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ダイジェスト 第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

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わが国自身の防衛体制

力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境の創出

  • 力による一方的な現状変更を許さない取組において重要なのは、わが国自身の防衛体制の強化に裏付けられた外交努力。外交努力とあいまって、防衛省・自衛隊では、同盟国との協力や同志国との多層的な連携を推進し、望ましい安全保障環境を創出
  • 海洋国家であるわが国にとって、海洋の秩序を強化し、航行・飛行の自由や安全を確保することは極めて重要
  • 国連安保理決議に違反する北朝鮮の「瀬取り」への対応や、わが国の重要なシーレーンの安定的利用を確保するための中東地域における日本関係船舶の安全確保に必要な取組を実施

中東地域において情報収集活動に従事する派遣海賊対処行動航空隊のP-3C

中東地域において情報収集活動に従事する派遣海賊対処行動航空隊のP-3C

力による一方的な現状変更やその試みへの対応

  • 相手の行動に影響を与えるために、柔軟に選択される抑止措置(FDO)としての訓練・演習などや、戦略的コミュニケーションを、政府一体となって、また同盟国・同志国などと共に充実・強化
  • 平素から常続的な情報収集・警戒監視・偵察(ISR)や分析を実施
  • 任務の一部を将来的に無人機で代替可能か検証すべく、海自MQ-9B(シーガーディアン)の運用検証を推進。空自RQ-4B(グローバルホーク)は、当初の計画の3機体制が完整
  • 防衛大臣による海上保安庁の統制要領が策定されたことを受け、防衛省・自衛隊は、海上保安庁との連携を不断に強化。2023年度には、新たに武力攻撃事態を想定した共同訓練を実施
  • 2023年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は669回(中国機に対し479回、ロシア機に対し174回)

緊急発進(スクランブル)対応中の隊員

緊急発進(スクランブル)対応中の隊員

ミサイル攻撃を含むわが国に対する侵攻への対応

  • 島嶼部を含むわが国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊などに対し、対空ミサイルなどの脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力を抜本的に強化。十分な能力を速やかに確保するため、12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)の配備と、米国製トマホークの取得を、1年前倒して2025年度から実施
  • 統合防空ミサイル防衛能力強化のため、イージス・システム搭載艦の建造に着手するほか、極超音速滑空兵器(HGV)対処のための滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)を日米共同で開発
  • 有人装備と比べ、人的損耗を局限し、長期連続運用ができる無人アセットの導入を推進(島嶼部のあらゆる正面から着上陸可能で、海上から部隊近傍まで補給品輸送などの任務を行う輸送機能をもつ無人水陸両用車の開発も)
  • 宇宙・サイバー・電磁波の領域や陸・海・空の領域における能力を有機的に融合した領域横断作戦を実施
  • 共同の部隊として自衛隊海上輸送群(仮称)を新編するなど、南西地域への機動展開能力を向上
  • 防衛省・自衛隊は、大規模テロやそれに伴う原子力発電所をはじめとした重要インフラに対する攻撃などに対し、関係機関と緊密に連携して、実効的に対処するとともに、住民の避難誘導を含む国民保護のための取組を円滑に実施

地上での様々な試験に耐えた12式地対艦誘導弾能力向上型(試作品)【三菱重工業(株)提供】

地上での様々な試験に耐えた12式地対艦誘導弾能力向上型(試作品)
【三菱重工業(株)提供】

トマホーク取得前倒しのLOA署名式 (2024年1月)

トマホーク取得前倒しのLOA署名式 (2024年1月)

情報戦への対応を含む情報力強化の取組

  • わが国周辺における軍事活動が活発化するなか、防衛省・自衛隊は、平素から、各種の手段による情報の迅速・的確な収集に努めており、分析などの機能強化を推進
  • 国際社会においては、紛争が生起していない段階から、偽情報や戦略的な情報発信などにより他国の世論・意思決定に影響を及ぼすことで、自らに有利な安全保障環境の構築を企図する情報戦に重点
  • 防衛省・自衛隊は、わが国防衛の観点から、偽情報の見破りや分析、そして迅速かつ適切な情報発信などを肝とした認知領域を含む情報戦に、確実に対処できる体制・態勢を構築

