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資料33 防衛省改革の方向性

平成25年8月30日
防衛省

第1 前回(平成19年~21年)の防衛省改革について

1 経緯

防衛省・自衛隊の不祥事の頻発を受け、平成19年12月、防衛省改革会議が官邸に設置された。同会議は、議論を重ね、平成20年7月、不祥事の分析と改革の方向性を内容とする報告書(以下「防衛省改革会議報告書」という。)を取りまとめた。

防衛省は、防衛省改革会議報告書に示された改革の方向性に基づき、同年8月、「防衛省改革の実現に向けての実施計画」及び「防衛省における組織改革に関する基本方針」を策定した。これらに従って、規則遵守の徹底、プロフェッショナリズムの確立、全体最適をめざした任務遂行型の業務運営の確立の3つの分野の改革を実行することで不祥事の再発防止を図るとともに、抜本的な中央組織改編を2段階で進めることとし、まず平成21年度に、防衛会議の法定化、防衛参事官制度の廃止及び防衛大臣補佐官の新設を行った。

さらに、平成21年8月末に行った平成22年度概算要求には、2段目の組織改編として、防衛省の中央組織における防衛力整備部門の内部部局への一元化や運用部門の統合幕僚監部への一元化等を内容とする組織改編案(以下「22改編案」という。)を盛り込んだ。しかし、同案は、同年9月の民主党への政権交代により、同年10月の概算要求は見送られ、白紙に戻された。

2 平成22年度に予定されていた防衛省中央組織改編案

22改編案は、①文官及び自衛官の一体感を醸成するため、内部部局に自衛官を定員化すること、②防衛政策局の組織を改編し、機能強化すること、③陸海空自衛隊ごとの個別最適となっている防衛力整備の全体最適化を図るため、内部部局及び各幕僚監部の防衛力整備部門を統合して内部部局に整備計画局(仮称)を新設すること、④運用部門について、実態としての業務の重複を解消するため、運用企画局を廃止し、その業務を統合幕僚監部に一元化すること等を内容とするものであった。

他方、同案は、内部部局及び統合幕僚監部において、文官及び自衛官を本格的に混在させ、その専門性に応じて適切に配置することにより、文官及び自衛官が協働できる体制を構築することを主眼とし、防衛省の組織構造を大きく見直すものであったため、それに伴う留意事項や、細部設計について更に検討を要する点も多く残されていた。

具体的には、防衛力整備の一元化については、22改編案では、防衛力整備の前提となる統合運用の視点が必ずしも十分に反映される体制となっていなかった面や、防衛力整備において重要な役割を有する装備取得部門の改革にまで検討が至らなかった面があった。

運用機能の統合幕僚監部への一元化についても、22改編案では統合幕僚監部に集約すべき具体的な業務範囲について更に検討を要する状況にあった。例えば、自衛隊の運用に係る法令の企画・立案といった業務についてまで、運用企画局の廃止後、統合幕僚監部に移してしまうことが適当かといった点について検討を行っていたが、結論は得られなかった。

なお、今般の検討における22改編案の検証においても、統合幕僚長が運用政策に係る業務や国会対応業務までも所掌として持つ場合、「軍事面」における大臣の「最高の専門的助言者」との性格が変質してしまうのではないかとの論点も提示されている。

第2 今般の防衛省改革検討委員会における検討

1 防衛大臣指示

自由民主党・公明党への政権交代により、本年2月、防衛省改革の検討の加速化の防衛大臣指示が発出され、防衛副大臣を長とする防衛省改革検討委員会(以下「委員会」という。)において、①不祥事再発防止の観点はもとより、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境の下、シビリアン・コントロールを貫徹しつつ、人材を有効に活用して自衛隊をより積極的・効率的に機能させることができるようにするとの観点から、防衛力の在り方等に関する検討とも連携しつつ、必要な検討を実施すること、②中央組織における業務及び編成の在り方については、東日本大震災、北朝鮮ミサイル発射等の近年の事案への対応の教訓事項等も踏まえ、また、国家安全保障会議(NSC)の設置等、安全保障に関する官邸の司令塔機能強化の検討等とも連携しつつ、必要な検討を実施すること、③平成26年度概算要求時期を目途として、防衛会議へ報告することとされた。

