第2章 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

防衛力の具体的な体制

 前述のとおり、新防衛大綱では「防衛力の役割」の項目において、事態ごとにその果たすべき役割・対応や自衛隊の体制の考え方などを包括的に明示することとしたものである。また、これらの役割を果たすための具体的な体制は別表において示されている。

(1)陸上自衛隊
 新体制においては、ゲリラや特殊部隊による攻撃、島嶼部に対する侵略、大規模・特殊災害などの新たな脅威や多様な事態へ実効的に対応できるよう、普通科部隊の強化などを行うこととしている。新防衛大綱の別表では陸自の部隊について、基幹となる部隊である平時地域配備する部隊、機動的に運用する部隊と地対空誘導弾部隊などについて示している。

【新たな安全保障環境に対応した作戦基本部隊の編成・配置】
 平時に地域配備する部隊(師団、旅団といった作戦基本部隊)については、予測が困難で、迅速な対処を要する新たな脅威や多様な事態に実効的に対処するため、即応性や高い機動性を備えた部隊を全国に適切に配置することとし、わが国の国土の山脈、河川、海峡といった地理的特徴などに応じた14区画の各々に8個師団と6個旅団を配置することとしている。

 
新防衛大綱における師団・旅団の配置及びその考え方

 その際、本州以南については、重装備を効率化し、即応性・機動性を重視して編成した部隊(即応近代化部隊)を配置する一方、北海道には、その良好な訓練環境を考慮し、新たな脅威や多様な事態から本格的な侵略事態にも対応し得るように編成した部隊(総合近代化部隊)を配置し、必要な場合には本州以南に転用することとしている。

【人(マンパワー)の確保及び主要装備の効率化】
 新防衛大綱において、陸自は、従来の対機甲戦を重視した整備構想を転換し、予測が困難なゲリラや特殊部隊による攻撃、島嶼部に対する侵略、大規模・特殊災害などの新たな脅威や多様な事態に迅速に対応し得るよう全国に部隊を配置し、国際平和協力活動に実効的に対応する体制を構築することとしている。これに従い、陸上防衛力の基本的な枠組みを示す編成定数について、07大綱の16万人から新防衛大綱の15万5千人へと削減することとし、その内訳としては、招集して戦力化するのに一定の期間を要する即応予備自衛官の員数を1万5千人から7千人に減らす一方、常備自衛官の定員を07大綱の14万5千人から14万8千人に増やすことにより、実効的な対応を担保することとしている。
 また、主要装備である戦車と特科装備(火砲など)については、前者については約900両から約600両に、後者については、約900門/両から約600門/両に削減する。

 
自衛官定員・戦車・主要特科装備の推移

【中央即応集団(仮称)及び国際活動教育隊(仮称)の新編】
 ゲリラや特殊部隊による攻撃などの各種の事態が発生した場合に事態の拡大防止などを図るため、機動運用部隊(ヘリコプター団、空挺団など)や各種専門部隊(特殊作戦群、化学防護隊など)を一元的に管理し、事態発生時に各地に迅速に戦力を提供する部隊として、中央即応集団(仮称)を新編する。
 また、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組んでいくため、陸自の部隊(先遣隊を含む。)を迅速に派遣して継続的に活動できるように国際活動教育隊(仮称)を新編する。国際活動教育隊は、師団や旅団などの国際平和協力活動の際に基幹となる要員に対して、平素から教育訓練を行うともに、各部隊で実施する訓練の支援や国際平和協力活動に係わる教訓などを研究・蓄積して教育訓練に反映することとしている。また、陸自の部隊を国際平和協力活動に迅速に派遣するとの観点から国際活動教育隊は、即応性を重視して新編される組織である中央即応集団(仮称)の隷下に新編する。

 
中央即応集団(仮称)

(2)海上自衛隊
 新体制においては、基幹となる部隊である護衛艦部隊、潜水艦部隊、掃海(そうかい)部隊、哨戒(しょうかい)機部隊などについて示している。

【より実効的に対応するための新たな編成の考え方】
 新たな脅威や多様な事態への対応や国際平和協力活動に対し実効的かつ迅速に対応するため、今後は、主に部隊の練度管理を担う指揮官と主に高練度の部隊を指揮して事態対処などに当たる指揮官の任務を区分することにより、効果的に部隊を練成するとともに、作戦実施上の指揮の階層を減じ、指揮命令の迅速化を図るとの考えを導入する。
 護衛艦部隊の場合を例として挙げれば、護衛艦隊司令官が全護衛艦の練度管理を一元的に行い、高練度の部隊を効率的に育成する。自衛艦隊司令官及び地方総監は提供を受けた高練度の部隊の指揮をとり、実効的かつ迅速に実任務に当たる。

