体系開発5か年計画」(「5か年計画」)に沿って核・ミサイルをはじめとする軍事力を強化していく旨を累次にわたって明らかにしており5、引き続きこの「5か年計画」のもとで各種兵器の研究開発・運用能力向上に注力していくものと考えられる。
陸上戦力は、約110万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ付近に展開しているとみられる。その戦力は歩兵が中心であるが、戦車3,500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm自走砲といった長射程火砲をDMZ沿いに配備していると考えられ、ソウルを含む韓国北部の都市・拠点などが射程に入っている。また、近年、射程を延長した各種多連装ロケットの開発・運用を進めているとの指摘がある。
海上戦力は、約760隻、約10万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、旧式のロメオ級潜水艦約20隻のほか、特殊部隊の潜入などに用いるとみられる小型潜水艦約30隻とエアクッション揚陸艇約140隻を有している。2023年9月には、ロメオ級潜水艦を改修したとみられる新型の潜水艦を進水させ、これを「戦術核攻撃潜水艦」と呼称した。
航空戦力は、約550機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG-29戦闘機やSu-25攻撃機といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられるAn-2輸送機を多数保有している。
また、いわゆる非対称戦力として、大規模な特殊部隊6を保有しているほか、近年は非対称的な戦力としてサイバー部隊を強化し、軍事機密情報や核・ミサイル開発のための資金の窃取、他国の重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられている。
これまでも北朝鮮は弾道ミサイルなどの発射を繰り返してきたが、特に2022年に入ってからは、かつてない高い頻度での発射を強行した。2018年以降行ってきていなかった中距離弾道ミサイル(IRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile)級以上の弾道ミサイルの発射を再開すると同時に、低空を変則的な軌道で飛翔する弾道ミサイルを発射台付き車両7(TEL:Transporter-Erector-Launcher)や潜水艦、鉄道といった様々なプラットフォームから発射することで、兆候把握・探知・迎撃が困難な奇襲的攻撃能力の一層の強化を企図しているとみられる。
2023年以降は、固体燃料推進方式のICBM級やIRBM級弾道ミサイルの発射、衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射などを行い、保有する装備体系の多様化や、核・ミサイル運用能力を補完する情報収集・警戒監視・偵察(ISR:Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)手段の確保といった、質的な意味での核・ミサイル能力の向上に注力している。
加えて、核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、少なくともノドンやスカッドER(Extended Range)といったわが国を射程に収める弾道ミサイルについては、必要な核兵器の小型化・弾頭化などを既に実現し、これによりわが国を攻撃する能力を保有しているとみられる。また、北朝鮮は累次にわたり、さらなる核武力強化への意思を表明している。
ア 核兵器計画の現状
これまでに6回の核実験を行ったことなどを踏まえれば、北朝鮮の核兵器計画は相当に進んでいるものと考えられる。
北朝鮮は寧辺(ヨンビョン)に5MWe黒鉛減速炉や実験用軽水炉といった原子炉8や再処理工場、ウラン濃縮施設などを保有している。5MWe黒鉛減速炉については、2018年から稼働を停止していたとみられていたが、2021年7月以降再稼働しているとの指摘もある9。稼働している場合、年間約6kgのプルトニウム(核弾頭1個~1.5個分)を生産可能との指摘がある。実験用軽水炉については、2023年10月以降試運転を行っているとの指摘がある10。
核兵器の原料となりうる核分裂性物質11であるプルトニウムについて、北朝鮮はこれまで製造・抽出を数回にわたり示唆してきており12、原子炉の再稼働や稼働開始は、北朝鮮によるプルトニウム製造・抽出につながりうることから、その動向が強く懸念される。
また、同じく核兵器の原料となりうる高濃縮ウランについては、北朝鮮は2009年6月にウラン濃縮活動への着手を宣言した。2010年11月には、訪朝した米国人の核専門家に対してウラン濃縮施設を公開し、その後、数千基規模の遠心分離機を備えたウラン濃縮工場の稼動に言及した。このウラン濃縮工場は、近年も施設拡張が指摘されるなど、濃縮能力を高めている可能性もある。加えて、北朝鮮が公表していないウラン濃縮施設が存在するとの指摘もある。こうしたウラン濃縮に関する北朝鮮の一連の動きは、北朝鮮が、プルトニウムに加えて、高濃縮ウランを用いた核兵器開発を推進している可能性があることを示している13。
一般に、ウラン濃縮に用いられる施設の方がプルトニウム生産に用いられる原子炉よりも外観上の秘匿度が高く、外部からその活動を把握しがたいとされる。一方、プルトニウムの方がウランよりも臨界量が小さく、核兵器の小型化・軽量化が容易との指摘もある。これら双方の利点にかんがみ、北朝鮮は、今後もプルトニウム型・ウラン型の双方について開発を推進していく可能性がある。
北朝鮮は2006年10月9日、2009年5月25日、2013年2月12日、2016年1月6日、同年9月9日、2017年9月3日に核実験を実施した。北朝鮮は、これらを通じて必要なデータの収集を行うなどして、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化・弾頭化を追求しつつ、核兵器計画を進展させている可能性が高い。例えば、2017年9月には、金委員長が核兵器研究所を視察し、ICBMに搭載できる水爆を視察した旨公表したほか、同日に強行された6回目の核実験について、「ICBM装着用水爆実験を成功裏に断行した」と発表している14。
核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化について、米国、旧ソ連、英国、フランス、中国が1960年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや過去6回の核実験を通じた技術的成熟が見込まれることなどを踏まえれば、北朝鮮はわが国を射程に収める弾道ミサイルについては、必要な核兵器の小型化・弾頭化などを既に実現しているとみられる。また、北朝鮮が約30発(全体としては50から70発分の核弾頭を生産するだけの核分裂性物質を貯蔵)の核弾頭を保有しているとの指摘もある15。
加えて、2022年3月以降、北朝鮮が2018年に爆破を公開していた北部の核実験場の復旧を進めているという指摘がなされるなど、北朝鮮がさらなる核実験を実施するための準備が整っている可能性がある。
イ 核兵器計画の背景と今後の見通し
北朝鮮の究極的な目標は体制の維持であるとみられ、北朝鮮はこの目的を達するために、独自の核抑止力を構築して核兵器を含む米国の脅威に対抗すべく、核開発を推進してきている。こうした認識は、米国の目的は「わが政権」を崩壊させることであって、絶対に核を放棄することはできないとする金委員長の演説16などからも明らかであり、今後も、北朝鮮は米国全土を射程に含む長距離ミサイルの開発推進とあわせて核開発を進め、対米抑止力の獲得に注力していくものと考えられる。
一方で、北朝鮮は、厳しい対北朝鮮政策をとる韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権と対峙するなかで、韓国を「主敵」と表現し、核攻撃の対象から排除しない旨も繰り返し言明しており、対米抑止力としての核兵器とあわせ、朝鮮半島で生じうる武力紛争への対処を念頭に置いた戦術核兵器の開発も追求していく姿勢を示している。
