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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

2 多国間安全保障枠組み・対話における取組

拡大ASEAN国防相会議(ADMM(ASEAN Defence Ministers' Meeting)プラス)や、アジア太平洋地域における安全保障協力枠組みであるASEAN地域フォーラム2(ARF:ASEAN Regional Forum)をはじめとした多国間枠組みの取組が進展しており、安全保障・防衛分野における協力・交流の重要な基盤となっている。わが国としても、日ASEAN防衛当局次官級会合や東京ディフェンス・フォーラムを毎年開催するなど、地域における多国間の協力強化に寄与してきている。

参照資料45(多国間安全保障対話の主要実績(アジア太平洋地域・最近5年間))資料46(各種協定締結状況)資料47(留学生受入実績(平成28年度の新規受入人数))資料48(防衛省主催による多国間安全保障対話)資料49(その他の国家間安全保障対話など)

タイのチャイチャン国防次官(陸軍大将)を表敬する黒江事務次官

タイのチャイチャン国防次官(陸軍大将)を表敬する黒江事務次官

1 拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)のもとでの取組

ASEAN諸国においては、域内における防衛当局間の閣僚会合であるASEAN国防相会議(ADMM)のほか、わが国を含めASEAN域外国8か国3を加えた拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)が開催されている。

ADMMプラスは、ASEAN域外国を含むアジア太平洋地域の国防相が出席する政府主催の唯一の会議であるため、地域の安全保障・防衛協力の発展・深化の促進という観点から、極めて大きな意義があり、防衛省・自衛隊も参加・支援している。なお、ADMMプラスは、閣僚会合のもとに、①高級事務レベル会合(ADSOM:ASEAN Defence Senior Officials’ Meeting)プラス、②ADSOMプラスWG、③専門家会合(EWG:Experts’ Working Group)が設定されている。

EWGにおいて、わが国は積極的に貢献してきており、11(平成23)年7月から14(同26)年3月までの間、シンガポールとともに防衛医学EWGの共同議長を務めたほか、14(同26)年7月から17(同29)年3月の間、ラオスとともに人道支援・災害救援EWGにおいて共同議長を務めた。人道支援・災害救援EWGにおいては、①被災国と支援国との間で特定の取極がない状況のもとで、被災国と支援国との間で解決すべき問題の確認、②支援外国軍の活動効果を最大化するための多国間調整所(MNCC:Multi-National Coordination Center)に係る標準作業手続書(SOP:Standard Operating Procedure)の作成及び③災害救援活動時の撤収判断基準の手掛かりを提供する撤収事例集の整備を行った。

当該SOPは16(同28)年9月に防衛医学EWGと共催でタイにて開催した多国間演習(AM-HEx(ADMM-Plus Military Medicine - Humanitarian Assistance and Disaster Relief Joint Exercise) 2016)における指揮所演習を通じて有効性を検証した後、16(同28)年12月に開催された人道支援・災害救援EWG会合にて採択された。

参照図表III-2-1-3(拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)の組織図及び概要)

図表III-2-1-3 拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)の組織図及び概要

2 ASEAN地域フォーラム(ARF)

外交当局を中心に取り組んでいるARFについても、近年、災害救援活動、海洋安全保障、平和維持・平和構築といった非伝統的安全保障分野において、具体的な取組4が積極的に進められており、防衛省としても積極的に貢献している。例えば、海洋安全保障分野においては、09(同21)年以来、海洋安全保障に関する会期間会合(ISM on MS:Inter-Sessional Meeting on Maritime Security)が開催5されており、わが国の取りまとめにより、海洋安全保障分野の能力構築支援に関する「ベストプラクティス集」を作成した。また、災害救援分野においては、同年以来、ARF災害救援実動演習(ARF-DiREx:Disaster Relief Exercise)が実施されており(隔年実施)、防衛省・自衛隊からも、隊員、航空機などを派遣している。

3 防衛省・自衛隊が主催している多国間安全保障対話
(1)日ASEAN防衛担当大臣会合及び「ビエンチャン・ビジョン」

13(同25)年12月の日ASEAN特別首脳会議における安倍内閣総理大臣の提案に基づき、14(同26)年11月、ミャンマーにおいて、初の日ASEAN防衛担当大臣会合を開催した。人道支援・災害救援や海洋安全保障といった、非伝統的安全保障分野における協力について意見交換を行った本会合は、50年近くに及ぶ日ASEAN友好・協力の歴史において、初めて日本とASEAN諸国の防衛担当大臣が一堂に会した画期的な機会であり、今後の防衛協力強化に向けた重要な一歩となった。