【護衛艦部隊の体制】
 護衛艦部隊については、限られた数の護衛艦を各種事態に即応できるよう護衛隊部隊を練度に応じて柔軟に編成し、効率的に運用することにより、事態に即応するとともに、任務が長期化した場合にも持続的に対応し得る体制とすることとしており、護衛艦の隻数は、07大綱の約50隻から47隻となる。

○ 機動運用部隊
 効率的な対潜戦1が可能な護衛艦8隻による護衛隊群を基本単位として4個群を保有するとの従来の考えを転換し、弾道ミサイル攻撃への対応、武装工作船などへの対応、国際平和協力活動などを実効的に実施し得る4隻(護衛隊)を新たな基本単位とし、事態に即応し、持続的に対応し得る体制として8個隊を保有する2
 なお、本格的侵略事態などに際しては、今後とも各種戦闘を効率的に実施するため、護衛艦8隻による護衛隊群により対処する場合もある。

○ 地域配備部隊
 沿岸海域において平素から常続的な警戒監視を実施し、突発的事態が生起した場合に初動対処するため、全国の沿岸海域を5個警備区に区分し、それぞれの地域特性を十分に把握した地方総監が、護衛艦隊司令官から提供された護衛艦を運用する。その際、従来の7個隊(5個警備区+津軽・対馬海峡)の体制を転換し、現状の安全保障環境を踏まえ、5個警備区にそれぞれ1個隊を配備する体制とする。

 
護衛艦部隊の将来体制

【新たな脅威や多様な事態への対応を重視した潜水艦部隊の体制】
 潜水艦部隊については、従来は必要な場合に主要3海峡における警戒、防備を実施し得る体制としていた。新防衛大綱においては、わが国周辺海域において、新たな脅威や多様な事態に係る兆候をいち早く察知し柔軟な対処を可能とするため、東シナ海と日本海の海上交通の要衝などに潜水艦を配備し得る体制とし、引き続き潜水艦16隻を保有する。

【作戦用航空機部隊の体制】
 海上自衛隊(海自)の作戦用航空機については、新機種の導入や効率的な部隊の編成などにより、機数を前大綱の約170機から約150機へと効率化する。

○ 固定翼哨戒機部隊
 固定翼哨戒機については、07大綱において、必要とする場合に、わが国周辺海域を少なくとも1日1回所要の哨戒を実施し得るため、80機が必要であるとしていた。新防衛大綱においては、平時における警戒監視や島嶼部に対する侵略への対応時における哨戒・警戒監視、国際平和協力活動などに必要な機数を算出し、所要数を総合的に勘案し、また、現有固定翼哨戒機(P-3C)に比べ飛行性能・哨戒能力の優れた次期固定翼哨戒機(P-X)を今後整備することを踏まえ、約70機の固定翼哨戒機を保有する。これに応じて、部隊の実効性を確保しつつ効率化を図った結果、従来の8個隊を4個隊に集約する。

○ 回転翼機部隊
 回転翼哨戒機については、従来、主要な港湾、海峡などの警戒と防備に当たる陸上回転翼哨戒機部隊5個隊、及び護衛艦隊の護衛艦に搭載して運用する艦載回転翼哨戒機部隊4個隊で編成されていた。新体制ではより効率的な運用を図る観点から、ヘリコプターを搭載できない地域配備部隊の護衛艦(DE)を搭載可能な護衛艦(DD)に逐次代替更新を進めることとしており、部隊も艦載運用を基本とすることにより、5個隊に集約する3
 このほか、回転翼掃海・輸送機については、約10機を保有することとしている。

 
哨戒機部隊の将来体制

(3)航空自衛隊
 新体制においては、従来からの、いわゆる冷戦型の対航空侵攻を重視した整備構想を転換し、作戦用航空機の保有規模を見直す一方、領空侵犯などに対して即時適切な措置を講じる体制を保持しつつ、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組むための態勢の整備などを行うこととしている。具体的には、戦闘機などの保有機数を削減するとともに、航空警戒管制部隊のうち警戒航空隊を2個飛行隊とする改編を行うとともに、空中給油・輸送部隊を新設することとしている。

