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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

6 防衛力強化にあたっての優先事項

1 基本的考え方

新防衛大綱の策定にあたっては、格段に速度を増す安全保障環境の変化に対応するために、従来の延長線上ではない真に実効的な防衛力を構築するとされた。防衛力の強化にあたり、特に優先すべき事項について明示しながら、それを可能な限り早期に整備していくこととし、既存の予算・人員の配分に固執することなく、資源を柔軟かつ重点的に配分するほか、所要の抜本的な改革を行うこととした。

新防衛大綱において示されている優先すべき事項は以下のとおりである。

2 領域横断作戦に必要な能力の強化における優先事項
(1)宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力の獲得・強化

領域横断作戦には、優先的な資源配分やわが国の優れた科学技術の活用による、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力が不可欠である。新防衛大綱では全ての領域における能力を効果的に連接する指揮統制・情報通信能力の強化・防護を図ることとし、以下のとおり取り組むことを明示した。

ア 宇宙領域における能力

宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位などの能力向上や、宇宙空間の状況を常時継続的に監視する体制の構築、相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力の強化などを通じて、平時から有事までのあらゆる段階において宇宙利用の優位を確保すること、その際関係機関や米国などとの連携強化、宇宙領域の専門部隊の新設、人材育成などに努めることとした。

イ サイバー領域における能力

自衛隊の指揮通信システムやネットワークへのサイバー攻撃を未然に防止するための常時継続的な監視能力や攻撃を受けた際の被害の局限、被害復旧などの必要な措置を迅速に行う能力を引き続き強化すること、有事において、わが国への攻撃に際して当該攻撃に用いられる相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力など、サイバー防衛能力の抜本的強化を図ること、その専門的な知識・技術を持つ人材の大幅な増強と政府全体の取組にも寄与することとした。

ウ 電磁波領域における能力

情報通信能力の強化、電磁波に関する情報収集・分析能力の強化及び情報共有態勢の構築を推進するとともに、相手からの電磁波領域における妨害などに際して、その効果を局限する能力などを向上させること、また、わが国に対する侵攻を企図する相手方のレーダーや通信などを無力化するための能力を強化することともに、各種活動を円滑に行うため、電磁波の利用を適切に管理・調整する機能を強化することとした。

(2)従来の領域における能力の強化

新大綱では、従来の領域のうち、領域横断作戦の中で、宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力と一体となって、特に、航空機、艦艇、ミサイルなどによる攻撃に効果的に対処するための能力を強化することとした。

ア 海空領域における能力

わが国周辺海空域における常続監視を広域にわたって実施する態勢を強化すること、また、無人水中航走体(UUV:Unmanned Undersea Vehicle)を含む水中・水上における対処能力を強化することとした。

さらに、柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸(STOVL:Short Take-Off/Vertical Landing)機を含む戦闘機体系の構築などにより、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ないわが国太平洋側をはじめ、空における対処能力を強化することとした。その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性をさらに向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずることとした。

イ スタンド・オフ防衛能力

島嶼部を含むわが国への侵攻を試みる艦艇や上陸部隊などに対して、脅威圏の外からの対処を行うためのスタンド・オフ火力などの必要な能力を獲得するとともに、軍事技術の進展などに適切に対応できるよう、関連する技術の総合的な研究開発を含め、迅速かつ柔軟に強化することとした。

ウ 総合ミサイル防空能力

弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機などの多様な空からの脅威に対し、各種装備品を一体的に運用する体制を確立し、平素から常時持続的にわが国全土を防護するとともに、空からの多数の複合的な脅威にも同時対処できる能力の強化や将来的な空からの脅威への対処のあり方についての検討を行うこととした。

エ 機動・展開能力

適切な地域で所要の部隊が平素から常時継続的に活動するとともに、状況に応じた機動・展開を行うため、水陸両用作戦能力などを強化すること、また、迅速かつ大規模な輸送のため、島嶼部の特性に応じた基幹輸送及び端末輸送の能力を含む統合輸送能力を強化するとともに、平素から民間輸送力との連携を図ることとした。