2022年9月、北朝鮮は、「戦争を抑止することを基本使命」とし、抑止が失敗した場合には「侵略と攻撃を撃退して戦争の決定的勝利を達成する」といった核兵器の使命や指揮統制、使用条件などについて定めた法令「核武力政策について」を採択した。金委員長は、この法令により「核保有国としての地位が不可逆的なものになった」などと核開発の正当性を主張した。また、この法令によれば、核攻撃か通常攻撃かを問わず、「指導部」や「重要戦略対象」に対する攻撃が差し迫っていると判断される場合には核兵器を使用できることとされているほか、特に「国家核武力に対する指揮・統制体系」が危険にさらされた場合には、自動的・即時に「核打撃」を実施する旨が定められていることから、北朝鮮は、核兵器の実戦での使用を想定している可能性が考えられる。
実際に、北朝鮮は同月末から10月にかけて「戦術核運用部隊」の訓練としてミサイル発射を繰り返したほか、2023年3月にも、「核反撃想定総合戦術訓練」と称するものをはじめ、核弾頭を模擬した試験用弾頭を標的上空で起爆させたなどと実戦的訓練であることを主張しつつ、複数回のミサイル発射を重ねた。また、同月には、金委員長が担当部門から戦術核兵器の説明を受けたほか、兵器級核物質や核兵器の生産拡大を指示するなどして、「核兵器の兵器化事業を指導した」旨を発表した。
金正恩委員長による核兵器の兵器化事業現地指導の発表時(2023年3月)に公開された画像【AFP=時事】
さらに、近い将来、ICBM級弾道ミサイルの多弾頭化や戦術核兵器を実用化するため、北朝鮮がさらなる核実験を通じて核兵器の一層の小型化を追求する可能性が考えられる17。
北朝鮮の生物兵器や化学兵器の開発状況などについては、北朝鮮の閉鎖的な体制に加え、これらの製造に必要な資材・技術の多くが軍民両用であり偽装が容易であるため、その詳細は不明である。しかし、化学兵器については、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有しているとみられるほか、生物兵器についても一定の生産基盤を有しているとみられる18。化学兵器としては、サリン、VX、マスタードなどの保有が、生物兵器に使用されうる生物剤としては、炭疽菌(たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペストなどの保有が指摘されている。
また、北朝鮮が弾頭に生物兵器や化学兵器を搭載しうる可能性も否定できないとみられている。
北朝鮮が保有・開発しているとみられる各種ミサイルは次のとおりである。
参照図表I-3-4-2(北朝鮮が保有・開発してきた弾道ミサイルなど)、図表I-3-4-3(北朝鮮の弾道ミサイルの射程)、図表I-3-4-4(北朝鮮の弾道ミサイルなどの発射の主な動向)、図表I-3-4-5(北朝鮮の弾道ミサイルがわが国上空を通過した事例)
ア 北朝鮮が保有・開発する主な弾道ミサイルなど19
(ア)短距離弾道ミサイル(SRBM) A~D(鉄道発射型を含む)
北朝鮮は2019年以降、従来保有していたスカッドなどの液体燃料推進弾道ミサイルとは異なる、複数種類の短距離弾道ミサイルを発射した。公表画像では、装輪式または装軌式(キャタピラ式)のTELや鉄道車両から発射される様子、固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認できる。これらの短距離弾道ミサイルは、その多くが北朝鮮東岸の沿岸付近に向けて発射されている。特定の目標を狙って着弾させたとみられる画像が公表されることもあり、運用能力向上を企図しているものと考えられる。
① 短距離弾道ミサイルA(北朝鮮は「新型戦術誘導兵器」などと呼称)
短距離弾道ミサイルAは、実績に基づく最大飛翔距離が800km程度であり、外形上、ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」と類似点がある。通常の弾道ミサイルよりも低空を、変則的な軌道で飛翔することが可能とみられるほか、核弾頭の搭載が可能との指摘もある20。
また、北朝鮮は、2021年9月15日と2022年1月14日、各日2発の短距離弾道ミサイルを発射した。北朝鮮の公表画像に基づけば、このミサイルは一般の貨車を改装したとみられる鉄道車両から発射されているが、短距離弾道ミサイルAと外形上の類似点があり、このミサイルをベースとして開発された可能性がある。北朝鮮は「鉄道機動ミサイル連隊」による射撃訓練と発表しており、今後の組織拡大の意向も表明している。
② 短距離弾道ミサイルB(北朝鮮は「新兵器」や「戦術誘導兵器」などと呼称)
短距離弾道ミサイルBは、実績に基づく最大飛翔距離が400km程度であり、また、通常の弾道ミサイルよりも低空を、変則的な軌道で飛翔することが可能とみられる。TELについては、北朝鮮が公表した画像では、様々な系統が確認できる。
③ 短距離弾道ミサイルC(北朝鮮は「超大型放射砲」と呼称)
短距離弾道ミサイルCは、実績に基づく最大飛翔距離が400km程度である。発射の間隔が1分未満と推定されるものもあり、飽和攻撃などに必要な連続射撃能力の向上を企図していると考えられるほか、金委員長は戦術核の搭載が可能である旨言及している21。TELについては、北朝鮮が公表した画像では、様々な系統が確認できる。
④ 短距離弾道ミサイルD(北朝鮮は「新型戦術誘導弾」と呼称)
短距離弾道ミサイルDは、短距離弾道ミサイルAをベースに開発されたとの指摘もあり、通常の弾道ミサイルよりも低空を、変則的な軌道で飛翔することが可能とみられ、最大射程は約750kmに及ぶ可能性がある。
このほか、北朝鮮は2019年7月31日と8月2日に、短距離弾道ミサイルの可能性があるものを各日2発発射している。また、2022年11月2日に発射されそれぞれ約150km程度と約200km程度飛翔した2発の弾道ミサイルの詳細については、分析を行っているところである。
参照図表I-3-4-6(SRBM A~D(鉄道発射型を含む)の発射日一覧)
(イ)スカッド
スカッドは単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、TELに搭載されて運用される。
スカッドBは射程約300km、スカッドCはBの射程を約500kmに延長したとみられる短距離弾道ミサイルで、北朝鮮はこれらを生産・保有するとともに、中東諸国などへ輸出してきたとみられている。2022年11月3日には3発のスカッドCが発射された。
スカッドERは、スカッドの胴体部分の延長や弾頭重量の軽量化などにより射程を延長した弾道ミサイルで、射程は約1,000kmに達し、わが国の一部が射程内に入るとみられる。2022年12月18日に発射された2発の弾道ミサイルについて、北朝鮮は画像とともに「偵察衛星」開発のための重要試験を行った旨公表したが、このミサイルはスカッドERをベースとした弾道ミサイルであった可能性がある。
さらに、北朝鮮は、スカッドを改良したとみられる弾道ミサイルも開発している。この弾道ミサイルは、2017年5月29日に1発が発射された。翌日、北朝鮮は、精密操縦誘導システムを導入した弾道ロケットの新開発と試験発射の成功を発表した。
また、北朝鮮が公表した画像に基づけば、装軌式(キャタピラ式)TELから発射される様子や弾頭部に小型の翼とみられるものが確認されるなど、これまでのスカッドとは異なる特徴が確認される一方、弾頭部以外の形状や長さは類似しており、かつ、液体燃料推進方式のエンジンの特徴である直線状の炎が確認できる。この弾道ミサイルは、終末誘導機動弾頭(MaRV:Maneuverable Re-entry Vehicle)を装備しているとの指摘もある。
(ウ)ノドン
ノドンは、単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、TELに搭載されて運用される。射程約1,300kmに達し、わが国のほぼ全域がその射程内に入るとみられる。
