第4章 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組 

大量破壊兵器の不拡散のための国際的な新たな取組

(1)拡散に対する安全保障構想(PSI

ア 成立の背景
 ブッシュ政権は、北朝鮮、イランをはじめとする拡散懸念国などが大量破壊兵器・ミサイル開発を行っているとして強く懸念し、02(平成14)年12月に「大量破壊兵器と闘う国家戦略」を発表し、拡散対抗、不拡散、大量破壊兵器使用の結果への対処からなる包括的なアプローチを提唱した。
 この一環として、03(同15)年5月、ブッシュ米大統領は訪問先のポーランドで、拡散に対する安全保障構想(PSI:Proliferation Security Initiative)37を発表し、わが国を含む10か国38に参加を呼びかけ、昨年12月現在、米国を含むこれら11か国にシンガポール、ノルウェー、カナダ、ロシアが加わった。

イ これまでのPSIの実績とわが国の取組
 参加国は、これまでにPSIの目的や阻止のための原則を述べた「阻止原則宣言」39に同意し、PSI活動の能力向上を目的とした陸・海・空における阻止訓練を行っており、本年6月までに、次表のとおり、計16回の合同阻止訓練が行われた。
 このような合同阻止訓練の実施に加え、参加国による総会やオペレーション専門家会合が開催され、各種検討が進められている。この結果、例えば、BBCチャイナ号事件40など、実際のオペレーション面での成功例も出てきている。
 わが国としては、これまでわが国が行ってきた大量破壊兵器やミサイルの不拡散の取組に沿ったものとして、03(同15)年5月の発足当初より積極的に参加してきており、昨年10月には、PSI海上阻止訓練を主催した。

 
合同阻止訓練の実績

ウ これまでの防衛庁・自衛隊としての取組
 防衛庁・自衛隊としては、こうしたわが国の取組の中で、自衛隊が有する能力を最大限に活用しつつ、関係機関・関係国と連携し、積極的にPSIに関与していくことが必要であると考えている。
 現在までの具体的な対応としては、第3回のパリ総会より各種会合に海上・航空自衛官を含む防衛庁職員を派遣するとともに、合同阻止訓練にもオブザーバーを派遣し、関連する情報の収集を行ってきた。
 これらを通じて、例えば、PSI阻止活動の際に艦艇や航空機による警戒監視活動などの情報収集活動に際して得た関連情報を関係機関や関係国へ提供、さらに、海上阻止活動では、海上警備行動が発令された場合には、海上保安庁と連携の上、海自が容疑船に対して乗船・立入検査を行うといった役割を担い得るのではないかと考えている。
 この点を踏まえて、訓練参加国の関係機関の練度向上や相互連携強化、さらにPSI非参加国のPSIに対する理解の促進を主たる目的として、昨年10月に外務省及び海上保安庁とともに、わが国主催の海上阻止訓練41を行い、その一環として乗船・立入検査に関する展示訓練を行った。

 
展示訓練において立ち入り検査に向かう部隊

 
立ち入り検査の展示訓練を研修する各国関係者

 
立ち入り検査の展示訓練終了後懇談する隊員

 さらには、PSIを含む包括的な不拡散体制の強化のための積極的な働きかけ(アウトリーチ活動)の一環として、アジア諸国の国防当局に対し、これまでの訓練によって得た情報や知見の提供を積極的に行うなど、防衛交流の機会などを利用し、PSIに対する理解を求めてきた。

エ 今後の取組
 新防衛大綱では、わが国の平和と安全をより確固たるものとするため、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組むこととされている。
 PSIは、まさに、こうした国際平和協力活動に当たるものである。PSIを、広く防衛、外交、法執行、輸出管理などを包含した安全保障の問題として捉えて、わが国の総力を結集し、平素から主体的・積極的に取り組むことにより、大量破壊兵器の拡散防止に万全を期す必要がある。
 このため、今後も自衛隊の能力を最大限に活用し、積極的にPSIに関与していくこととし、これに伴う政府内の体制などについても、関係機関などと密接に連携を図りつつ検討を行う。また、新中期防において、PSIを含む国際平和協力活動に関する共同訓練に取り組むとされていることも踏まえ、自衛隊の対処能力の向上などの観点から、各種阻止訓練の参加やその主催について検討を行うこととしている。