2 検討状況

(1)検討体制

委員会は、防衛副大臣を委員長とし、防衛大臣政務官、事務次官、大臣官房長、各局長、各幕僚長等で構成され、その下に、事務次官、大臣官房長、各幕僚長等で構成される幹事会、さらに、「防衛力整備」「運用」「政策立案」及び「情報発信」の各項目については組織横断的な実務的検討を行う場として、局次長・大臣官房審議官・各幕僚監部部長級で構成するプロジェクトチーム及び内部部局・各幕僚監部の課長級で構成される作業チームが設置された。

(2)検討経過

本年2月の委員会設置に際し、防衛副大臣の下で7回事前会議を行った上で、同月から3月にかけて、委員会において検討のための論点の洗出しを行い、それら論点について、本年4月以降、各プロジェクトチーム、作業チーム等で鋭意議論・検討を行った。具体的には、委員会6回、幹事会4回、プロジェクトチーム12回、作業チーム21回を開催し、様々なレベルで議論・検討を重ねた。

なお、防衛省改革会議報告書で提言された不祥事再発防止のための取組については、これらを着実に実行することにより、一定の成果は上がっているものの、調達をめぐっては、引き続き事案が起きていることもあり、これについては、本委員会とは別に設置されていた検討の場(陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事業の企業選定に係る事案調査・再発防止検討委員会、過大請求事案調査・検討委員会等の専門的委員会等)において再発防止策の検討やその取組の確認を行っていくこととした。

以上の議論・検討を踏まえ、本年8月29日に第7回委員会を開催し、防衛省改革の方向性をとりまとめ、同月30日、防衛会議に報告した。

第3 改革の基本的考え方と方向性

我が国を取り巻く安全保障環境は、中国による我が国領海侵入及び領空侵犯を含む我が国周辺海空域における活動の活発化、北朝鮮によるミサイル発射事案や核実験の強行等、一層深刻化している。とりわけ、領土、経済権益等をめぐるいわゆるグレーゾーンの事態が顕在化・長期化し、より重大な事態へ先鋭化・深刻化する可能性が懸念される。また、東日本大震災を始めとする近年の事態対処を通じて、部隊運用に係る教訓事項等も認識されている。さらに、武器輸出三原則等の包括的例外化措置、NSCの設置に向けた動きなど、政策的環境の変化も生じてきている。

今般の防衛省改革の検討においては、このような防衛省・自衛隊をめぐる様々な状況の変化を踏まえるとともに、防衛省改革会議報告書の提言において指摘された、防衛力整備の全体最適化、運用に関する業務の重複の合理化及び防衛政策の企画・立案・発信機能の強化といった論点についても十分に考慮しつつ、防衛省・自衛隊をいかに実効的に機能させるかという視点で、業務の在り方を見直すとともに、組織の在り方について効率化・合理化の視点も含め見直しを行うこととする。

組織改編を含めた抜本的な改革の方向性は、以下のとおりである。

(1)文官と自衛官の垣根を取り払う

迅速な意思決定にとって、防衛省中央組織における文官及び自衛官の一体感の醸成は不可欠である。このため、内部部局に自衛官ポストの定員化を図るとともに、各幕僚監部、主要部隊等に新たな文官ポストを定員化する。

(2)部分最適化から全体最適化へ(防衛力整備)

陸海空縦割りの個別最適による防衛力整備を排し、全体最適化された防衛力整備がなされるよう、22改編案を含め、これまで必ずしも十分とは言えなかった統合運用を踏まえた防衛力の能力評価を重視した防衛力整備業務フローを確立するとともに、装備品等のライフサイクルの一貫した管理により装備取得の効率化・最適化を図り、防衛力の全体最適化に寄与する組織の改編を行う。

(3)的確な意思決定をより迅速に(統合運用)

自衛隊の運用に関する意思決定について、的確性を確保した上で、より迅速なものとなるよう、防衛会議の下、事態対処のための効率的な調整組織を構築することに加え、実際の部隊運用に関する業務を基本的に統合幕僚監部に一本化すべく、運用企画局を含む組織の見直し等を行う。

