第III部 わが国の防衛に関する施策
4 弾道ミサイル攻撃などへの対応

弾道ミサイルや大量破壊兵器の拡散防止のための国際社会における様々な努力にもかかわらず、これらの拡散は依然として進展している。
わが国周辺では、中国、ロシアとも核兵器を搭載することが可能な弾道ミサイルを相当数配備している。また、北朝鮮は、06(同18)年には7発の弾道ミサイルを発射、09(同21)年4月には「人工衛星」を打ち上げるとしてミサイル発射を行うとともに、同年7月にも7発の弾道ミサイルを発射した。さらに12(同24)年4月および12月にも「人工衛星」と称するミサイル発射を行い、弾道ミサイルによる脅威が現実のものであることが改めて確認された。
参照 I部1章2節資料12
わが国は、弾道ミサイル攻撃などへの対応に万全を期すため、平成16年度から弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)システムの整備を開始した。05(同17)年には、自衛隊法の所要の改正を行い、同年、安全保障会議と閣議において、弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを決定した。
現在までに、イージス艦1への弾道ミサイル対処能力の付与やペトリオットPAC-3(Patriot Advanced Capability-3)2の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の多層防衛体制の整備を着実に進めている。
(図表III-1-1-8参照)

図表III-1-1-8 わが国のBMD整備への取組の変遷
1 わが国の弾道ミサイル防衛

(1)BMDシステムの整備の概要

ア 基本的考え方
わが国の弾道ミサイル防衛は、イージス艦による上層での迎撃とペトリオットPAC-3による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE:Japan Aerospace Defense Ground Environment)により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。この体制を確立するため、現在保有しているイージス艦とペトリオット・システムの能力の向上を図り、BMDシステムの整備を推進している。
(図表III-1-1-9参照)
参照 資料4445

図表III-1-1-9 BMD整備構想・運用構想(イメージ図)
SM-3の発射試験に初めて成功したイージス艦こんごう(07(平成19)年12月18日)
SM-3の発射試験に初めて成功したイージス艦こんごう(07(平成19)年12月18日)
与座岳に配備されたFPS-5
与座岳に配備されたFPS-5

イ BMDシステムの整備の状況
平成23年度末までに、海自は4隻3のスタンダード・ミサイル(SM-3:Standard Missile-3)搭載イージス艦、空自は16個4FU5のペトリオットPAC-3、4基のFPS-56および7基のFPS-3改固定式警戒管制レーダーを配備し、16大綱別表で定めた整備目標を達成した。防衛省・自衛隊は、引き続きBMDシステムの整備を進めており、今後、イージス艦については新たに「あたご」型2隻にBMD能力を付与し、ペトリオットPAC-3については、新たに1個FUをPAC-3化するとともに全国にPAC-3を再配置する予定である。13(同25)年4月には高射教導隊(浜松)2個FUのペトリオットPAC-3を第17高射隊(那覇)および第18高射隊(知念)に配備したところである。

(2)将来の能力向上
依然として弾道ミサイル技術の拡散は進展しており、弾道ミサイルが将来的に迎撃回避能力を備えたものになっていく可能性は否定できない。また、従来型の弾道ミサイルに対しても、防護できる範囲の拡大や迎撃確率を向上することなどが求められ、迎撃ミサイルの運動性能の向上などを図り、BMDシステムの効率性・信頼性の向上に取り組んでいくことが必要である。
このような観点から99(同11)年から行ってきた日米共同技術研究で得られた研究成果を踏まえ、06(同18)年から能力向上型迎撃ミサイルにかかわる日米共同開発を開始するなど将来の能力向上に努めている。

2 法制・運用面の整備

(1)弾道ミサイル対処に関する法的枠組
わが国に武力攻撃として弾道ミサイルなど7が飛来した場合には、武力攻撃事態における防衛出動により対処する。
一方、わが国に弾道ミサイルなどが飛来する場合に、武力攻撃事態が認定されていないときには、<1>迅速かつ適切な対処を行うこと、<2>文民統制を確保することを十分考慮し、以下の措置をとることができる。

ア 防衛大臣は、弾道ミサイルなどがわが国に飛来するおそれがあると判断する場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、弾道ミサイルなどがわが国に向けて飛来したときには同ミサイルを破壊する措置をとるべき旨を命ずる8