ノドンの性能の詳細は確認されていないが、スカッドの技術をもとにしているとみられており、例えば、特定の施設をピンポイントに攻撃できる程度ではないと考えられるものの、命中精度の向上が図られているとの指摘もある。2016年7月19日のスカッド1発とノドン2発の発射翌日に北朝鮮が発表した画像においては、弾頭部の改良により精度の向上を図ったタイプ(弾頭重量の軽量化により射程は約1,500kmに達するとみられる)の発射が初めて確認されている。
(エ)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)
北朝鮮はSLBMを1発搭載・発射することが可能なコレ級潜水艦(排水量約1,500トン)を1隻保有し、主に試験艦として運用しているとみられる。これに加え、2023年9月には、従来保有しているロメオ級潜水艦を改修したとみられる「戦術核攻撃潜水艦」と称する潜水艦が登場した。金正恩委員長は、既存の中型潜水艦を全て戦術核が搭載可能な潜水艦に改造する旨表明している。2021年1月には、金委員長が、原子力潜水艦の保有という目標に言及していることから、ロメオ級潜水艦の改修の傍ら、原子力推進潜水艦の建造にも引き続き注力するものとみられる。
北朝鮮はこれらに搭載するSLBMの開発も進めてきており、2015年5月に初めて、SLBMの試験発射に成功したと発表するなど24、弾道ミサイルによる打撃能力の多様化と残存性の向上を企図しているものと考えられる。
① 「北極星」型潜水艦発射弾道ミサイル(北朝鮮は「北極星」型と呼称)
コレ級潜水艦から発射される潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)である。これまで北朝鮮が公表した画像や映像から判断すると、空中にミサイルを射出した後に点火する、いわゆる「コールド・ローンチシステム」の運用に成功している可能性がある。また、ミサイルから噴出する炎の形や煙の色などから、固体燃料推進方式が採用されていると考えられる。通常の軌道で発射すれば、射程は1,000kmを超えるとみられる。
② 「北極星3」型潜水艦発射弾道ミサイル(北朝鮮は「北極星3」型と呼称)
2019年10月に発射された「北極星」型とは異なるSLBMであり、通常の軌道で発射されれば、射程は約2,000kmとなる可能性がある。北朝鮮が公表した画像では、固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認できる。なお、このSLBMは、水中発射試験装置から発射された可能性がある。
さらに、北朝鮮は、2020年10月と2021年1月の軍事パレードに、それぞれ「北極星4」、「北極星5」と記載された、発射が確認されていない新型のSLBMの可能性のあるものを登場させている25。
③ 新型SLBM
2021年10月以降発射されている新型の潜水艦発射弾道ミサイルであり、実績に基づく最大飛翔距離が約650km程度である。2022年9月の発射について、北朝鮮は後日、北西部の「貯水池水中発射場」で戦術核弾頭搭載を模擬した弾道ミサイルの発射訓練を行ったことや、「貯水池水中発射場建設」計画の存在を明らかにしている。
北朝鮮の公表画像に基づけば、このミサイルは短距離弾道ミサイルAと外形上の類似点があることから、このミサイルをベースとして開発された可能性がある。
(オ)北極星系列の地上発射型弾道ミサイル(北朝鮮は「北極星2」型と呼称)
北朝鮮が「北極星」型SLBMを地上発射型に改良したとみられる固体燃料推進方式の弾道ミサイルであり、通常の軌道で発射されたとすれば、射程は1,000kmを超えるとみられる。2017年2月の発射翌日、2016年8月のSLBM発射の成果に基づき地対地弾道弾として開発したと発表した。また、2017年5月の発射翌日には、試験発射が再び成功し、金委員長が「部隊実戦配備」を承認した旨発表している。
さらに、北朝鮮の公表画像には、いずれにおいても、装軌式(キャタピラ式)TELから発射され、空中にミサイルを射出した後に点火する、いわゆる「コールド・ローンチシステム」により発射される様子が確認される。
参照図表I-3-4-7(SLBMと北極星系列の地上発射型弾道ミサイルの発射日・発射プラットフォーム一覧)
(カ)中距離弾道ミサイル(IRBM)級弾道ミサイル
① 「火星12」型(北朝鮮の呼称による)
北朝鮮は、液体燃料方式のIRBM級弾道ミサイルをこれまでに4発発射している。2017年5月14日と2022年1月30日には各1発、いずれも飛翔形態からロフテッド軌道で発射されたと推定されるが、仮に通常の軌道で発射されたとすれば、射程は最大で約5,000kmに達するとみられる。また、北朝鮮が発射翌日に公表した画像では、液体燃料推進方式のエンジンの特徴である直線状の炎が確認される。
2017年8月29日と同年9月15日には、渡島半島(北海道)付近と襟裳岬(北海道)付近のわが国領域の上空を通過する形で「火星12」型が1発ずつ発射された。「火星12」型は、このときの飛翔距離などを踏まえれば、IRBMとしての一定の機能を示したと考えられる26。
このほか、2022年10月4日にも、北朝鮮は1発の弾道ミサイルをわが国の青森県上空を通過させる形で発射した。このときの飛翔距離が約4,600km程度に達したことを踏まえれば、このミサイルはIRBM以上の射程を有する弾道ミサイルであったと推定される。北朝鮮は後日、「新型地対地中長距離弾道ミサイル」を発射した旨発表した。このとき公表された画像からは、撮影日時への言及はなかったものの、液体燃料推進方式のエンジンの特徴である直線状の炎や、「火星12」型のものと類似したTELが確認される一方で、「火星12」型とは異なる弾頭形状やエンジン構造が確認されることから、北朝鮮がこのときに新型のIRBM級弾道ミサイルを発射した可能性も否定できない。
② 固体燃料推進方式の新型中距離弾道ミサイル(IRBM)級弾道ミサイル
北朝鮮は、2024年に入って、固体燃料推進方式のIRBM級弾道ミサイルを1月14日と4月2日にそれぞれ1発発射している。北朝鮮の公表画像からは、1月14日の弾道ミサイルは円錐形状、4月2日の弾道ミサイルは扁平型の弾頭を有していることが確認される。これらの弾道ミサイルが極超音速兵器であったかも含め、発射の詳細については分析を行っているところである。
(キ)大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイル
① 「火星14」型(北朝鮮の呼称による)
北朝鮮は、「火星14」型を2017年7月4日と同月28日にそれぞれ1発発射した。飛翔形態から、これらは2発ともロフテッド軌道で発射されたと推定され、通常の軌道で発射されたとすれば射程は少なくとも5,500kmを超えるとみられる。この弾道ミサイルは2段式であったと考えられる。
同月28日の発射翌日には、「核爆弾爆発装置」が正常に作動し、大気圏再突入環境における弾頭部の安全性などが維持された旨主張している。
② 「火星15」型(北朝鮮の呼称による)
北朝鮮は、2017年11月29日、「火星15」型1発をロフテッド軌道で発射した。北朝鮮は発射当日の「重大報道」で、米国本土全域を打撃することができる、新たに開発されたICBM「火星15」型の試験発射が成功裏に行われ、国家核武力の完成を実現した旨発表した。
また、北朝鮮は2023年2月18日にも1発の「火星15」型をロフテッド軌道で発射した。その翌日には、「大陸間弾道ミサイル発射訓練」を実施し、「兵器システムの信頼性の再確認・検証」などを行った旨発表している。
「火星15」型は9軸のTELに搭載され、公表画像から、2段式であることや、液体燃料推進方式の特徴である直線状の炎が確認できる27。
さらに、「火星15」型は、2023年2月の発射時における最高高度約5,700km程度、距離約1,000kmという飛翔軌道に基づけば、搭載する弾頭の重量などによっては1万4,000kmを超える射程となりうるとみられ、その場合、東海岸を含む米国全土が射程に含まれることになる。
③ 「火星17」型(北朝鮮の呼称による)