(3)持続性・強靭性の強化

各種事態の際に、弾薬、燃料などの十分な確保・補給や、万が一施設が被害を受けても迅速に復旧することなどは重要である。新防衛大綱はこの点を重視し、弾薬、燃料などの確保、海上輸送路の確保、重要インフラの防護などに必要な措置を推進すること、特に、関係府省などとも連携を図りつつ、弾薬、燃料等の安全かつ着実な整備・備蓄などにより活動の持続性を向上させることとした。また、防衛関連施設など自衛隊の運用にかかる基盤などの分散、被害を受けた際の復旧、代替などにより、多層的に強靭性を向上させ、さらに、装備品の維持整備方法の見直しなどにより、高い可動率を確保することとしている。

3 防衛力の中核的な構成要素の強化における優先事項

新防衛大綱では、自衛隊がわが国の防衛のために万全の体制を整え、十分に活動するための基盤となる人、産業、技術、情報などについて強化することとしている。

(1)人的基盤の強化

人口減少と少子高齢化の急速な進展を踏まえ、自衛隊員を支える人的基盤の強化をこれまで以上に推進していく必要がある。

このため、地方公共団体などとの連携を含む募集施策の推進、採用層の拡大や女性の活躍推進のための取組といった、より幅広い層から多様かつ優秀な人材を確保するための取組に加え、人工知能などの技術革新の成果を活用した無人化・省人化を推進することとしている。

また、全ての自衛隊員が士気高くその能力を十分に発揮し続けられるよう、生活・勤務環境の改善を図るとともに、ワークライフバランスの確保のため、防衛省・自衛隊における働き方改革を推進するとした。

さらに、統合教育・研究の強化など、教育・研究の充実を促進するほか、防衛省・自衛隊の組織マネジメント能力に関する教育の強化を図ることとした。

(2)装備体系の見直し

現有の装備体系を統合運用の観点も踏まえて検証し、合理的な装備体系を構築することとし、その際、各自衛隊の運用に必要な能力などを踏まえつつ、装備品のファミリー化、仕様の最適化・共通化、各自衛隊が共通して保有する装備品の共同調達などを行うとともに、航空機などの種類の削減、重要度の低下した装備品の運用停止、費用対効果の低いプロジェクトの見直しや中止などを行うこととした。

(3)技術基盤の強化

新たな領域に関する技術や、人工知能などのゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術をはじめとする重要技術に対して選択と集中による重点的な投資を行うとともに、研究開発のプロセスの合理化などにより研究開発期間の大幅な短縮を図ることとしている。また、国内外の関係機関との技術交流などを通じた民生技術の積極的な活用、国内外のシンクタンクの活用などによる革新的・萌芽的技術の育成に向けた体制強化を図ることとした。

(4)装備調達の最適化

徹底したコスト管理・抑制を行う必要があることから、装備品の効率的な調達に資する計画的な取得方法の活用や維持整備の効率化、国内外の企業間競争、米国の高性能な装備品を効率的に調達するため、FMS調達3の合理化などを推進するとともに、ライフサイクル全体を通じたプロジェクト管理の取組をさらに強化することとした。

(5)産業基盤の強靭化

企業間の競争環境の創出に向けた契約制度の見直しを行うなど、各種施策を通じて、コストダウンと企業競争力の向上を図ることにより、強靱な産業基盤の構築を目指すこととした。

(6)情報機能の強化

各種事態などの兆候を早期に察知し迅速に対応するとともに、中長期的な軍事動向などを踏まえた各種対応を行うため、情報の収集・処理、分析・共有、保全の各段階における機能を強化することとした。その際、電波情報、画像情報、人的情報、公開情報などに関する収集能力・態勢の強化、情報収集衛星を運用する内閣衛星情報センターなどの国内の関係機関や同盟国などとの連携の強化などを行う。

3 Foreign Military Sales(有償援助)。米国政府が、経済的利益のためでなく、安全保障政策の一環として、武器輸出管理法に基づき、同盟諸国等などに対し、装備品等などを有償で提供するもの。