第4章 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組 

自衛隊の活動

 自衛隊は、イラク人道復興支援特措法成立までの間に、イラク難民救援国際平和協力業務、イラク被災民救援国際平和協力業務の活動を行ったほか、03(同15)年12月以降はイラク人道復興支援特措法に基づき、イラクの自主的な国家再建に向けた取組に寄与するため、関係諸国や現地社会と良好な関係を築きながら、医療、学校などの公共施設の復旧・整備、物資の輸送などの支援を行っている。また、イラクにおける活動は、自衛隊による人的貢献と外務省所管の政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)による支援を「車の両輪」として進められており、イラクをはじめとする国際社会から高い評価を得ている。

(1)イラク難民救援国際平和協力業務
 政府は、ヨルダンなどで人道的な国際救援活動を行っている国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees)からの要請を受け、国際平和協力法に基づいて人道救援活動のために必要な物資(テント160張)を無償で譲渡すること、これらをヨルダンへ輸送することについて、03(同15)年3月28日に閣議決定を行った。これは、米英軍を中心とする国連加盟国によるイラクに対する武力行使に伴い、イラク国内外でイラク国民などの大規模な移動が生じるおそれがあったことを踏まえ、同月20日の臨時閣議で、難民の発生に応じた緊急人道支援が「緊急対応策」の1つとして決定されたことを受けて行われたものである。同物資は、同月30日、成田空港から政府専用機によって輸送され、翌日、ヨルダンに到着し、UNHCRに引き渡された。

(2)イラク被災民救援国際平和協力業務
 わが国は、安保理決議第1483号を受け、国際平和協力法に基づき、イラク周辺国において国連世界食糧計画(WFP:The United Nations World Food Program)11などが行っている人道的な国際救援活動のために必要な物資などの輸送を行うことについて、03(同15)年7月4日に閣議決定し、同月7日、人員98名、C-130H輸送機3機(うち1機は国内待機)などからなるイラク被災民救援空輸隊などを編成し、同月17日から、人道救援物資など(食糧運搬用プラスチックパレットなど)の空輸活動を開始した。
 空輸隊は、イラク被災民救援のため、ブリンディシ(イタリア)とアンマン(ヨルダン)との間において、総量約140トンの人道救援物資を空輸したほか、国連職員1名の輸送を行った。本輸送については、同年8月12日をもってWFPから依頼のあった全物資の空輸を完了したことから、空輸隊は、同月14日以降、ブリンディシとアンマンを出発し、同月18日までに帰国した。

 
国連の資器材を搭載するC-130H輸送機

(3)陸上自衛隊の人道復興支援活動と安全確保支援活動など
 陸自では、イラク復興支援群やイラク復興業務支援隊を編成・派遣するまでに必要な派遣準備を行っており、その間派遣される隊員に語学(英語とアラビア語)やイスラムの文化・風習・宗教などの事前教育を行うとともに、現地における活動内容を想定した部隊としての訓練を行っている。また逐次現地部隊が収集した教訓を、派遣準備を行っている部隊の訓練に活用できる環境を整えている。さらに北富士演習場梨ヶ原廠舎地区にイラクのサマーワ宿営地を模擬(もぎ)した訓練施設を設置するなど、隊員がより現地を意識した実際的な訓練ができるように環境を整備している。
 昨年1月、第1次イラク復興支援群及びイラク復興業務支援隊を派遣して以降、イラク復興支援群は約3か月で部隊交代を、イラク復興業務支援隊は約6か月で要員交代を行い、本年5月末現在、第6次イラク復興支援群及びイラク復興業務支援隊の第3次要員が派遣され、現地住民の要望や現地の慣習に十分配慮しながら、次のような人道復興支援活動と安全確保支援活動などを行っている。

 
派遣準備訓練を行う部隊

ア 医療活動
 昨年2月19日以降、陸自派遣部隊の医官がサマーワ総合病院など4つの病院において、現地人医師などに対し、診断方法、治療方針についての指導・助言や、外務省所管のODAの枠組みによりわが国から供与された医療器材の使用方法の指導・助言を行っている。さらに、ムサンナー県の救急車搭乗員に対する技術指導、医薬品倉庫における医薬品の管理に関する技術指導などの医療支援も行っている。
 陸自派遣部隊は、これら活動を通じてムサンナー県の医療技術の向上に寄与している。