北朝鮮は、2022年2月27日と3月5日、各日1発の弾道ミサイルを発射した。飛翔距離はいずれも約300km、最高高度はそれぞれ約600km程度と約550km程度であり、ロフテッド軌道で発射されたと推定される。北朝鮮は、いずれの発射についても発射翌日に「偵察衛星」開発の試験であった旨を発表したが、このとき発射されたものは、「火星17」型であったとみられる。
2023年2月8日の軍事パレードに登場した
ICBM級弾道ミサイル「火星17」【朝鮮通信=時事】
同年3月24日に北朝鮮が発射したICBM級弾道ミサイルは、2017年11月の「火星15」型発射時を大きく超える最高高度約6,000km以上、距離約1,100km以上というロフテッド軌道で飛翔したが、その翌日には、北朝鮮が自ら「火星17」型の試験発射を行った旨発表した28。その後も北朝鮮は発射を繰り返し、2022年5月4日、同月25日、11月3日、同月18日と2023年3月16日に発射されたICBM級弾道ミサイルは「火星17」型であったと推定される。これまでの発射時における飛翔軌道に基づけば、「火星17」型は搭載する弾頭の重量などによっては1万5,000kmを超える射程となりうるとみられる。なお、北朝鮮メディアは2022年11月18日の発射について、後日、「火星17」型の「最終試験発射」が成功裏に行われた旨を報じている。
公表画像によれば、「火星17」型は2段式と推定され、液体燃料推進方式の特徴である直線状の炎が確認できるほか、北朝鮮が保有するなかでは最大とみられる11軸のTELに搭載されており、既存の「火星15」型を超えるとみられる大きさから、弾頭重量の増加による威力の増大や、一般に迎撃が困難とされている多弾頭化などを追求している可能性が指摘されている29。
④ 「火星18」型(北朝鮮の呼称による)
北朝鮮は、2023年4月13日、7月12日と12月18日にICBM級弾道ミサイル「火星18」型をそれぞれ1発発射した。「火星18」型は新型の3段式・固体燃料推進方式のミサイルであり、4月13日の発射では、左(北)へ方向を変えながら約1,000km程度飛翔したと推定される。北朝鮮はこの発射について「最初の試験発射」と発表しており、また、公表した画像では、2023年2月の軍事パレードで初めて登場した、キャニスター(発射筒)を搭載した9軸のTELと同一のものとみられるTELから、空中にミサイルを射出した後に点火する、いわゆる「コールド・ローンチシステム」で発射される様子や、固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認できる。
ICBM級弾道ミサイル「火星18」発射時に北朝鮮が公表した画像
【朝鮮通信=時事】
同年7月12日にも「試験発射」として発射され、飛翔距離は約1,000km、また最高高度は約6,000kmを超えており、搭載する弾頭の重量などによっては、「火星18」型の射程は1万5,000kmを超える可能性がある。同年12月18日の発射について、北朝鮮は「核戦争抑止力の臨戦態勢を検閲し、機動性と戦闘性、信頼性を確かめるのに目的を置いて行われた」発射訓練であったと発表した。
(ク)テポドン2
テポドン2は、固定式発射台から発射する長射程の弾道ミサイルであり、1段目にノドンの技術を利用したエンジン4基、2段目に同様のエンジン1基をそれぞれ使用していると推定される。2段式のものは射程約6,000kmとみられ、3段式である派生型は、ミサイルの弾頭重量を約1トン以下と仮定した場合、射程約10,000km以上に及ぶ可能性があると考えられる。テポドン2またはその派生型は、2016年2月までに合計5回発射されている。
(ケ)千里馬1(北朝鮮の呼称による)
「千里馬1」は、北朝鮮が「軍事偵察衛星」を打ち上げるための「新型衛星運搬ロケット」とするもので、固定式発射台から発射し、3段式である。
「軍事偵察衛星」発射時に北朝鮮が公表した画像【朝鮮通信=時事】
北朝鮮は、この「千里馬1」を用いて2023年5月、8月、11月に合計3回の衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射を行い、先の2回の発射については失敗したとみられる。11月の発射については、米国や韓国とも連携しながら分析を進めた結果、このとき発射した物体が地球を周回していることが確認されている30。
(コ)「極超音速ミサイル」と称する弾道ミサイル
北朝鮮は、2022年1月5日と同月11日に、「極超音速ミサイル」と称する弾道ミサイルを各日1発発射した。いずれも通常の弾道ミサイルよりも低空を飛翔したとみられるが、特に11日の発射時には、水平機動を含む変則的な軌道で、最大速度約マッハ10で飛翔した可能性がある31。
北朝鮮の公表画像からは、このミサイルが装輪式のTELから発射されていることや、円錐形状の弾頭を有していること、液体燃料推進方式とみられるエンジンを搭載している様子が確認される。円錐形状の弾頭については、終末誘導機動弾頭(MaRV)の関連技術を用いたものである可能性も指摘されているが、いずれにせよ、これまでの発表も踏まえれば、北朝鮮がミサイル防衛網の突破を企図して極超音速ミサイルなどの開発や能力向上を引き続き追求していることは明らかであり、より長射程のミサイルへの応用や、2021年9月28日に「極超音速ミサイル」と称して発射された扁平型の弾頭を有する弾道ミサイルの可能性があるもの(北朝鮮の呼称によれば「火星8」型)の開発動向も含め、今後の技術進展を注視していく必要がある。
また、前述の2024年1月14日と4月2日に発射された新型IRBM級弾道ミサイルについては、極超音速兵器であったかも含め、分析中である。
イ 北朝鮮が開発するその他の主なミサイル戦力
(ア)巡航ミサイル
これまでも北朝鮮は、中国製の巡航ミサイルを改良したものなど比較的射程の短い対艦巡航ミサイルを開発・保有してきたとみられているが、2021年1月に金委員長が「中長距離巡航ミサイルをはじめとする先端核戦術兵器」の開発に言及するなど、近年、戦術核兵器の搭載を念頭に置いた新たな巡航ミサイルを開発する意思を表明している。実際に同年9月、北朝鮮は、新たに開発した新型長距離巡航ミサイルの試験発射を成功裏に行ったことなどを発表したほか、2022年1月には、このミサイルとは異なる種類とみられる長距離巡航ミサイルの発射を行った旨発表した。これらの巡航ミサイルについては、その後も「戦術核運用部隊」に配備されているとする「戦略巡航ミサイル」の発射などとして繰り返し発表され、それぞれ「戦略巡航ミサイル『矢(ファサル)1』型」、「戦略巡航ミサイル『矢(ファサル)2』型」と呼称されていることが明らかになっている。また、北朝鮮の発表によれば、これらの巡航ミサイルは最長で2,000km飛翔したとされているほか、2023年3月には潜水艦から、同年8月には警備艦からの「戦略巡航ミサイル」の発射も発表された。2024年1月には「『火矢(プルファサル)3-31』型」と呼称する巡航ミサイルの試験発射も実施しているが、この巡航ミサイルと従来型の「矢」との差異も含めて、その詳細は不明である。
「潜水艦発射戦略巡航ミサイル」発射時に北朝鮮が公表した画像
【朝鮮通信=時事】
実際の性能を含めその詳細については不明な点が多いものの、北朝鮮が弾道ミサイルのみならず、核兵器の搭載が可能な長距離巡航ミサイルの実用化を追求していることは明らかであり、その飛翔距離など一連の発表内容が事実であれば、地域の平和と安全を脅かすものとして懸念される。
(イ)「新型戦術誘導兵器」
2022年4月17日、北朝鮮は、「新型戦術誘導兵器」と称するミサイルを発射した旨発表した。このとき発表されたミサイルは、同月25日の軍事パレードでも確認されるなどその後も北朝鮮メディアに登場しており、このミサイルが装輪式3軸のTELに搭載されている様子や、固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認できる。各前線の長距離砲兵部隊の火力打撃力を飛躍的に向上させ、「戦術核運用の効果性」を強化する意義を有するなどとする北朝鮮の発表内容を踏まえれば、このミサイルは、米韓両軍との間で発生しうる通常戦力や戦術核を用いた武力紛争において対処可能な手段を獲得するという狙いのもと、戦術核兵器の搭載を念頭に置いて開発が進められている兵器のひとつであると考えられる。