16(同28)年11月、ビエンチャン(ラオス)において第2回日ASEAN防衛担当大臣会合が開催され、同会合において稲田防衛大臣から、日ASEAN防衛協力の指針としてわが国独自のイニシアティブである「ビエンチャン・ビジョン~日ASEAN防衛協力イニシアティブ~」を提示し、ASEANのすべての国々から歓迎された。

ラオスにおける日ASEAN防衛担当大臣会合に参加する稲田防衛大臣(16(平成28)年11月)

ラオスにおける日ASEAN防衛担当大臣会合に参加する稲田防衛大臣
(16(平成28)年11月)

同ビジョンは、ASEAN全体への防衛協力の方向性について、透明性をもって、重点分野の全体像を示した初めてのものである。具体的には、ASEAN個別の国に加えて、ASEAN全体の能力向上に資する協力を①法の支配の貫徹、②海洋安全保障の強化、③多様化・複雑化する安全保障上の課題への対処、の3点に重点を置いて推進していくこととしている。

同ビジョンに基づき、①国際法の実施に向けた認識共有促進、②能力構築支援、③防衛装備・技術協力、④訓練・演習、⑤人材育成・学術交流といった多様な手段を組み合わせた実践的な防衛協力を推進するため、防衛副大臣を長とする日ASEAN防衛協力検討委員会を16(同28)年12月に設置し、同委員会を中心に日ASEAN防衛協力の推進についての検討を進めている。

同ビジョンのもと、17(同29)年5月には米比共同演習バリカタンについて指揮所訓練に参加すると共に、医療・建設プログラムに初めて能力構築支援の観点からも参加し、訓練と能力構築支援の組み合わせにより、同じく参加した豪と共にフィリピンの総合的な人道支援・災害救援能力向上に貢献した。また、初の日ASEAN協力プログラムとして、同年6月にはシンガポール沖を航行中の護衛艦「いずも」において、乗艦研修及び海洋安全保障と人道支援・災害救援のセミナーを組み合わせた日ASEAN乗艦協力プログラムを実施したほか、わが国の統合防災演習に全ASEAN諸国を初めてオブザーバー招へいし、各種プログラムを実施した。

参照資料50(ビエンチャン・ビジョン~日ASEAN防衛協力イニシアティブ~)

(2)日ASEAN防衛当局次官級会合

日ASEAN間の次官級の人脈構築を通じた二国間・多国間の関係強化を図るため、09(同21)年より毎年、防衛省主催で日ASEAN防衛当局次官級会合を開催している。

16(同28)年9月に第8回会合が仙台で開催され、ASEAN諸国及びASEAN事務局の次官クラスの参加を得て、「地域における安全保障環境を向上するために~日ASEANの防衛協力の強化」と題して、①「地域の安全保障環境の現状」、②「共通の課題に対する取組」及び③「今後の日ASEAN防衛協力」の3つのテーマについて、出席者の間で意見交換を行った。安全保障上の課題が複雑化し、1か国のみでの対応が困難になっていること受けて、海洋安全保障、災害救援分野などを含む地域における協力の重要性を確認したほか、法の支配及び紛争の平和的解決が重要との認識で一致した。その上で、多様な安全保障問題に対応するため、ASEAN個々の国との協力に加え、ASEAN全体の能力強化に資する協力が重要であり、この方向性で日ASEAN防衛協力を一層推進していくとの認識で一致した。

仙台で開催された第8回日ASEAN諸国防衛当局次官級会合に参加した真辺防衛審議官(左から6人目)(16(平成28)年9月)

仙台で開催された第8回日ASEAN諸国防衛当局次官級会合に参加した
真辺防衛審議官(左から6人目)(16(平成28)年9月)

(3)東京ディフェンス・フォーラムなど

防衛省は、1996(同8)年から地域諸国の防衛政策担当幹部(国防省局長、将官クラス)を対象とする「アジア太平洋地域防衛当局者フォーラム(東京ディフェンス・フォーラム)」を毎年開催し、各国の防衛政策や防衛分野での信頼醸成措置への取組について意見交換を行っている。

