わが国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しており、特にわが国周辺では、核・ミサイル戦力を含む軍備増強が急速に進展しています。中国は国防費の高い水準での増加を背景に核・ミサイル戦力を含む軍事力を広範かつ急速に強化し、2030年までに1,000発以上の核弾頭を保有する可能性も指摘されています。北朝鮮は、技術的には既に弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国を攻撃する能力を保有しているとみられるとともに、核兵器の使用条件などを規定した法令を採択するなど核兵器に関する制度面の整備も進めているものとみられます。ロシアは核兵器による威嚇ともとれる言動を繰り返しながらウクライナに対する侵略を継続しつつ、2023年2月には米露間の戦略核戦力の上限を定めた新戦略核兵器削減条約(新START(Strategic Arms Reduction Treaty))の履行停止を発表しており、今後、ウクライナに対する侵略で通常戦力を大きく損耗したことを背景に、さらに核戦力への依存を深めていく可能性も考えられます。このようにわが国周辺では核兵器を含む軍備増強の傾向にあるなかで、核兵器の脅威に対しては核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠です。
米国は、累次の機会に日米安全保障条約のもとでの対日防衛義務と拡大抑止を確認してきており、わが国として、米国が核を含むあらゆる能力を用いて条約上の義務を果たすことに全幅の信頼を置いています。そのうえで、わが国周辺の現下の安全保障環境を踏まえ、わが国自身の防衛力の抜本的強化と相まって、米国の拡大抑止の信頼性の維持・さらなる強化に向けた取組を日米間で進めていくことにより、核兵器の使用に至るまでのあらゆる事態の深刻化を防ぎ、力による一方的な現状変更やその試みを抑止することが重要です。
そのため、日米間では、東アジア地域で最初となる米国の拡大抑止に関する協議として、日米拡大抑止協議(EDD:Extended Deterrence Dialogue)を2010年以降、定期的に実施し、核抑止を含む拡大抑止の維持強化に向けた取組に関し協議してきています。2023年には6月に米国で、12月には日本で実施しており、日米双方の安全保障政策部局や軍備管理担当部局、自衛隊、米戦略軍、米インド太平洋軍、在日米軍などが出席しています。これらの協議では、拡大抑止に関する突っ込んだ議論を行い、関連する二国間協力をさらに向上させる方策について協議を行いました。また、インド太平洋地域の安全保障環境に関する評価を行い、地域における抑止に貢献する通常戦力や米国の核能力を検討し、同盟の戦力態勢の最適化や抑止効果を増大させる活動の重要性を強調しました。さらに、二国間の拡大抑止に関連する協議や具体的な協力をさらに向上させる方策、軍備管理に関するアプローチなどについて議論を行いました。加えて、これまでも定期的に行ってきた机上演習を実施するとともに、日米双方にとって、抑止において重要なアセットとして、米国ではB-2戦略爆撃機を、日本では陸自水陸機動団の水陸両用車(AAV7)などを視察し、日米双方の保持する能力や南西防衛の重要性などについての共通の理解を深めました。
このほか、2023年1月の日米「2+2」においては閣僚レベルでも拡大抑止について議論を行いました。
このように、今後も、EDDや様々なレベルでの協議を通じ、米国の拡大抑止の強化に向けた取組を引き続き進めていきます。
6月協議におけるB-2戦略爆撃機視察【米国防省提供】
12月協議における議論の様子