(4)政策立案・情報発信機能の更なる強化へ

防衛政策局の機能強化は、22改編案以降も着実に進捗してきている。今後は、外務・防衛閣僚級協議(「2+2」)の拡大等防衛省における昨今の対外関係業務の飛躍的増大に対応するため、一層の体制の強化を図るとともに、NSC設立に伴う官邸の戦略機能強化に対応すべく防衛政策局の機能強化を進める。また、併せて防衛省としての情報発信機能の強化を図る。

改革を真に実効的なものとするためには、文官及び自衛官双方の隊員一人一人の意識改革が不可欠である。また、現下の厳しい安全保障環境においては、事態対処等の業務の停滞や混乱を招かぬようスムーズに改革を進める必要がある。このため、今般の改革においては、内部部局及び各幕僚監部が車の両輪として防衛大臣を補佐する一方、着実かつ段階的に改革を行い、一連の改革を定着させることが重要である。もとより、改革は不断に実施するものであり、常に点検を行い、更なる改革・改善に取り組んでいくことは当然である。

第4 改革の具体的取組

防衛省改革として取り組む事項は、具体的には以下のとおりである(上記第3の(1)から(4)までに加え、今般の検討過程において新たに導出された事項を含む。)。なお、これらについては「短期(平成26年度)」「中期」「長期」のタイムスケジュールを設定し、着実かつ段階的に実施する。

(1)文官及び自衛官の相互配置

ア 防衛省設置法(昭和29年法律第164号)の関連規定を改正し、まず内部部局に2佐及び3佐の自衛官ポストを中心に定員化を行うとともに、統合幕僚監部及び各自衛隊の主要部隊にも新たな文官ポストを定員化する。〔平成26年度〕

イ その後、内部部局に自衛官の、各幕僚監部、各自衛隊の主要部隊等に文官の高位級スタッフまで相互に定員化し配置していく。〔中~長期〕

(2)防衛力整備の全体最適化・装備取得機能の強化

ア 現在進捗中の防衛力の在り方等に関する検討における防衛力整備の全体最適化手法の実施結果等を踏まえ、防衛力整備の新たな業務フローを確立する。〔平成26年度〕

<新たな業務フローのイメージ(検討中)>

内部部局及び各幕僚監部が相互に緊密な協力を行いつつ、次の手順で防衛力整備を進める。

① 防衛政策局長及び統合幕僚長が、想定される事態を踏まえて陸海空個別ではなく統合運用のニーズの観点から防衛力の能力評価を一元的に実施

② 統合幕僚長が、①の結果に基づき、統合運用上のニーズの観点から防衛力整備上重視すべき事項を提示

③ 防衛政策局長が、②を参考に、情勢、政策等のより総合的な観点から防衛力整備の優先事項を明確化

イ 以上の防衛力整備の全体最適化のための業務フロー見直しに加えて、装備取得業務を一層公正・効率的かつ最適化された形で行い得るよう、次の措置を講ずる。

(ア)装備品等の整備事業について、当該事業を総括し、事業の進捗に一貫して責任を有するプロジェクト・マネージャー(PM)を長とする組織横断的な統合プロジェクトチーム(IPT)の設置を増やし、装備品等の研究開発を含む取得から廃棄までのライフサイクルを通じたプロジェクト管理を強化する。〔平成26年度~〕

(イ)上記のライフサイクルを通じたプロジェクト管理について、組織的にも適切に実施でき、また、防衛力整備の全体最適化や防衛生産・技術基盤の維持・強化にも寄与するよう、内部部局、各幕僚監部、技術研究本部及び装備施設本部の装備取得関連部門を今後の検討に応じ統合し、「防衛装備庁」(仮称)の設置も視野に入れた組織改編を行う。その際には、調達の更なる公正性を期するため監査機能の強化についても検討する。〔中期〕

(3)統合運用機能の強化

ア 自衛隊の運用に関する意思決定について、的確性を確保した上で、より迅速なものとなるよう、まず、文官及び自衛官の一体感を醸成するため、内部部局及び統合幕僚監部に自衛官及び文官を相互に定員化し配置する。〔平成26年度~〕【再掲】