17(同29)年3月に開催された第21回フォーラムでは、アジア太平洋地域の24か国に加え、フランス及び英国の計26か国、並びにASEAN事務局、欧州連合(EU)及び赤十字国際委員会(ICRC)の参加を得て、①「PKO活動~今後の課題と協力の在り方」及び②「国防当局が直面している国内の課題」について幅広く議論を行った。

また、01(同13)年より、わが国の安全保障・防衛政策、自衛隊の現状などに関する理解の促進を目的に、アジア太平洋地域の国から、主に安全保障政策の関係者をわが国に招へいしている。

4 その他
(1)国際機関主催の国際会議

16(同28)年9月にロンドン(イギリス)で開催された国連PKOサミット・フォローアップ会合(国防大臣級)では、若宮防衛副大臣が出席し、セッション「PKOの改善-女性・平和・安全保障」においてスピーチを行うとともに、同会合に出席する各国国防大臣などと二国間会談を行い、国連PKOに加えて地域情勢や安全保障政策についても意見交換を行った。本会合は、米国の呼びかけで行われた14(同26)年9月の第1回PKOサミット及び15(同27)年9月の第2回PKOサミットのフォローアップとして開催されたものであり、約80か国・機関から国防大臣などが参加した。

国連PKOサミット・フォローアップ会合(国防大臣級)において発言する若宮防衛副大臣(16(平成28)年9月)

国連PKOサミット・フォローアップ会合(国防大臣級)において発言する
若宮防衛副大臣(16(平成28)年9月)

(2)民間機関主催の国際会議

安全保障分野においては、政府間の国際会議だけではなく、政府関係者、学者、ジャーナリストなどが参加する民間機関主催の国際会議も開催され、中長期的な安全保障上の課題の共有や意見交換などが行われている。主な国際会議として、IISS(The International Institute for Strategic Studies)(英国国際戦略研究所)が主催するIISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)6や、欧米における安全保障会議の中でも最も権威ある会議の一つであるミュンヘン安全保障会議7がある。

17(同29)年2月に開催された第53回ミュンヘン安全保障会議には、若宮防衛副大臣が出席した。今回の会議には、米国、ドイツ、英国、フランスなどから、計600人以上の、各国首脳・閣僚らが参加し、欧州情勢、東アジア情勢、国際テロをはじめとする安全保障上の諸課題について幅広い議論が行われた。

同年6月に開催された第16回シャングリラ会合では、稲田防衛大臣が、第2全体セッション「ルールに基づく地域秩序の擁護」においてスピーチを行ったほか、参加国との二国間・三国間会談を実施し、北朝鮮情勢及び東シナ海・南シナ海情勢を含む地域情勢や防衛協力などについて意見交換を行い、各国との今後の協力強化の方策を確認した。

(3)各軍種間における取組

統幕長は、16(同28)年9月に、アジア太平洋諸国の参謀総長などが一堂に会し、同地域の安全保障に係るテーマについて自由に意見交換する第19回CHOD(Chief of Defense)会議に参加した。参加した29か国の参謀総長などのうち、米・英・オーストラリアなどを含む19か国の参謀総長などとの二者会談を実施し、相互の信頼醸成及び安全保障上の関係の強化を図った。

第19回CHODにおいてダンフォード米統合参謀議長(右)と会談する河野統幕長(左)(16(平成28)年9月)

第19回CHODにおいてダンフォード米統合参謀議長(右)と
会談する河野統幕長(左)(16(平成28)年9月)

陸幕長は、同年9月に豪陸軍主催により隔年で開催されている豪州陸軍本部長会議CAEX(Chief of Army’s Exercise)2016に参加した。本会議を通じて、アジア太平洋地域の陸軍参謀長などと同地域の陸軍種の課題などについて幅広い意見交換を行った。

豪州陸軍本部長会議においてキャンベル豪陸軍本部長(右)と握手を交わす岡部陸幕長(左)(16(平成28)年9月)

豪州陸軍本部長会議においてキャンベル豪陸軍本部長(右)と
握手を交わす岡部陸幕長(左)(16(平成28)年9月)