ウ 弾道ミサイル開発の動向
北朝鮮は、極めて速いスピードで継続的に弾道ミサイル開発を推進し、関連技術・運用能力の向上を図ってきているが、その動向には次のような特徴がある。
(ア)ミサイル関連技術の向上
① 発射の秘匿性・即時性の向上
北朝鮮は、発射の兆候把握を困難にするための秘匿性や即時性を高め、奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられる。
北朝鮮は近年、TELや潜水艦、鉄道といった様々なプラットフォームからのミサイル発射を繰り返している。これらのプラットフォームを使用することで、発射機の隠ぺいや任意の地点からの発射を可能にし、発射の秘匿性を向上させ、兆候把握や探知、ひいては迎撃を困難にさせることを企図しているものとみられる。
また、北朝鮮は2019年以降特に、固体燃料を使用した弾道ミサイルの発射を繰り返しており、弾道ミサイルの固体燃料化を進めているとみられる。一般的に、固体燃料推進方式のミサイルは、保管や取扱いが比較的容易であるのみならず、また、固形の推進薬が前もって充填されていることから、発射機へのミサイルの再装填をより迅速に行い、比較的短時間で再発射できるという点で、軍事的に優れているとされる。こうした特徴は、奇襲的な攻撃能力や、報復攻撃能力の向上に資するとみられる。従来北朝鮮が保有・開発してきた固体燃料推進の弾道ミサイルは短距離のものが中心であったが、2021年1月には金委員長が固体燃料推進式ICBMの開発を目標に掲げ、実際に固体燃料推進方式のICBM級弾道ミサイルのほか、固体燃料推進方式の新型IRBM級弾道ミサイルも発射するなどしており、今後の動向が注目される。
② 弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)突破能力の向上
北朝鮮は、他国のミサイル防衛網を突破することを企図し、低高度を変則的な軌道で飛翔する弾道ミサイルの開発を進めている。短距離弾道ミサイルA、B、Dや、短距離弾道ミサイルAと外形上類似点がある、鉄道発射型の弾道ミサイルや新型SLBMは、通常の弾道ミサイルよりも低空を、変則的な軌道で飛翔することが可能とみられる。
さらに、北朝鮮は、「極超音速滑空飛行弾頭」の開発を優先目標の一つに掲げ、実際に2021年9月以降、複数種類の「極超音速ミサイル」と称するミサイルの発射を行っている。このように北朝鮮は、迎撃を困難にしてミサイル防衛網を突破するためのミサイル開発を執拗に追求している。
③ 長射程ミサイルの開発
北朝鮮は、変則的な軌道で飛翔する短距離弾道ミサイルと同時に、米国を射程に収める長射程ミサイルの開発も一貫して追求している。北朝鮮が保有するICBM級弾道ミサイル「火星17」型や「火星18」型は、搭載する弾頭の重量などによっては1万5,000kmを超える射程となりうるとみられ、その場合、東海岸を含む米国全土を射程に収めることになる。
こうした弾道ミサイルを実用化するためには、弾頭部の大気圏外からの再突入の際に発生する超高温の熱などから再突入体を防護する技術が必要とされる。北朝鮮は、2017年にICBM級弾道ミサイル「火星14」型や「火星15」型を発射した後、再突入環境における弾頭の信頼性を立証した旨発表しているが、実際にこうした技術を確立しているかについては、引き続き慎重な分析が必要である。
一方で、北朝鮮が長射程の弾道ミサイルの開発をさらに進展させた場合、米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つに至る可能性がある。仮に、北朝鮮がそのような抑止力に対する過信・誤認をすれば、北朝鮮による地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となりうる。
(イ)ミサイル運用能力の向上
北朝鮮はこれまで、複数発の同時発射、極めて短い間隔での連続発射、特定目標に向けた異なる地点からの発射など、様々な形で弾道ミサイルを発射してきている。
第一に、2014年以降、過去に例の無い地点から、早朝・深夜に、TELを用いて、複数発のミサイルを、朝鮮半島を横断する形で発射する事例がみられる。近年、短距離弾道ミサイルと様々な火砲を組み合わせた射撃訓練なども実施しており、北朝鮮がこれらのミサイルを任意の地点から任意のタイミングで、複数発同時に発射する能力を有していることを示している。
第二に、北朝鮮は極めて短い間隔での連続発射も試みている。例えば、北朝鮮が「超大型放射砲」と称する短距離弾道ミサイルCについては、2019年以降、1分未満と推定される間隔で2発が発射される事例があるなど、連続射撃能力の向上を企図して開発されたとみられている。
第三に、2019年以降、北朝鮮が弾道ミサイルなどをそれぞれ異なる場所から発射し、特定の目標に命中させていることが確認できる事例がある。
こうした発射を通じ、北朝鮮は、飽和攻撃などを念頭に置いた、実戦的なミサイル運用能力の向上を追求しているものとみられる。
金委員長は、2021年1月の朝鮮労働党第8回大会において、今後の軍事的な目標として、様々な兵器の開発などに具体的に言及した。このときに提示された目標は、「5か年計画」に含まれているものと考えられている。
核・ミサイルに関しては、核技術のさらなる高度化や核兵器の小型・軽量化、戦術兵器化を発展させるとして、「戦術核兵器」開発とともに、「超大型核弾頭」生産の推進に言及するとともに、1万5,000km射程圏内の目標への命中率を向上させ、「核先制及び報復打撃能力」を高度化するとした。加えて、多弾頭技術、「極超音速滑空飛行弾頭」、原子力潜水艦、「水中発射核戦略兵器」、固体燃料推進のICBMの開発や研究の推進に言及しており、攻撃態様のさらなる複雑化・多様化を追求する姿勢を示した。また、核・ミサイル以外にも、この大会では、軍事偵察衛星や、無人偵察機などの偵察手段の開発などが言及された。
実際に、北朝鮮は同年以降、この大会で提示した開発計画の工程を進めるようにミサイル発射などを繰り返している。
また、これらの目標には、一定程度の優先順位があるものとみられる。2021年9月に「極超音速ミサイル『火星8』型」と称するミサイルを発射した際には、極超音速ミサイル研究開発事業が「5か年計画の戦略兵器部門最優先五大課題に属する」と表明した。また2022年12月には、「大出力固体燃料エンジン地上燃焼試験」を成功裏に実施したと主張し、金委員長が「5か年計画の戦略兵器部門最優先五大課題実現のためのもう一つの重大問題を解決した」と評価し、最短期間内に「もう一つの新型戦略兵器の出現」を期待する旨述べたことなどを発表した32。2023年12月の朝鮮労働党中央委員会においては、衛星の打ち上げをもって「党第8回大会の提示した共和国武力現代化の先決重大課題の実現」と述べた。こうしたことから、北朝鮮は特に「極超音速滑空飛行弾頭」や固体燃料推進のICBMの実現、「軍事偵察衛星」の打ち上げなどを「5か年計画」の優先課題に掲げて研究開発を進めているものとみられる。
2023年11月21日に北朝鮮は、「偵察衛星」とする「万里鏡1」の打ち上げを前述の「千里馬1」で行い、また軌道に正確に進入させたと主張した。この「偵察衛星」に関しては、北朝鮮は2022年から打ち上げに向けた活動を公開してきた。同年2月27日と3月5日に「偵察衛星」開発の試験であるとしてICBM級弾道ミサイルを発射したが、その後実際に金委員長による「偵察衛星」関連の視察の模様を公表しており、その際に、軍事偵察衛星の目的が韓国や日本、太平洋上における軍事情報のリアルタイムでの把握にあることや、「5か年計画」期間内に多量の「偵察衛星」を配置すること、そのために東倉里地区の西海(ソヘ)衛星発射場を改修・拡張することなどを表明した。