 
救急車搭乗員教育において実技指導を行う隊員

イ 給水活動
 昨年3月26日以降、サマーワ宿営地において運河の水を浄水し、外務省所管のODAの枠組みでわが国がムサンナー県水道局に供与した給水車への配水作業を行っていたが、ODAにより宿営地近傍に設置した浄水設備が本年2月4日に稼働を開始したことに伴い、同月5日以降、陸自派遣部隊による給水活動は行っていない。なお、同月4日までの配水量は合計約53,500トンである。給水活動は、ムサンナー県の住民の生活に直結する重要な支援であり、現地の人々から高い評価を得た。また、陸自派遣部隊は、安全確保支援活動としてオランダ軍に約1,170トンの給水も行った。
 活動に当たっては、予想以上に厳しい寒暖の差、砂嵐などといった過酷な環境下でも活動を継続できるように天幕で浄水セットを防護したり、地盤を強化するなど隊員の懸命の努力で、大きな支障なく活動を行うことができた。

 
ODAによりムサンナー県に供与された浄水設備

ウ 学校などの公共施設の復旧・整備活動
 昨年3月25日以降、ムサンナー県に所在する学校において、壁、床、電気配線などの補修を行っており、本年5月末現在、15か所が終了し、引き続き11か所の学校補修を行っている。
 また、昨年3月30日以降、現地住民が使用する生活道路の整地、舗装などを行っており、本年5月末現在、17か所が終了し、引き続き2か所の道路補修を行っている。道路の補修に当たっては、陸自派遣部隊が補修した道路にODAの枠組みでアスファルト舗装を行うなど、外務省と連携した活動を行っている。
 さらに、各地の診療所施設(PHC:Primary Health Center)の補修、サマーワの養護施設の補修、低所得者用住居の補修、ワルカ浄水場の補修など、ムサンナー県に所在する学校、道路以外の公共施設の補修も行っており、本年5月末現在、17か所が終了し、引き続き17か所のその他の公共施設の補修を行っている。
 これら公共施設は、現地住民の生活に直結しているものであり、現地住民の生活環境の改善に寄与している。
 また、これら活動を現地業者により行うことで、現地における雇用創出の一助となっている。これまでの1日当たりの雇用者数は最大で1,000名強である。
 これら活動に当たっては、現地の人々の要望に的確に応えられるよう、派遣部隊は地元の人々との密接な調整を行うことにも大きな努力を払っている。

 
ダラージに所在する小学校の補修状況


 
サマーワ周辺におけるイラク復興支援群の活動状況(本年5月末現在)

エ 輸送活動

 陸自派遣部隊は、空自派遣部隊と連携し、医療器材などわが国からの人道復興関連物資などのタリル飛行場からサマーワまでの陸上輸送を行った。また、陸自派遣部隊は、安全確保支援活動として韓国軍兵士をクウェート国内のアリ・アル・サレム空軍基地からクウェート国際空港まで車両輸送を行った。

オ その他

(ア)現地の人々との交流
 陸自派遣部隊が活動を行うに当たっては地元住民との良好な関係が重要である。このため、隊員は、折り紙を教えたり、音楽演奏を行うなど現地の人々との交流にも努力している。これに対し、現地の子供たちが演劇を催し、絵を贈ってくれるなどの交流が進んでいる。
 これらの交流を通じて、現地住民との良好な関係が築かれており、サマーワにおいて現地住民による陸自派遣部隊を支援するデモが行われた。また、活動間や移動間に、現地住民たちが陸自派遣部隊の隊員に対して笑顔で手を振るのが日常の光景となっている。

 
小学校を訪問して紙芝居を行う隊員

 
陸自派遣部隊を支援する友好デモ

(イ)英国軍、オーストラリア軍の展開
 本年2月、ムサンナー県の治安維持の任務を有していたオランダ軍が撤収(てっしゅう)を開始した。オランダ軍からは、陸自部隊の派遣前に行われた調査チームに対する支援、部隊の展開に対する支援、活動開始後の各種支援など様々な支援を受けてきた。
 オランダ軍に替わり、同年3月7日に英国軍がその任務を引き継いだが、同年5月よりオーストラリア軍がサマーワに派遣され、現在英国軍とオーストラリア軍派遣部隊が活動している。陸自派遣部隊が活動を行う際には、英国軍及びオーストラリア軍と連携することが重要である。このため、現地部隊においては、相互に連絡員を派遣しているほか、定期的な意見交換・文化交流やその他の交流を図るなど、密接に協力しつつ活動を行っている。

 
オランダ軍を見送る隊員

(4)海上自衛隊の海上輸送と補給など
 海上自衛隊(海自)は、昨年1月26日、派命令が出されたことに伴い、輸送艦「おおすみ」、護衛艦「むらさめ」の2隻の艦艇、人員約300名の派遣海上輸送部隊をもって、同年2月20日以降、陸自派遣部隊が使用する車両約70両などを室蘭からクウェートまで海上輸送した。同年3月15日、クウェートにおいて陸自派遣部隊に車両などを引き渡し、同年4月8日、日本に帰国した。