海幕長は、16(同28)年10月に歴史上初の日米英3か国海軍種参謀長級会談に参加した。本会談では、海幕長、米海軍作戦本部長及び英海軍第1海軍卿が一堂に会し、大きく変化する海洋安全保障環境の改善のため、世界の主要海洋国家である日米英の海軍種が協力して取り組むことで合意するとともに、3か国共同メッセージを世界に発信した。

日米英3か国海軍種参謀長級会談において米海軍作戦本部長(左端)及び英海軍第1海軍卿(右端)と会談する武居海幕長(当時)(中央)(16(平成28)年10月)

日米英3か国海軍種参謀長級会談において米海軍作戦本部長(左端)及び
英海軍第1海軍卿(右端)と会談する武居海幕長(当時)(中央)
(16(平成28)年10月)

空自は、同年10月に、8か国から計9名の空軍参謀長や司令官などを招へいし空軍参謀長等招へい行事(AFFJ:Air Force Forum in Japan)を開催した。この行事では、空幕長との二者懇談、シンポジウム及び入間基地においてC-2輸送機など国産装備品の展示を主体とした基地見学が行われ、アジア太平洋地域の安全保障環境の概観、情勢認識及び課題について共有するとともに、能力構築支援及び防衛装備・技術協力に関する意見交換を通じ、参加各国の空軍種間の関係を強化することで意見が一致した。また、17(同29)年5月、空幕長は、フィリピンで行われたフィリピン空軍シンポジウムにおいて、人道支援・災害救援に関する講演を行い、参加した米空軍第5空軍司令官及びASEAN諸国の空軍参謀長などとの情報共有及び関係強化を図った。

空軍参謀長等招へい行事(AFFJ)シンポジウムに臨む若宮防衛副大臣と杉山空幕長(中央)(16(平成28)年10月)

空軍参謀長等招へい行事(AFFJ)シンポジウムに臨む
若宮防衛副大臣と杉山空幕長(中央)(16(平成28)年10月)

2 ARFは、政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じ、アジア太平洋地域の安全保障環境を向上させることを目的としたフォーラムで、1994(平成6)年から開催されている。現在26か国(ASEAN10か国(ブルネイ、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、カンボジア(以上1995(同7)年から)、ミャンマー(1996(同8)年から)に、日本、オーストラリア、カナダ、中国、インド(以上1996(同8)年から)、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国、ロシア、米国、モンゴル(以上1998(同10)年から)、北朝鮮(00(同12)年から)、パキスタン(04(同16)年から)、東ティモール(05(同17)年から)、バングラデシュ(06(同18)年から)、スリランカ(07(同19)年から)を加えた26か国)と1機関(欧州連合(EU:European Union))がメンバー国となり、外務当局と防衛当局の双方の代表による各種政府間会合を開催し、地域情勢や安全保障分野について意見交換を行っている。

3 10(平成22)年10月に発足し、ASEAN域外国として、わが国のほか、米国、オーストラリア、韓国、インド、ニュージーランド、中国及びロシアが参加している。

4 毎年、外相級の閣僚会合のほかに、高級事務レベル会合(SOM:Senior Officials’ Meeting)及び会期間会合(ISM:Inter-Sessional Meeting)が開かれるほか、信頼醸成措置及び予防外交に関する会期間支援グループ(ISG on CBM/PD:Inter-Sessional Support Group on Confidence Building Measures and Preventive Diplomacy)、ARF安全保障政策会議(ASPC:ARF Security Policy Conference)などが開催されている。また、02(平成14)年の閣僚会合以降、全体会合に先立って、ARF防衛当局者会合(DOD:Defense Officials’ Dialogue)が開催されている。

5 わが国は11(平成23)年、インドネシア及びニュージーランドとともに第3回会期間会合を東京で共催した。

6 諸外国の国防大臣クラスを集めて防衛問題や地域の防衛協力についての議論を行うことを目的として開催される多国間会議であり、民間研究機関である英国の国際戦略研究所の主催により始まった。02(平成14)年の第1回から毎年シンガポールで開催され、会場のホテル名からシャングリラ会合(Shangri-La Dialogue)と通称される。

7 欧米における安全保障会議の中で最も権威ある民間主催の国際会議の一つであり、1962(昭和37)年から毎年(例年2月)開催されている。欧州主要国の閣僚をはじめ、世界各国の首脳や閣僚、国会議員、国際機関主要幹部が例年参加している。