北朝鮮はその後2023年5月、8月、11月、2024年5月に、事前に期間や落下区域を予告したうえで、北朝鮮西岸の東倉里付近から南方向に向けて衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射を強行した。2023年5月、8月と2024年5月の発射は衛星打ち上げに失敗したとみられるが、2023年11月の発射においては、このとき発射した物体が地球を周回していることが確認されている。一方、この物体がいかなる機能を果たしているかといった詳細については、分析を行っているところである。
2023年12月の朝鮮労働党中央委員会総会において、金正恩委員長は、2024年の目標として「偵察衛星」3基の追加打ち上げに言及しており、今後も衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射を継続するとみられる。
さらに、2022年12月と2023年2月、金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党中央委副部長は、北朝鮮によるICBM級弾道ミサイルの大気圏再突入技術の獲得を疑問視する見方に対して反発し、「今すぐやってみればいい」、「太平洋をわが方の射撃場として活用する頻度」は米軍の行動にかかっているなどと述べた。この点について、今後北朝鮮が挑発をエスカレートさせた場合、ICBM級を太平洋上に向けて発射し、実戦での使用に耐えうるか否かの検証に踏み切る可能性を示唆したものとの指摘もある。
このほか、北朝鮮は2023年3月、4月、2024年1月には、「ヘイル(津波)」という名称を付した、「核無人水中攻撃艇」や「水中核兵器体系」と称する兵器の試験を行った旨発表し、核兵器の運搬手段の多様化を追求していく姿勢を示している。
このように北朝鮮は、「5か年計画」に沿って関連技術の研究開発に注力しつつ、これを「自衛的」な活動であるとして常態化させており、今後も引き続き「5か年計画」の達成に向けて各種ミサイルの発射などを繰り返していく可能性がある。
資料:最近の国際軍事情勢(北朝鮮)
URL:https://www.mod.go.jp/j/surround/index.html
資料:北朝鮮のミサイル等関連情報
URL:https://www.mod.go.jp/j/surround/defense/northKorea/index.html
北朝鮮では、金委員長を中心とする権力基盤の強化が進んでいる。憲法では国務委員長は「国家を代表する朝鮮民主主義人民共和国の最高領導者」であると規定されるほか、党を中心とした運営を行っているとの指摘があり、2021年1月には金委員長は党総書記に就任した。
経済面では、社会主義計画経済の脆弱性に加え、冷戦の終結にともなう旧ソ連や東欧諸国などとの経済協力関係の縮小の影響、さらにはわが国や米国などによる独自の制裁措置の強化や、核実験や弾道ミサイル発射を受けて採択された関連の国連安保理決議による制裁措置などもあり、北朝鮮は慢性的な経済不振、エネルギーと食糧の不足に直面している33。
加えて、2020年以降、新型コロナウイルス感染症や自然災害が北朝鮮の経済に大きな影響を与えてきたとみられるが、2022年8月には新型コロナウイルスを撲滅したとして「勝利」を宣言し、2023年7月の閲兵式(軍事パレード)には中露の代表を招くなど、現在では制限も一定程度緩和されたものとみられる。
2021年1月、金委員長は自力更生・自給自足を基本とする「国家経済発展の新たな5か年計画」を提示した。この計画に関して、金委員長は、2022年末に「5か年計画完遂の決定的保証を構築すること」を課題として挙げていたが、2023年末には、2021年からの3年間を総括して「5か年計画を十分に完遂することができるという確信を持つこととなった」と述べており、困難な状況下においても、北朝鮮は引き続きこの「計画」に則った経済の立て直しを重要視しているとみられる。一方、北朝鮮が現在の統治体制の不安定化につながりうる構造的な改革を行う可能性は低いと考えられることから、経済の現状を根本的に改善することには、様々な困難がともなうと考えられる。困難な経済・食糧事情の中で、外国からの情報の流入などにともなう社会の動揺を警戒し、思想的な統制を一層強めているといった指摘もなされており、体制の安定性という点から注目される。
また、北朝鮮は、国連安保理決議で禁止されている、洋上での船舶間の物資の積み替え(いわゆる「瀬取り」)などにより国連安保理の制裁逃れを図っているとみられ34、2024年3月に公表された「国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書」は、2023年1月1日から9月15日の間に年間上限量である50万バレルを超過する、約102万~152万バレルの石油精製品が、北朝鮮籍タンカーにより、北朝鮮へ不正に輸送された可能性があると指摘している。
参照図表I-3-4-8(北朝鮮に対する国連安保理決議に基づく制裁)
2018年6月、史上初の米朝首脳会談において金委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を示したが、2019年2月の第2回米朝首脳会談では、双方はいかなる合意にも達しなかった。その後北朝鮮は、米国を「最大の主敵」としつつ、新たな米朝関係樹立の鍵は、米国による北朝鮮への敵視政策の撤回であるとする姿勢を示してきた。
米国は、2021年4月に、対北朝鮮政策の見直しを完了したこと、「朝鮮半島の完全非核化」を引き続き目標として、「調整された、現実的なアプローチ」のもとで北朝鮮との外交を探っていくことなどを発表した。2022年10月に発表された「国家安全保障戦略」(NSS)においても、朝鮮半島の完全な非核化に向けて具体的な進展を図るため、北朝鮮との持続的な外交を模索する旨が明記されているが、これまでに公式な対話の再開などはみられておらず、米朝関係は膠着状態が続いている。
北朝鮮は2018年4月、「大陸間弾道ロケット試験発射」の停止などを自ら表明していたが、米朝関係に進展がみられないなか、2022年1月には金委員長が「米国の敵視政策と軍事的脅威がもはや黙過することのできない危険ラインに至った」との評価のもと、「暫定的に中止していた全ての活動を再稼働する問題を迅速に検討」することを指示した。実際に同年2月以降、北朝鮮はICBM級弾道ミサイルの発射を再開し、米国との長期的対決を徹底的に準備していくなどと述べた35。
2018年、3回にわたる南北首脳会談を通じ、南北の敵対行為の全面的な中止や、朝鮮半島の非核化の実現を共通の目標として確認することなどを含む「板門店宣言文」、軍事的な敵対関係の終息などを含む「9月平壌共同宣言」、軍事的な緊張緩和のための具体的な措置について盛り込んだ「『板門店宣言文』履行のための軍事分野合意書」に合意するなど、南北関係は大きな進展をみせた。しかし、2019年に米朝首脳会談が決裂して以降、南北関係に進展はない。
さらに、韓国大統領選挙で厳しい対北朝鮮姿勢を示す尹錫悦(ユンソンニョル)氏が当選した後の2022年4月には、金与正朝鮮労働党中央委副部長が談話を発出し、韓国は主敵ではなく互いに戦ってはならない同じ民族であるとしながらも、韓国が軍事的対決を選択するのであれば「わが方の核戦闘武力は自らの任務を遂行」すると表明した。また、同年7月には金委員長が演説を行い、韓国が先制攻撃を行うならば即時に報復し、「尹政権とその軍隊は全滅する」と述べるなど、北朝鮮の対南姿勢もまた厳しいものに転じ始めた。軍の行動としても、2022年10月には一連の発射について、韓国内の飛行場などを標的に見立てて「戦術核運用部隊」の訓練を行ったと発表したほか、同年12月にかけて、南北間の軍事合意で定められた軍事演習中止地域への砲撃などを繰り返した。
2023年11月には、北朝鮮が衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射を行ったことを契機に韓国が「『板門店宣言文』履行のための軍事分野合意書」のうち、一部条項の効力停止を発表し、過去に実施していた軍事境界線一帯の対北朝鮮偵察·監視活動を復元した。これを受けて北朝鮮は、この合意の全面破棄を宣言した。同年12月には金委員長が、南北関係を「敵対的な2つの国家の関係」と表現し、対外部門の課題として、有事の際に「南半部の全領土を平定しようとするわが軍隊の強力な軍事行動に歩調を合わせていくための準備」に言及した。また、2024年1月には、北朝鮮と韓国とが延坪島(ヨンピョンド)周辺を含む北方限界線(NLL:North Limit Line)の南北でそれぞれ射撃訓練を行った。