イ また、上記の場合のほか、発射に関する情報がほとんど得られなかった場合や、事故や誤射による場合などのように、事態が急変し、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得る時間がないことが考えられる。防衛大臣は、このような場合に備え、平素から緊急対処要領を作成して内閣総理大臣の承認を受けておくことができる。そして、防衛大臣は、この緊急対処要領に従い、一定の期間を定めた上で、あらかじめ自衛隊の部隊に対し、実際に弾道ミサイルなどがわが国に向けて飛来したときには同ミサイルの破壊措置をとるべき旨を命令しておくことができる。
(図表III-1-1-10参照)
参照 資料424346

図表III-1-1-10 弾道ミサイルなどへの対処の流れ

(2)文民統制の確保の考え方
弾道ミサイルなどへの対応については、飛来のおそれの有無について、具体的な状況や国際情勢などを総合的に分析・評価し、政府として判断する必要がある。また、自衛隊による破壊措置だけではなく、警報や避難などの国民の保護のための措置、外交面での活動、関係部局の情報収集や緊急時に備えた態勢強化など、政府全体として対応することが必要である。
このような事柄の重要性および政府全体としての対応の必要性にかんがみ、内閣総理大臣の承認(閣議決定)と防衛大臣の命令を要件とし、内閣および防衛大臣がその責任を十分果たせるようにしている。さらに、国会報告を法律に規定し、国会の関与についても明確にしている。

(3)運用面の取組

ア 統合運用による弾道ミサイルなどへの対処
飛来する弾道ミサイルなどに対しては、「BMD統合任務部隊」が編成されている場合は、空自航空総隊司令官を指揮官とし、JADGEなどを通じた一元的な指揮のもと、効果的に対処するための各種態勢をとる。
また、弾道ミサイルの弾着などによる被害については、陸自が中心となって対処する。

イ 弾道ミサイル攻撃対処のための日米の協力
BMDシステムの効率的・効果的な運用のためには、在日米軍をはじめとする米国とのさらなる協力が必要である。このため、05(同17)年、06(同18)年および07(同19)年の日米安全保障協議委員会(「2+2」)において、BMD運用情報および関連情報の常時リアルタイムでの共有をはじめとする関連措置が合意された。
また、07(同19)年11月の日米防衛相会談においても、日米両国のBMDシステムの整備が進む中、今後、運用面に焦点をあてて協力を進めていくことで一致した。
なお、訓練などによる日米対処能力の維持・向上、検証なども積極的に行われており、13(同25)年2月には、前年に引き続き日米艦艇をネットワークで連接して、弾道ミサイル対処にかかるシミュレーションを行うBMD特別訓練を行い、弾道ミサイル対処に関する戦術技量の向上と連携の強化を図った。
参照 II部3章2節

3 米国のミサイル防衛と日米BMD技術協力

(1)米国のミサイル防衛
米国は、弾道ミサイルの飛翔経路上の<1>ブースト段階、<2>ミッドコース段階、<3>ターミナル段階のそれぞれの段階に適した防衛システムを組み合わせ、相互に補って対応する多層防衛システムを構築している。
日米両国は、弾道ミサイル防衛に関して緊密な連携を図ってきており、米国保有のミサイル防衛システムの一部が、わが国に段階的に配備されている。
具体的には、06(同18)年6月、青森県の空自車力(しゃりき)分屯基地に、TPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)を配備した9。また、同年12月以降、BMD能力搭載イージス艦が、わが国およびその周辺に前方展開している。さらに、同年10月には沖縄県の嘉手納(かでな)飛行場などにペトリオットPAC-3を、07(同19)年10月には青森県の三沢(みさわ)飛行場に統合戦術地上ステーション(JTAGS:Joint Tactical Ground Station)10を配備した。なお、京都府の空自経ヶ岬(きょうがみさき)分屯基地に、TPY-2レーダーの追加配備が検討されている。
参照 II部3章5節2

(2)弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発など
98(同10)年、政府は、平成11年度から、海上配備型上層システムの日米共同技術研究に着手することを決定した。
この共同技術研究は、より将来的な迎撃ミサイルの能力向上を念頭に置き、日米が共同して技術研究を行うものであり、迎撃ミサイルの主要な4つの構成品11に関する設計、試作および必要な試験を行った。
日米共同技術研究の結果、当初の技術的課題を解決する見通しを得たことから、05(同17)年12月の安全保障会議および閣議において、この成果を技術的基盤として活用し、BMD用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを決定した。同共同開発は、防護範囲を拡大し、より高性能化・多様化する将来脅威に対処することを目的として06(同18)年6月から開始しており、17(同29)年頃の完了を目標としている。
(図表III-1-1-11参照)
参照 資料47