継戦能力を確保するための持続性・強靱性強化の取組

  • 有事において自衛隊が粘り強く活動でき、また、実効的な抑止力となるよう、十分な継戦能力の確保・維持を図る必要
  • 各種弾薬の早期整備や、必要な火薬庫の増設を推進
  • 維持整備費を確保し、部品不足による非可動を解消して、保有する装備品の能力が十分に発揮できる体制を早急に確立
  • 主要司令部の地下化や構造強化などを進めるとともに、全国の自衛隊施設の集約・建替えなどを効率的に進めるための計画(マスタープラン)を作成し、施設の強靱化を推進

改修したF-15戦闘機用の航空機えん体(空自千歳基地)

改修したF-15戦闘機用の航空機えん体(空自千歳基地)

国民の生命・身体・財産の保護に向けた取組

  • わが国への侵攻のみならず、大規模災害や感染症危機などは深刻な脅威。防衛省・自衛隊は、令和6年能登半島地震をはじめとする大規模災害などに際しては、関係機関と緊密に連携し、効果的に人命救助、応急復旧、生活支援などを実施
  • 在外邦人等の保護措置・輸送を迅速かつ的確に実施するため、自衛隊は、待機態勢を維持するとともに、平素から統合訓練などを実施。2023年度は2件の輸送を実施(スーダン、イスラエル)
  • ジブチ拠点における臨時の態勢整備を海賊対処部隊の任務として追加し、在外邦人等の安全の確保を企図

令和6年能登半島地震において人命救助にあたる隊員(2024年1月)

令和6年能登半島地震において人命救助にあたる隊員(2024年1月)

在イスラエル国邦人等の輸送における羽田空港到着後の様子(2023年10月)

在イスラエル国邦人等の輸送における羽田空港到着後の様子(2023年10月)

国全体の防衛体制の強化

  • わが国を守るためには、自衛隊が強いことに加え、国全体での連携が不可欠
  • そのため、防衛力の抜本的強化に加えて、外交力、情報力、経済力、技術力を含めた国力を統合して、あらゆる政策手段を体系的に組み合わせて国全体の防衛体制を構築
  • この一環として、政府は、防衛力の抜本的強化を補完し、それと不可分一体のものとして、総合的な防衛体制の強化のため、4つの分野における取組を、関係省庁の枠組みのもとで推進

国全体の防衛体制の強化

日米同盟

日米安全保障体制の概要

  • 米国との同盟関係は、わが国の安全保障政策の基軸。わが国の防衛力の抜本的強化は、米国の能力のより効果的な発揮にもつながり、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化
  • わが国は、民主主義、人権の尊重、法の支配、資本主義経済といった基本的な価値観や世界の平和と安全の維持に関する利益を共有し、経済面においても関係が深く、かつ、強大な軍事力を有する米国との安全保障体制を基軸として、わが国の平和、安全や独立を確保
  • 日米間の安全保障に関する政策協議は、「2+2」など、防衛・外務の様々なレベルで緊密に実施

日米共同記者会見(2024年4月)【首相官邸HP】

日米共同記者会見(2024年4月)【首相官邸HP】

日米防衛相会談(2024年5月)

日米防衛相会談(2024年5月)

日米共同の抑止力・対処力の強化

  • わが国の防衛戦略と米国の国防戦略は、あらゆるアプローチと手段を統合させて、力による一方的な現状変更を起こさせないことを最優先とする点で一致。日米の役割・任務・能力に関する議論をより深化させ、日米共同の統合的な抑止力をより一層強化
  • 日米共同による宇宙・サイバー・電磁波を含む領域横断作戦を円滑に実施するための協力などを一層深化。わが国の反撃能力については、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築。今後、防空、対水上戦、対潜水艦戦、機雷戦、水陸両用作戦、空挺作戦、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT) 、アセットや施設の防護、後方支援などにおける連携を強化
  • より高度かつ実戦的な演習・訓練を通じて同盟の即応性や相互運用性をはじめとする対処力を向上
  • 核抑止力を中心とした米国の拡大抑止が信頼でき、強靱なものであり続けることを確保するため、日米間の協議を閣僚レベルのものも含めて一層活発化・深化