 
輸送艦「おおすみ」に搭載する軽装甲機動車

 
陸自装備品を搭載し航行する輸送艦「おおすみ」

(5)航空自衛隊の人道復興支援活動と安全確保支援活動など
 空自は、03(同15)年12月26日以降、C-130H輸送機3機、人員約200名の派遣空輸隊を順次派遣して、昨年3月3日以降、陸自派遣部隊の補給物資のほか、医療器材などわが国からの人道復興関連物資、関係国・関係機関が行っている人道復興関連の物資・人員などを空自C-130H輸送機により輸送している。
 本年5月末までの輸送実績は、輸送回数152回、輸送物資重量217.2トンである。
 また、昨年4月、イラク国内において日本人を含む外国人の拘束事件が多発する中、陸自派遣部隊の活動などを取材するためにサマーワに取材員を滞在させていた報道各社から、取材員の退避の希望が表明された。しかしながら、当時、サマーワとその他の都市間の商用航空便は運航されておらず、また、いわゆる民間車両のみで陸路にて国外に退避することは困難な状況となっていたことにより、同月15日、陸自派遣部隊と連携して、報道関係の在留邦人10名を、C-130H輸送機をもって、タリル飛行場からクウェートまで輸送を行った。

 
C-130H型輸送機を整備する隊員

 
人道支援物資の搭載に従事する隊員

 
C-130H輸送機を誘導する隊員

(6)連絡官などの派遣
 統合幕僚会議(統幕)からの連絡官が、米国フロリダ州の米中央軍司令部に派遣されている12。連絡官は、イラクにおける自衛隊の活動に資する現地情勢などの情報収集を行うとともに、イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊の活動などにかかわる調整を行い、自衛隊の効率的な運用に寄与している。
 また、陸自は、バグダッド13などの多国籍軍司令部に連絡官を派遣し連絡調整業務を行わせるとともに、クウェートに要員を配置し、人員・物資の受け入れ、物資の調達などの業務を行い、サマーワに派遣されている部隊の後方支援を行っている。

 
調整を行うバクダット連絡官

(7)派遣部隊の福利厚生やメンタルヘルスケア
 派遣隊員が心身の健康を確保して任務を支障なく遂行できるようにする態勢を整えることは、非常に重要である。陸自派遣部隊が宿営するサマーワ周辺の治安は比較的安定しているものの、予断を許さない状況14であり隊員は緊張の連続を強いられている。また、空自はクウェートを拠点として、常に航空機の運航に細心の注意を払いながら活動している。
 さらに、自分の手のひらが見えなくなるほどの砂嵐が発生したり、夏には気温が50℃を超え、冬には氷点下になるなど自然環境も過酷である。隊員がこのような困難な勤務環境下においても勤務意欲を維持し、安んじて職務に専念し得るよう、陸・空自衛隊派遣部隊の宿営地などにはトレーニングジムや家族との連絡のための部屋を備えた厚生施設などを整備している。
 また、衛星携帯電話、テレビ電話、電子メールにより、派遣隊員と家族が直接会話などができるよう連絡手段を確保するとともに、隊員及び留守家族の近況について相互にビデオレターを提供して、隊員と留守家族の絆を維持する態勢を整えている。さらに、家族支援センターなどを開設し留守家族からの各種相談に応じたり、説明会などで情報の提供を行い、留守家族が隊員不在の間に不安を抱くことのないよう、留守家族に対し親身かつ積極的な支援を行い、隊員が安心して任務に専念できるよう配意している。

 
砂嵐の中の陸自宿営地

 
凍った水道

 
現地の隊員と豊川駐屯地に設置されたテレビ電話で連絡をとっている留守家族

 
真駒内駐屯地における留守家族に対する説明会

 また、メンタルヘルスケアの施策も行っており、派遣される隊員に対して、派遣前にストレスの軽減に必要な知識を与えるため、講習を行うとともに、現地では、カウンセリング教育を受けカウンセラーに指定された隊員を配置するなど、厳しい環境下で職務に従事する隊員の精神面のケアに十分配慮している。
 加えて、派遣部隊に医官を配置するとともに、状況に応じて本国からの専門的知識を有する医官などの派遣や帰国治療をさせる態勢を整えている。

 
家族に見送られて出発する隊員(小牧基地)

 
家族からの追送品を受け取る隊員


 
11)食糧を開発途上国の経済社会開発及び緊急食糧援助に役立てることを目的として、63(昭和38)年に設立された機関
http://www.mofa-irc.go.jp/link/kikan_info/wfp.htm


 
12)米中央軍司令部に所在する「不朽の自由作戦(OEF)」及び「イラクの自由作戦(OIF)」に参画する約60か国の連絡官からなるコアリション・グループに、連絡官としてテロ対策特措法及びイラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊の任務遂行上に必要な調査を行うため、統幕事務局から2名の自衛官が派遣されている。

 
13)バクダッドの連絡官は、統幕の連絡官業務を兼ねて行っている。

 
14)1章1節3参照


 

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