(2)大量破壊兵器の不拡散に関する安保理決議154042
 昨年4月、国連安保理は、核・化学・生物兵器とそれらの運搬手段の拡散が国際社会の平和と安全に対する脅威であり、これに対する適切かつ有効な行動をとるとして、国連憲章第7章の下、1)大量破壊兵器及びその運搬手段の開発などを企てる非国家主体に対し、いかなる形態の支援も控えるべきこと、2)特にテロリストによる大量破壊兵器及びその運搬手段の製造などを禁止する適切で効果的な法律を採択し、執行すべきこと、3)大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散を防止するため、国境管理や輸出管理措置を確立することなどを内容とした決議を全会一致で採択した。
 わが国としては、大量破壊兵器などの拡散が、わが国を含む国際社会の平和と安定に及ぼす危険性を踏まえ、これら大量破壊兵器などがテロリストなどの非国家主体に拡散することを防ぐことが緊急の課題であるとの認識に基づき、この決議の採択を支持するとともに、全ての国連加盟国がこの決議を遵守することを期待している。


 
37)PSIは、大量破壊兵器などの関連物資の拡散を防止するため、既存の国際法、国内法に従いつつ、参加国が共同してとりうる措置を検討し、また、同時に関連する国際法、国内法の強化にも努めようとする提案である。

 
38)日本、英国、イタリア、フランス、オランダ、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オーストラリア、ポーランド

 
39)「阻止原則宣言」は、PSI参加国が、大量破壊兵器などの拡散懸念国家又は非国家主体への、及び拡散懸念国家又は非国家主体からの流れを断ち切るための努力を共同で行うとともに、拡散を懸念する全ての関心国がPSIを支持し、可能かつ実施する意思のある措置を取るべく、現在のPSI参加国とともに取り組んでいくことに言及している。
また、同宣言は、各国が国際法及び国内法の許容範囲内において、大量破壊兵器などの貨物を拡散阻止するための具体的な行動をとることとしている。

 
40)03(平成15)年9月、アンティグア・バーブーダ(カリブ海の島国)船籍のBBCチャイナ号が、原子力関係品目物資をリビアに向けて輸送しているとの情報をドイツ外務省が入手、ドイツ政府は、同船の船長及びチャーター元がドイツ人であったことから、ドイツ国内法・外国貿易収支法(EU圏内においてもドイツの対外関係を危険に晒すような事態に措置を行うことが可能)に基づき、対応を決定した。
ドイツは、情報専門家をイタリアに派遣、イタリア及び米海軍の協力により臨検を行い、コンテナ番号の偽造を発見、同船をイタリア・タラントへ回航して原子力関連物資(遠心分離器使用可能アルミチューブ)を押収した。
この事件によって、リビアの核開発、カーン・ネットワークの露見(1章1節2を参照)に結びつき、PSIの重要性を示した。

 
41)わが国主催で、参加国関係機関の練度向上や相互の連携強化、及びPSI非参加国のPSIに対する理解の促進を主目的として、相模湾沖及び横須賀港内で行われたPSI海上阻止訓練である。
本訓練には、オーストラリア、フランス、米国の艦艇などが参加、自衛隊から艦艇、航空機などが参加し、海上保安庁から巡視船、航空機が参加した。また、18か国がオブザーバーを派遣した。

 
42)本件決議は、03(同15)年9月の国連総会一般討論演説において、ブッシュ米大統領が採択を呼びかけたものであり、昨年2月に行った不拡散に関する演説において、ブッシュ米大統領は改めて当該決議の早期採択を求めていたもの
不拡散に関する安保理決議の採択について(外務報道官談話)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/16/dga_0429.html


 

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