北朝鮮は、米韓に対して強硬的な発言を繰り返す傍ら、中国やロシアに対しては、北朝鮮外務省が中朝露の関係について「朝鮮半島と地域はもとより、ひいては世界の平和と安定を守護する上で中枢的役割を遂行している」と言及するなど、連携の強化を目指しているとみられる。
① 中国との関係
北朝鮮にとって中国は極めて重要な政治的・経済的パートナーであり、北朝鮮に対して一定の影響力を維持していると考えられる。1961年に締結された「中朝友好協力及び相互援助条約」が現在も継続しているほか、中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、2021年の北朝鮮の対外貿易(南北交易を除く)に占める中国との貿易額の割合は約9割超36と極めて高水準で、北朝鮮の中国への依存が指摘されている。
北朝鮮情勢や核問題に関して、中国は、「デュアルトラックの並進」(朝鮮半島の非核化と、休戦メカニズムから平和メカニズムへの転換)構想と「段階ごと、同時並行」という原則に基づき、対話と協議を通じて問題を解決すべきであると表明してきた。近年では、北朝鮮によるICBM級弾道ミサイルの発射を受けて米国が提案した国連安保理制裁決議案に対してロシアとともに拒否権を行使し、半島情勢がここまで推移した原因は米国にあるとするなど、北朝鮮が繰り返す挑発行為を擁護する姿勢も示している。
中朝首脳会談は2018年3月以降、2019年6月までに5回実施された。2022年10月には習近平総書記の再選にあたり金委員長が祝電を送付した。2023年9月には習近平総書記が北朝鮮建「国」75周年にあたり金委員長に祝電を送り、中国側は朝鮮側とともに、戦略的意思疎通を強化し、実務協力を深めたい旨伝えている。
② ロシアとの関係
北朝鮮は、2023年9月に金委員長が訪露した際、ロシアとの関係を最重視する旨表明している。
北朝鮮の核問題について、ロシアは、中国と同様、朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。2021年10月には、北朝鮮は多くの非核化措置を既に講じており、経済・民生分野における一部制裁措置の調整を行うべきとして、中国と共同で北朝鮮に関する国連安保理決議案を提出したほか、2022年5月には、米国が提案した前述の制裁決議案に対して中国とともに拒否権を行使した。
北朝鮮の側でも、2022年2月以降のロシアによるウクライナ侵略下では、ウクライナにおける事態の原因が米国や西側諸国にあると主張し、ロシアを擁護する姿勢を示し続けている。また、2023年10月には、米国や韓国とも協力して関連情報の収集・分析を進めた結果、北朝鮮からロシアへの軍事装備品や弾薬の供与が行われたと信じるに足る情報が確認されている。さらに北朝鮮からロシアへの弾道ミサイルの供与が行われ、2023年年末から2024年年始にかけて、ウクライナに対して使用されたことが明らかになった。
ショイグ露国防相(当時)の訪朝【朝鮮通信=時事】
1 2016年5月当時は国防委員会第1委員長。同年6月に開催された最高人民会議において、国防委員会を国務委員会に改め、金正恩氏が「国務委員長」に就任したことを受け、金正恩氏の役職は国務委員長に統一している。
2 朝鮮労働党第7回大会決定書「朝鮮労働党中央委員会事業総括について」(2016年5月8日)では、「軍事先行の原則で軍事を全ての事業に優先させ、人民軍隊を核心、主力として革命の主体を強化し、それに依拠して社会主義偉業を勝利のうちに前進させていく社会主義基本政治方式」とされる。
3 北朝鮮は、1962年に朝鮮労働党中央委員会第4期第5回総会で採択された、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という四大軍事路線に基づいて軍事力を増強してきた。
4 例えば、金委員長は、2021年1月の朝鮮労働党第8回大会において、「現代戦において作戦任務の目的と打撃対象に応じ様々な手段で適用することのできる戦術核兵器を開発」する、「朝鮮半島地域における各種の軍事的脅威を、主動性を維持しつつ徹底的に抑止して統制、管理する」と表明したほか、2022年9月には「戦術核運用手段を不断に拡張し、適用手段の多様化をさらに高い段階で実現して核戦闘態勢を各方面から強化していく」と述べている。
5 2021年1月の大会時の北朝鮮による発表などにおいては「国防科学発展及び武器体系開発5か年計画」という名称への直接的な言及はみられなかったが、同年9月13日に長距離巡航ミサイルの発射を発表した際、北朝鮮メディアによって、このミサイル開発事業が「党第8回大会が提示した国防科学発展及び武器体系開発5か年計画重点目標の達成」のために意義を持つものであるとして、初めて公に言及されたとみられる。
6 サーマン在韓米軍司令官(当時)は、2012年10月の米陸軍協会における講演で「北朝鮮は、世界最大の特殊部隊を保有しており、その兵力は6万人以上に上る」と述べているほか、韓国の「2022国防白書」は、北朝鮮の「特殊作戦軍」について、「兵力約20万人に達するものと評価される」と指摘している。
7 固定式発射台からの発射の兆候は敵に把握されやすく、敵からの攻撃に対し脆弱であることから、発射の兆候把握を困難にし、残存性を高めるため、旧ソ連などを中心に開発が行われた発射台付き車両。2021年10月に公表された米国防情報局「北朝鮮の軍事力」によれば、北朝鮮は、スカッドB・C用のTELを最大100両、ノドン用のTELを最大100両、IRBM(ムスダン)用のTELを最大50両保有しているとされる。TEL搭載式ミサイルの発射については、TELに搭載され移動して運用されることに加え、全土にわたって軍事関連の地下施設が存在するとみられていることから、その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難であると考えられる。
8 原子炉には、使用される減速材の違いにより、黒鉛減速炉、重水炉、軽水炉がある。黒鉛減速炉と重水炉は燃料として天然ウランを使用するのに対し、軽水炉は燃料としてウラン235の濃度を3~5%に高めた低濃縮ウランを使用する。
9 2021年8月に公表されたIAEA「Application of Safeguards in the Democratic People's Republic of Korea」など。2022年10月公表の「国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル中間報告書」でも、加盟国による指摘として掲載。
10 2023年12月に発表された「IAEA Director General Statement on Recent Developments in the DPRK's Nuclear Programme」。
11 プルトニウムは、原子炉でウランに中性子を照射することで人工的に作り出され、その後、再処理施設において使用済みの燃料から抽出し、核兵器の原料として使用される。一方、ウランを核兵器に使用する場合は、自然界に存在する天然ウランから核分裂を起こしやすいウラン235を抽出する作業(濃縮)が必要となり、一般的に、数千の遠心分離機を連結した大規模な濃縮施設を用いてウラン235の濃度を兵器級(90%以上)に高める作業が行われる。
12 北朝鮮は2003年10月に、5MWe黒鉛減速炉から、プルトニウムが含まれる8,000本の使用済み燃料棒の再処理を完了したことを、2005年5月には、新たに8,000本の使用済み燃料棒の抜き取りを完了したことをそれぞれ発表している。なお、韓国の「2022国防白書」は、北朝鮮が約70kgのプルトニウムを保有していると推定している。