イ 運用の迅速性・効率性の向上のため、実際の部隊運用に関する業務は、基本的に統合幕僚監部に一本化する。他方、運用に関する法令の企画・立案機能等は、行政的・制度的な事務であることから、引き続き内部部局の所掌とする。これにより、実際の部隊運用に関する業務について、国会対応を含む対外説明に起因した、内部部局及び統合幕僚監部の間の実態としての業務の重複を改める。運用企画局については、こうしたことも見越し、また、サイバー攻撃対処や(4)に述べる対外関係業務が新たな課題となっていることも踏まえ、その組織を見直す。〔中期〕

ウ 事態対処に際して、防衛大臣を長とする防衛会議や対策本部会議が効果的に機能していることを踏まえ、事態対処に係る意思決定手続の一層の迅速化を図るため、防衛会議の下、内部部局、統合幕僚監部等の関係幹部による事態対処のための効率的な調整組織を構築する。〔中期〕

エ 東日本大震災における自衛隊の行動に際し、統合幕僚監部において軍事専門的見地からの防衛大臣の補佐に関する業務及び防衛大臣命令の執行に関する業務が逼迫し、統合幕僚長の負担が激増したとの教訓事項等を踏まえ、統合運用の実効性の更なる向上のため、統合幕僚監部等の機能・役割についての検証や、陸海空自衛隊における効果的な指揮統制の確保(陸上自衛隊の中央指揮組織の設置及び当該組織と各方面隊の関係の在り方についての検討を含む。)については、防衛力の在り方等に関する検討などに連携・協力する。〔中~長期〕

(4)政策立案・情報発信機能の強化

ア 関係国との戦略協議・対話の強化のため、防衛省に対外関係業務等を総括整理する防衛審議官を新設する。〔平成26年度〕

イ 今後設立されるNSCとの的確な連接を図り、我が国の安全保障戦略の立案に資するとともに、これに対応した防衛政策を立案し、遂行していくため、設立後のNSCの活動状況も踏まえ、防衛政策局の戦略立案機能を強化する。〔平成26年度~〕

ウ 報道部門の強化のため、次の措置を構ずる。

(ア)緊急的な自衛隊の行動、国際情勢の緊迫化その他の危機管理時に、防衛省・自衛隊として一元的に発信すべき情報の集約・発信調整を行う仕組み(報道センター)を確立する。〔平成26年度〕

(イ)我が国を取り巻く安全保障環境が一層深刻化する中、防衛省・自衛隊として戦略的かつ効果的な情報発信を行っていくために、報道対応の専門職として置かれている大臣官房報道官及び統合幕僚監部報道官が、そのノウハウ等を最大限発揮し、防衛省の情報発信の要として機能するよう報道組織の見直しを行う。〔中期〕

(5)地域コミュニティーとの連携の強化

駐屯地・基地を抱える地元の理解促進や大規模災害等の緊急事態における地方公共団体との連絡調整機能を強化するため、平素から地方公共団体や関係省庁と緊密に連携できる地方関連組織(地方防衛局、地方協力本部、方面総監部、地方総監部等)の在り方については、防衛力の在り方等に関する検討などに連携・協力する。〔中~長期〕

(6)情報管理の徹底

我が国の安全を守る組織として、その信頼性を維持するとともに、任務遂行上の支障を生じさせることのないよう、秘密のみならず、対外的に公表されるべきでない情報全般の漏えいを防止するため、各レベルの情報の管理について、具体的な管理要領の見直しも含め、その徹底を図るとともに、漏えい時の調査手法・体制を確立する。〔平成26年度~〕

(7)大臣官房の総合調整機能の強化

省としての意思決定の的確性を確保する観点から、引き続き業務の在り方について見直しを行うとともに、平素から関係部局による政務への迅速かつ適切な報告がなされるよう、大臣官房を中心とする政務の補佐体制を強化する。〔平成26年度〕

第5 結言

防衛省改革は、前述したとおり、隊員一人一人の意識改革を伴う形で着実に実行していく必要がある。こうしたことを念頭に、第4で述べた防衛省改革の具体的取組について、本委員会を中心として、具体化のため引き続き鋭意検討を進めていくこととする。また、調達不祥事の問題については、関係委員会等において鋭意検討し、再発防止策の徹底を図る。