 
戦闘機部隊の体制

【戦闘機部隊などの効率化】
 航空自衛隊(空自)の戦闘機部隊としては、領空侵犯などに対して即時適切な措置を講じるため、引き続き、12個飛行隊を保有することとしており、基本的には1個飛行隊の定数も維持することとしている。しかしながら、本格的な侵略事態生起の可能性が低下したことを踏まえた一部の飛行隊の体制の縮小、実験開発や整備員の養成で必要とされる戦闘機の数の見直しなどにより戦闘機の機数を約300機から約260機とした4
 戦闘機を含む作戦用航空機については、本格的な侵略事態生起の可能性が低下したことを踏まえた航空偵察部隊の規模縮小などにより、機数を約400機から約350機とした。

【輸送・展開能力の強化】
 島嶼部に対する侵略に対し部隊を機動的に輸送するとともに、国際平和協力活動に適切に取り組むため、空中給油・輸送部隊を新設し、また、現有の輸送機(C-1)より輸送・飛行能力の優れた次期輸送機(C-X)を整備する。

 
輸送機部隊の将来体制

【航空警戒管制部隊の2個飛行隊化】
 早期警戒機(E-2C)は三沢基地に配備され、早期警戒管制機(E-767)は浜松基地に配備されているが、主たる機能が異なるE-2CとE-767の部隊を一つの飛行隊で運用するには限界があり、部隊の指揮や人事管理上の不具合を解消する必要があることから、機数及び部隊の規模は変えることなく、警戒航空隊内の組織をE-2Cを運用する飛行隊と、E-767を運用する飛行隊に改編することとした。

(4)弾道ミサイル防衛(BMD)にも使用し得る主要装備・基幹部隊
 新防衛大綱の別表においては、「弾道ミサイル防衛にも使用し得る主要装備・基幹部隊」を海自の主要装備又は空自の基幹部隊の内数として記載している。その具体的な体制は、主要装備として、イージス・システム搭載護衛艦(イージス艦)4隻、基幹部隊として、航空警戒管制部隊の7個警戒群と4個警戒隊、地対空誘導弾部隊の3個高射群としている。
 新防衛大綱においては、わが国の防衛力が果たすべき役割と、そのための自衛隊の体制について、弾道ミサイル攻撃への対応やゲリラ・特殊部隊による攻撃、島嶼部に対する侵略などへの対応など、多様な役割を果たし得るようにしている。その中でもBMDについては、その具体的な体制を可能な限り明らかなものとし、透明性を確保することにより、国内外に対して、理解を得ていくことが重要であると判断したことから、今般、特にBMDシステムの具体的な体制について、大綱の別表に記載することとしたものである。

 
大綱別表の比較

【イージス・システム搭載護衛艦(イージス艦)】
 BMDにも使用し得るイージス艦については、わが国に飛来する弾道ミサイルを迎撃するための主要装備として、現有のイージス艦4隻の能力向上を行うこととしている。

【航空警戒管制部隊】
 BMDにも使用し得る航空警戒管制部隊については、新たな警戒管制レーダー(開発名:FPS-XX)の整備や既存のレーダー(FPS-3改)の能力向上を行うこととしており、8個警戒群・20個警戒隊のうち、7個警戒群・4個警戒隊に対し、わが国に飛来する弾道ミサイルを探知、追尾するためのセンサー(FPS-XX又はFPS-3改の能力向上型)を配備することとしている。

【地対空誘導弾部隊】
 BMDにも使用し得る地対空誘導弾部隊については、わが国に飛来する弾道ミサイルを迎撃するための基幹部隊として、空自の地対空誘導弾(ペトリオット)の能力向上を行うこととしている。
 新防衛大綱においては、能力向上を図る基幹部隊3個高射群(12個高射隊分)を記載しているが、その他、計画上、基幹部隊以外の教育所要などとして4個高射隊分と定期修理予備として2個高射隊分の能力向上を図ることとしている。


 
1)3章2節2参照

 
2)それぞれの護衛隊が想定される各種の事態に適切に対処し得るよう、隊の編成は艦種の組み合わせを考慮したものとする(ヘリコプター運用重視、弾道ミサイル対応重視など)こととしている。

 
3)回転翼哨戒機については、07大綱においては、主要な港湾、海峡などの警戒及び防備に当たる陸上回転翼哨戒機 約40機、護衛艦隊の護衛艦に搭載して運用する艦載回転翼哨戒機 約50機を保有していたところ、新防衛大綱においては、艦載運用を基本として部隊を統合することにより、約70機の回転翼哨戒機を保有することとした。

 
4)近年、要撃と支援の両任務を実効的に果たし得る戦闘機が登場し、今後は、戦闘機の柔軟な運用を確保するために、そうした戦闘機を取得していくことも予想されることから、新防衛大綱の別表上の要撃戦闘機部隊/支援戦闘機部隊の区分を廃止した。


 

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