13 韓国の「2022国防白書」は、(北朝鮮が)高濃縮ウラン(HEU:Highly Enriched Uranium)を相当量保有していると評価している。なお、寧辺所在のウラン濃縮施設とは異なるウラン濃縮施設が「カンソン」に存在するとの指摘もある。
14 6回目となる2017年の核実験の出力は過去最大規模の約160ktと推定されるところであり、推定出力の大きさを踏まえれば、この核実験は水爆実験であった可能性も否定できない。なお、北朝鮮は4回目となる2016年1月の核実験についても、水爆実験であった旨主張しているが、この核実験の出力は6~7ktと推定されることから、一般的な水爆実験を行ったとは考えにくい。
15 「SIPRI(Stockholm International Peace Research Institute) Yearbook 2023」による。
16 金委員長は2022年9月に開催された最高人民会議において、米国の目的について「最終的には核を下ろさせて自衛権行使力まで放棄(させ)、または劣勢にしてわが政権をいつでも崩壊させようとすることである」と述べ、「いかなる困難な環境に直面しようとも、(中略)絶対に核を放棄することはできない」と演説した。さらに、2023年9月に開催された最高人民会議において、金委員長は、朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法第4章第58条に「核兵器の発展を高度化して国の生存権と発展権を保証し、戦争を抑止し、地域と世界の平和と安定を守る」旨を明記したと述べ、「共和国の核戦力建設政策がいかなる者も、何をもってしても手出しできないように国家の基本法として永久化された」と演説した。
17 金委員長は2021年1月の朝鮮労働党第8回大会において、「多弾頭個別誘導技術をさらに完成させるための研究事業」を進めていることや、「核兵器の小型・軽量化、戦術兵器化をさらに発展」させることなどに言及した。
18 韓国の「2022国防白書」は、北朝鮮が1980年代から化学兵器を生産し始め、約2,500~5,000トンの化学兵器を貯蔵しており、また、炭疽菌(たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペストなど様々な種類の生物兵器を独自に培養し、生産しうる能力を保有していると推定される旨指摘している。北朝鮮は、1987年に生物兵器禁止条約を批准しているが、化学兵器禁止条約には加入していない。
19 「Jane's Sentinel Security Assessment China and Northeast Asia(2023年3月アクセス)」によれば、北朝鮮は弾道ミサイルを合計700~1,000発保有しており、そのうち45%がスカッド級、45%がノドン級、残り10%がその他の中・長距離弾道ミサイルであると推定されている。
20 米議会調査局「北朝鮮の核兵器とミサイル計画」(2023年1月)など。
21 金委員長は、2022年12月、「超大型放射砲」を朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会に「贈呈」する行事に出席し、このミサイルは韓国全域を射程に収め、「戦術核搭載まで可能」であると述べた。また、2023年1月には、本ミサイルが量産体制に入った旨言及されている。
22 2022年11月3日に発射された6発の弾道ミサイルのうち、約350km程度飛翔した2発の弾道ミサイルは、いずれも「短距離弾道ミサイルC」であったと推定される。
23 2023年9月13日に発射された2発の弾道ミサイルは、約350km程度飛翔したのち、再度機動して上昇し、全体で約650km程度飛翔したものと推定される。
24 これまでに防衛省として、北朝鮮がSLBMを発射したものと推定しているもののほか、北朝鮮は、2015年5月9日にSLBMの試験発射に成功した旨発表した。また、2016年1月8日に、2015年5月に公開したものとは異なるSLBMの射出試験とみられる映像を公表している。
25 このほか、2022年4月25日の軍事パレードに、これまで北朝鮮から公表されたことがないとみられる新型のSLBMの可能性があるものが登場したが、名称などの記載はなく、詳細は明らかにされていない。
26 北朝鮮は2016年、IRBM級の弾道ミサイルとみられるムスダンの発射を繰り返した。同年6月にはロフテッド軌道で一定の距離を飛翔させたが、10月には2回連続で発射に失敗したとみられ、ムスダンの実用化には課題が残されている可能性や、IRBM級としては「火星12」型などの開発・実用化に集中している可能性が考えられる。ムスダンの射程については約2,500~4,000kmに達するとの指摘があり、液体燃料推進方式で、TELに搭載され移動して運用される。
27 公表画像に基づけば、「火星12」型IRBM級弾道ミサイルのエンジンと「火星14」型ICBM級弾道ミサイルとは、①エンジンの構成(メインエンジン1基と4つの補助エンジン)、②推進部の下部の形状(ラッパ状)、③液体燃料推進方式の直線状の炎が共通している。それぞれ推定される射程なども踏まえれば、「火星14」型は「火星12」型IRBM級弾道ミサイルをもとに開発した可能性がある。また、「火星15」型は、「火星14」型のエンジンを二つ組み合わせたものであるとの指摘がある。
28 その直前である2022年3月16日にも、北朝鮮は1発の弾道ミサイルを発射しているが、このミサイルは正常に飛翔しなかったものと推定されるほか、弾種を含む詳細については引き続き分析を行っている。
29 2023年2月の軍事パレードには、「大陸間弾道ミサイル縦隊」と称して、「火星17」型11両、これまでに公表されたことのない新型ICBM級用のTELの可能性があるもの(後に北朝鮮は「火星18」型としてこのTELと同一のものとみられるTELからのICBM級弾道ミサイルの発射を発表)5両がそれぞれ登場したが、前回パレード時(2022年4月)の「火星17」型4両や「火星15」型4両と比べてその数が大幅に増加していることから、北朝鮮がICBM級弾道ミサイルやICBM級用TELの量産体制を誇示したとの指摘もある。
30 発射された1発は複数に分離し、1つ目は朝鮮半島の西約150kmの黄海上、2つ目は朝鮮半島の西約350kmの東シナ海上、3つ目は沖縄本島と宮古島との間の上空を通過し、沖ノ鳥島の西約1,000kmの太平洋上、わが国EEZ外の、いずれも予告落下区域外に落下したものと推定される。
31 2022年12月23日に発射された弾道ミサイルは、2022年1月5日と同月11日に発射された「極超音速ミサイル」と称する弾道ミサイルであった可能性があると考えられる。また、2023年7月の「武装装備展示会2023」と題する展覧会や同月の閲兵式(軍事パレード)において、「火星8」型と外形上類似点のあるミサイルが登場したが、「火星8」とは異なる特徴もあり、詳細は明らかにされていない。
32 金委員長は、同月末にも朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会において「迅速な核反撃」を使命とする「もう一つの大陸間弾道ミサイル体系」を開発すると表明している。
33 近年、北朝鮮漁船や中国漁船が大和堆周辺のわが国排他的経済水域で違法操業を行っており、この海域で操業する日本漁船の安全を脅かす状況となっている。現場海域においては、水産庁と海上保安庁が連携し、違法操業を行う外国漁船への退去警告の対応を含め、わが国周辺海域の厳重な監視警戒・取締りを実施している。取締りなどの詳細については内閣府年次報告「海洋の状況及び海洋に関して講じた施策」、水産白書と海上保安レポートを参照。
34 2018年に入ってから2024年3月末までの間に、北朝鮮籍タンカーと外国籍タンカーが公海上で接舷(横付け)している様子を海自艦艇などが計24回確認している。これらの船舶は、政府として総合的に判断した結果、「瀬取り」を実施していたことが強く疑われる。
35 2023年7月17日、金与正党副部長が、米国が拡大抑止体制をさらに強化すれば「会談のテーブルがさらに遠くなるようにするだけだということを認識すべき」と述べている。
36 大韓貿易投資振興公社の発表による。