第4章 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組 

イラク人道復興支援特措法と基本計画の概要

(1)イラク人道復興支援特措法2の概要

 安保理決議第678号3、第687号4及び第1441号5並びにこれらに関連する安保理決議に基づき国連加盟国によりイラクに対して行われた武力行使並びにこれに引き続く事態(イラク特別事態)を受けて、国際社会はイラク国家の速やかな再建を図るために、国民生活の安定と向上、民主的な手段による統治組織の設立などに向けたイラクの国民による自主的な努力を支援し、及び促進しようとする取組を行っている。
 イラク人道復興支援特措法は、わが国がこのような国際社会の取組に主体的・積極的に寄与するため、安保理決議第1483号を踏まえ、人道復興支援活動及び安全確保支援活動を行うこととし、もってイラクの国家の再建を通じて、わが国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的としている。
 人道復興支援活動及び安全確保支援活動の内容は、次表のとおりである。

 
イラク人道復興支援特措法における活動の内容

 また、この法律は、施行から4年で効力を失うが、必要がある場合、別に法律で定めるところにより、4年以内の期間を定めて効力を延長することができる限時法である。

(2)基本計画の概要など

 イラク人道復興支援特措法に基づく活動の具体的要望を調査するため、政府調査チームや自衛官を中心とした専門調査チームを現地に派遣した。その結果、イラクの多くの地域においてわが国による復興支援が期待されていることや、自衛隊が安全を確保しながら実施可能な活動の分野があることが明らかになった。このような点も踏まえ、国際社会の責任ある一員として、わが国にふさわしい活動を行っていくべきと判断し、03(同15)年12月9日、政府は基本計画を閣議決定した。同月18日、防衛庁長官は実施要項を策定し、内閣総理大臣の承認を得た。
 基本計画に示された派遣期間は1年間とされていたが、政府は、昨年12月9日に現地の復興の進展状況、イラクにおける政治プロセスの進展状況、現地の治安状況、多国籍軍の活動状況など諸事情を踏まえて、わが国の主体的判断として、基本計画の変更6を閣議決定し、自衛隊による人道復興支援活動を中心とした活動を継続することとした。また、同日、防衛庁長官は実施要項を変更し、内閣総理大臣の承認を得た。
 この基本計画の変更に先立ち、同月に大野防衛庁長官はイラク及びクウェートを訪問し、現地で活動している陸上自衛隊(陸自)及び航空自衛隊(空自)の部隊視察を行った。また、陸自派遣部隊が宿営しているサマーワ宿営地において、ハッサーニ・ムサンナー県知事及びオランダ軍派遣部隊指揮官(当時)と懇談を行い、治安を含めて現地の状況を直接把握した。さらに自衛隊の活動がサマーワ市民から歓迎されていること、現地において道路や学校の修復などの公共施設の改修、医療支援などの要望が依然として数多く存在し、自衛隊の人道復興支援活動が引き続き重要であることを確認した。
 現在の基本計画の概要7は、次のとおりである。

 
現地活動を視察する大野防衛庁長官

ア 人道復興支援活動の実施に関する事項

(ア)自衛隊の部隊などによる人道復興支援活動の種類と内容
 医療、給水、学校などの公共施設の復旧・整備、人道復興関連物資などの輸送

(イ)自衛隊の部隊などによる人道復興支援活動を実施する区域の範囲

1) 医療、給水、学校などの公共施設の復旧・整備
 ・ムサンナー県を中心としたイラク南東部

2) 人道復興関連物資などの輸送(輸送手段)
 ・クウェートとイラク国内の飛行場施設(航空機)
 ・ムサンナー県を中心としたイラク南東部(車両)
 ・ペルシャ湾を含むインド洋(艦艇)

(ウ)外国の領域で行う自衛隊の部隊などの規模・構成・装備
 ・陸上自衛隊 人員600名以内、車両200両以内と安全確保に必要な数の拳銃、小銃、機関銃、無反動砲8、個人携帯対戦車弾9
 ・航空自衛隊 輸送機など航空機8機以内と安全確保に必要な数の拳銃など
 ・海上自衛隊 輸送艦など2隻以内、護衛艦2隻以内

(エ)派遣期間
 03(平成15)年12月15日〜05(同17)年12月14日

イ 安全確保支援活動の実施に関する事項
 人道復興支援活動に支障を及ぼさない範囲の安全確保支援活動として、医療、輸送10、保管、通信、建設、修理、整備、補給、消毒を実施することができる。

ウ その他人道復興支援活動、安全確保支援活動の実施に関する重要事項
 自衛隊の部隊などによる人道復興支援活動、安全確保支援活動の実施に当たっては、政府として、現地の復興の進展状況の変化、選挙の実施などによるイラクにおける政治プロセスの進展の状況、イラク治安部隊の能力向上など現地の治安に係る状況、多国籍軍の活動状況及び構成の変化など諸事情をよく見極め、必要に応じ適切な措置を講じることとする。

 
イラク復興に向けた国際社会の取組への協力の枠組み


 
2)図表(国際平和協力活動関連法の総括的な比較)を参照

 
3)90(平成2)年11月29日に安保理で採択されたイラクに対する武力行使容認決議

 
4)91(平成3)年4月3日に安保理で採択された停戦決議

 
5)02(平成14)年11月8日に安保理で採択された「イラクに対して武装解除の義務を遵守する『最後の機会』を与えた」決議

 
6)変更事項は、下記の3点である。
1)派遣期間の1年間延長
2)人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に当たり、政府としてイラクや多国籍軍の状況などの諸事情をよく見極め、必要に応じ適切な措置を講じることを追加
3)イラク復興支援職員の人道復興支援活動としての「必要な施設若しくは設備の復旧・整備(イラク人道復興支援特措法第3条第2項第3号に規定する活動)」を削除

 
7)5月末現在(昨年12月9日、閣議決定)資料41参照

 
8)主として対戦車用で、砲尾の孔から発射時のガスを噴出させることで反動を相殺する原理を応用した火器。昭和54年度から陸自に導入

 
9)操作や携行を容易にした無反動の対戦車用弾薬。1人で使用し、平成2年度から陸自に導入

 
10)実施要項において、物品の輸送に際しては、武器(弾薬を含む。)の輸送を行わないことが規定された。


 

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