沖縄南方での日米共同訓練(2024年1月)

沖縄南方での日米共同訓練(2024年1月)

同盟調整機能の強化

  • 両国による整合的な共同対処を切れ目のない形で実効的に対処することを目的として、同盟調整メカニズム(ACM)を設置
  • 以降、例えば、熊本地震や能登半島地震、北朝鮮の弾道ミサイル発射や尖閣諸島周辺海空域における中国の活動について、日米間では、ACMも活用しながら、緊密に連携

ロウワー・プラザ緑地ひろば記念式典(2024年3月)

ロウワー・プラザ緑地ひろば記念式典(2024年3月)

共同対処基盤の強化

  • あらゆる段階における日米共同での実効的な対処を支える基盤の強化が必要。情報保全およびサイバーセキュリティにかかる取組を抜本的に強化するとともに、防衛装備・技術協力を一層強化

在日米軍の駐留に関する取組

  • 在日米軍のプレゼンスは、抑止力として機能している一方で、在日米軍の駐留に伴う地域住民の生活環境への影響を踏まえ、各地域の実情に合った負担軽減の努力が必要
  • 在日米軍の再編は、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化しつつ、沖縄をはじめとする地元の負担を軽減するための極めて重要な取組であり、防衛省としては、在日米軍施設・区域を抱える地元の理解と協力を得る努力を続けつつ、米軍再編事業などを着実に推進

同志国などとの連携

多角的・多層的な安全保障協力の戦略的な推進

  • 力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出していくため、同盟国のみならず、一か国でも多くの国々と連携を強化することが極めて重要。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現のため、多角的・多層的な防衛協力・交流を推進
  • インド太平洋の域内外の様々な国々との間で、ハイレベル交流、共同訓練、能力構築支援、防衛装備・技術協力などを実施
  • 同志国などとの間では、円滑化協定(RAA)、物品役務相互提供協定(ACSA)、防衛装備品・技術移転協定などの制度的枠組みの整備をさらに推進
  • 北朝鮮ミサイル警戒データのリアルタイム共有など、日米韓の協力関係を強化
  • 女性・平和・安全保障(WPS)について、防衛省WPS推進本部のもと、全自衛隊員の意識改革や国際的な連携をさらに強化。インド太平洋諸国に対し、WPSに関するセミナーを開催し、各国国防関係者のWPSへの認知向上に寄与

第2回日・太平洋島嶼国国防大臣会合 (2024年3月)

第2回日・太平洋島嶼国国防大臣会合 (2024年3月)

海洋安全保障の確保

  • 海洋国家であるわが国にとって、自由で開かれた海洋秩序を強化し、航行・飛行の自由や安全を確保することは、必要不可欠
  • ソマリア沖・アデン湾で実施中の海賊対処をはじめ、海洋状況監視などの海洋安全保障に関する多国間の協力を推進

アデン湾で船舶の直接護衛をする護衛艦「いかづち」(2023年11月)

アデン湾で船舶の直接護衛をする護衛艦「いかづち」(2023年11月)

国際平和協力活動への取組

  • 防衛省・自衛隊は、エジプトとイスラエル間の停戦監視を任務とする多国籍部隊・監視団(MFO)や、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に司令部要員を派遣
  • 国連事務局やPKO訓練センターなどへの職員派遣、国連三角パートナーシップ・プログラム(UNTPP)への支援などを通じ、国連の国際平和に向けた努力に積極的に寄与
  • 自衛隊は、国際緊急援助活動について、被災国からの緊急の要請に対応できる態勢を常時維持

UNMISSで勤務する隊員

UNMISSで勤務する隊員

軍備管理・軍縮や不拡散への取組

  • 大量破壊兵器やその運搬手段となりうるミサイルなどの拡散、武器および軍事転用可能な貨物・機微技術の拡散は、国際社会の平和と安定に対する差し迫った課題
  • 防衛省・自衛隊は、軍備管理・軍縮・不拡散にかかわる国際的な体制整備や訓練に積極的に参画

PSI訓練に参加する隊員(2023年5月)

PSI訓練に参加する隊員(2023年5月)