図表III-1-1-11 能力向上型迎撃ミサイル日米共同開発の概要

(3)武器輸出三原則等との関係
より将来的な能力向上を目指したBMDに関する日米共同開発に関しては、開発の一環として、わが国から米国に対して、BMDにかかわる武器を輸出する必要性が生じる。これについて、04(同16)年12月の内閣官房長官談話において、BMDシステムに関する案件については、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則等によらないとされた。このような経緯を踏まえてSM-3ブロックIIAの第三国移転について検討を行った結果、わが国の安全保障や国際の平和および安定に資する場合であって、かつ当該第三国がSM-3ブロックIIAのさらなる移転を防ぐための十分な政策を有しているときには、「対米武器・武器技術供与交換公文」に従い、第三国移転の事前同意を付与できるとわが国として判断し、11(同23)年6月21日の日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同発表においてその旨を発表した。
参照 資料2047

4 北朝鮮によるミサイル発射事案などへの対応

(1)09(平成21)年の事案
09(同21)年3月12日、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)から、北朝鮮当局から「試験通信衛星」打上げのための事前通報があった旨の連絡が入った。
政府は、国連安保理決議第1695号および第1718号に違反することなどから、北朝鮮当局に対し発射の中止を求める旨表明するとともに、3月27日の安全保障会議において北朝鮮からのミサイル発射への対応方針を確認した。また、防衛大臣は、自衛隊法第82条の2(当時。現在は第82条の3)第3項に基づく「弾道ミサイル等に対する破壊措置命令」を発出した。自衛隊は、BMD統合任務部隊を編成し、SM-3搭載イージス艦2隻を日本海中部へ、ペトリオットPAC-3部隊を東北地方や首都圏に所在する自衛隊の駐屯地などに展開させ、わが国領域への落下に対する備えを行った。
4月5日午前11時30分、北朝鮮から東の方向にミサイル1発が発射され、同11時37分頃には東北地方から太平洋に通過したものと推定された。
このミサイル発射に対して、防衛省・自衛隊は、早期警戒情報12(SEW:Shared Early Warning)や自衛隊の各種レーダーにより得た情報を官邸などへ迅速に伝達13した。また、航空機により、東北地方の被害の有無を確認するための情報収集を実施した。
同年4月6日、防衛大臣は、「弾道ミサイル等に対する破壊措置の終結に関する命令」を発出し、部隊を撤収させた。同年5月15日、北朝鮮が発射したミサイルに関して行った総合的・専門的分析の内容を公表した。

(2)12(平成24)年の事案
12(同24)年3月19日、IMOから、北朝鮮当局から「地球観測衛星」打上げのための事前通報があった旨の通報があった。
3月27日、防衛省・自衛隊は「弾道ミサイル等に対する破壊措置等の準備に関する命令(準備命令)」に基づき準備を開始した。また、同月30日、防衛大臣が自衛隊法第82条の3第3項に基づく「弾道ミサイル等に対する破壊措置等の実施に関する命令(行動命令)」を発出し、SM-3搭載イージス艦を日本海および東シナ海に、ペトリオットPAC-3部隊を沖縄県内の各島や首都圏にそれぞれ展開させるとともに、所要の部隊を南西諸島に派遣するなどの対応をとった。
4月13日午前7時40分頃、防衛省・自衛隊は北朝鮮西岸からの何らかの飛翔体の発射に関する早期警戒情報の受信を確認した。その後、当該発射について、北朝鮮が「人工衛星」と称するミサイルを発射したものであると判断した。当該ミサイルは、1分以上飛翔し、数個に分かれて黄海に落下したため、発射は失敗したと考えられる。
同日夕刻、防衛大臣が「弾道ミサイル等に対する破壊措置等の終結に関する命令(終結命令)」を発出し、速やかに部隊を撤収させた。
さらに同年12月1日、北朝鮮が「人工衛星」を同月10日から22日までの間(後に同月29日まで延長)に打ち上げる旨発表し、同月3日、IMOから、北朝鮮による危険区域の設定などについて通報を受けた。このような状況を踏まえ、同月1日、防衛大臣が準備命令を発出し、4月と同様にイージス艦およびPAC-3部隊を展開させるとともに、万一の落下に備え、陸自部隊を南西諸島に派遣するなどの対応をとった。同月7日、防衛大臣が自衛隊法第82条の3第3項に基づく行動命令を発出した。
同月12日防衛省・自衛隊は、午前9時49分頃に北朝鮮西岸から南方向へ向け「人工衛星」と称するミサイルが発射されたものと判断し、10時01分頃には沖縄県上空を通過し、太平洋側へ通過したものと推定した。同日夕刻、防衛大臣が終結命令などを発出し、部隊を撤収させた。13(同25)年1月25日、防衛省・自衛隊は「北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射について」として分析結果などを発表している。

