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<視点>フィンランド・スウェーデンのNATO加盟の意義

防衛研究所 米欧ロシア研究室 田中 亮佑(たなか りょうすけ) 研究員

防衛研究所 米欧ロシア研究室 田中 亮佑(たなか りょうすけ) 研究員

NATOの長年の課題の一つが、ロシアとの最前線であるバルト海地域防衛の強化でした。特に、ロシアの飛び地であるカリーニングラードとベラルーシを結ぶスヴァウキ・ギャップをロシアがもし占領した場合、バルト三国は他の加盟国から地理的に孤立する危険がありました。こうした課題に対処するため、ロシアがクリミアを一方的に併合した2014年以降、NATOは東翼に対する前方展開や増援態勢の拡充などを試みてきました。

2023年-24年に実現したフィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、こうしたバルト海地域防衛のさらなる強化につながります。これまでも両国は、2014年以降NATO加盟国との相互運用性を高めてきました。さらに、フィンランドは予備役を含む多くの陸上兵力を保有し、F-35を調達するなど空軍力も強化する一方で、スウェーデンは潜水艦を中心に海軍力を強化しています。こうした両国の国防の強化は、高めてきた加盟国との相互運用性とあいまって、両国も位置するバルト海地域におけるNATOの防衛態勢の強化に貢献するでしょう。

また、フィンランドとスウェーデンの加盟は、NATOの防衛計画の拡充にもつながります。NATOは2019年にバルト三国とポーランドに対する防衛計画を承認したと報じられましたが、フィンランドとスウェーデンとの協力を想定しているか否かは不明確でした。両国が加盟国となることで、今後のNATOの防衛計画は両国へのアクセスをある程度前提として立案されるものとみられます。つまり加盟国からの増援ルートや反撃の起点として両国が選択肢になり得ることを意味しており、それはNATOのバルト海地域に対する防衛計画の拡充にもつながるでしょう。

さらに重要なことは、両国の加盟によりバルト海地域と大西洋(北極圏地域[ハイノース]を含む)がNATO領域として連結されることです。これにより、北米・大西洋・欧州・バルト海地域にわたるNATO領域の連結性が向上し、ひいてはNATO全体の防衛計画の拡充にもつながるでしょう。NATOは2023年に領域全体に対する地域防衛計画を承認しました。スウェーデンとフィンランドの加盟は、その地域防衛計画のさらなる発展につながるかもしれません。

(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。