軍事態勢
(1)全般
第2節において述べたとおり、ロシアの軍全体としては、通常戦力の量的削減が実施されるとともに、ロシアの領土の広さから常時即応部隊の戦域間機動の重要性が指摘される一方で、その近代化は必ずしも進んでいない状況にある。このような中、極東地域のロシア軍の戦力についても、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、地上兵力約9万人
1、艦艇約270隻、作戦機約630機が配備されるなど、依然として核戦力を含む相当規模の戦力が存在している。訓練などの活動については、底を打ち、近年は漸増傾向がみられた。なお、同地域では、03(同15)年にはソ連崩壊後最大規模の演習「ボストーク2003」、昨年には常時即応部隊によるロシア西方から極東地域への機動展開演習「モビリノスチ2004」が実施された。
部隊の充足率については、軍改革に伴って部隊数が削減されたことから、結果として向上しつつあると考えられるが、即応態勢を維持しているのは戦略核部隊、常時即応部隊などに限られるため、一般の部隊についても、即応態勢の向上に努めている模様である。
極東地域のロシア軍の将来像については、ロシア軍全般が常時即応部隊の戦域間機動による紛争対処を重視する傾向にあることや、国内の政治・経済情勢に依然として不透明な部分が多いことから、ロシア軍全般の将来像と同様、その動向について、引き続き注目しておく必要がある。しかしながら、見通し得る将来において極東地域のロシア軍が冷戦時代のソ連軍のような規模・態勢に戻る可能性は低いと考えられる。その背景としては、米国との軍事的緊張関係の緩和により太平洋での軍事的プレゼンスを強調する必要性が低下したことや、中国との関係改善が図られた結果、同国に対する軍事的警戒の必要性が低下したことなどが挙げられる。
(2)核戦力
極東地域における戦略核戦力については、SS-25などの大陸間弾道ミサイル(
ICBM)や戦略爆撃機Tu-95MSベアーがシベリア鉄道沿線を中心に配備され、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載したデルタIII級などの弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)がオホーツク海を中心とした海域に配備されている。これら戦略核部隊については、極東地域における他の部隊の活動が全般的に低調となっているにもかかわらず、即応態勢がおおむね維持されている模様である。02(同14)年に米露間で署名されたモスクワ条約が、極東地域の戦略核戦力にどのような影響を与えるのか注目される。
非戦略核戦力については、極東地域のロシア軍は、中距離爆撃機Tu-22Mバックファイア、海上(水中)・空中発射巡航ミサイルなど多様な装備を保有している。バックファイアは、バイカル湖西方、樺太対岸地域及び沿海地域に約70機配備されている。
(3)陸上戦力
極東地域の地上軍の兵力は、90(同2)年以降、その規模は縮小傾向にあり、現在、15個師団約9万人となっている
2。
また、海軍の太平洋艦隊は、揚陸艦艇は減少しているものの、減少は下げ止まりの傾向にある。海軍歩兵師団を擁しており、水陸両用作戦能力を有している。
1)従来、極東地域におけるロシア軍の地上兵力について、ザバイカル軍管区と極東軍管区における地上軍の推定兵員数を用いてきたが、98(平成10)年に、ザバイカル軍管区とシベリア軍管区が統合されたことから、99(同11)年より、(新)シベリア軍管区と極東軍管区における推定兵員数を挙げている。
2)師団の一部は、地域防御的な部隊である機関銃・砲兵師団へ改編され、また、削減された師団の中には、旅団化されたものや、人員の充足により他の師団と同様な戦力への回復が可能である装備機材保管基地に転換されているものもある。なお、極東地域においては、98(平成10)年には、ザバイカル軍管区とシベリア軍管区の統合が完了したほか、カムチャツカ半島などに所在する地上部隊が太平洋艦隊隷下の北東部統合コマンドへ編入され、99(同11)年と02(同14)年、地上部隊の一部部隊が解体された模様である。