(3)13(平成25)年以降の対応
北朝鮮は、13(同25)年に入ってからも、ミサイル発射の示唆(しさ)を含む様々な挑発的な行動を繰り返し行っており、このような情勢を受け、4月に北朝鮮情勢に関し、情報収集・分析の徹底、国民への情報提供、国民の安全、安心の確保に万全を期すことについての内閣総理大臣指示があった。この指示を踏まえ、防衛省・自衛隊としてはいかなる事態においても国民の生命・財産を守るべく関係省庁・米国などと連携しつつ、警戒監視をはじめとする必要な対応に万全の態勢をとっている。

弾道ミサイル対処のために佐世保に集結したイージス艦
弾道ミサイル対処のために佐世保に集結したイージス艦
石垣島に配備されるペトリオットPAC-3
石垣島に配備されるペトリオットPAC-3
ペトリオットPAC-3の警戒を行う陸自隊員
ペトリオットPAC-3の警戒を行う陸自隊員

1)目標の捜索、探知、分類識別、攻撃までの一連の動作を高性能コンピューターによって自動的に処理するイージス防空システムを備えた艦艇をいう。
2)ペトリオットPAC-3は、経空脅威に対処するための防空システムの一つであり、主として航空機を迎撃目標としていた従来型のPAC-2と異なり、主として弾道ミサイルを迎撃目標とするシステム
3)「こんごう」、「ちょうかい」、「みょうこう」および「きりしま」
4)第1高射群の4個FU(習志野、武山、霞ヶ浦、入間)、第2高射群の4個FU(芦屋×2、築城、高良台)、第4高射群の4個FU(饗庭野、岐阜×2、白山)、高射教導隊および第2術科学校(浜松)の4個FU
5)Fire Unit(高射隊。対空射撃部隊の最小単位)
6)弾道ミサイルの探知・追尾を可能とするもので、平成11年度より開発(旧称:FPS-XX)。航空機などの従来型の脅威と弾道ミサイルの双方に対処可能である。
7)弾道ミサイルその他その落下により、人命または財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であって、航空機以外のものをいう。
8)自衛隊の具体的な活動の一例としては、弾道ミサイルなどの飛来に備え、防衛大臣の当該命令を受けて、弾道ミサイルなど対処のための空自のペトリオットPAC-3や海自のイージス艦を展開し、弾道ミサイルなどが飛来してきた場合に、先に下された大臣の命令に基づきこれを破壊する。
9)レーダーは、その後、隣接する米軍車力通信所に移設された。
10)弾道ミサイル情報処理システムの一つ
11)ノーズコーン、第2段ロケットモーター、キネティック弾頭、赤外線シーカーをいう。
12)わが国の方向へ発射される弾道ミサイルなどに関するデータを、発射直後、短時間のうちに米軍が解析して自衛隊に伝達する情報であり、具体的には、発射地域、発射時刻、落下予想地域、落下予想時刻などが伝達される。自衛隊は、日米安全保障体制のもとで、従来から、米軍との間で種々の情報交換を行っているところであり、その一環として早期警戒情報を受領しているもの(96(平成8)年4月から受領開始)。その性質上、精度などに限界があることは否定できないが、わが国の方向へ発射される弾道ミサイルなどに関するいわば「第一報」として、有益な情報であると考えている。
13)実際の発射の前日には、防衛省・自衛隊の情報伝達の不手際により、発射に関する誤報事案が生起した。実際の発射に際しては、早期警戒情報の有無を統合幕僚長含めた複数の者で確認するなどして、情報収集や伝達を適切に行った。
 
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