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<視点>連携を強める中国軍とロシア軍

防衛研究所 理論研究部 飯田 将史(いいだ まさふみ) 部長

防衛研究所 理論研究部 飯田 将史(いいだ まさふみ) 部長

冷戦期に厳しい対立関係を経験した中国とロシアは、国境地帯に展開する軍事力の相互削減といった信頼醸成措置や、国境画定交渉などを通じて次第に関係を改善してきました。2003年には、上海協力機構(SCO)による多国間対テロ演習に参加する形で、中国軍とロシア軍による初めての共同演習が行われました。2012年からは、海上における共同防衛をテーマとした中国海軍とロシア海軍による共同演習「海上協力」が初めて行われ、日本海や東シナ海など中国の周辺海域だけでなく、地中海やバルト海などロシアの周辺海域を含めて、ほぼ毎年実施されています。また2018年以降は、両国が実施する戦略的な統合演習に中国軍とロシア軍が相互に参加するようになり、軍事演習を通じた両国軍の協調が一層進展しました。

さらに中露両軍は、日本周辺の海空域において共同で行動するようになり、作戦面での協力も強化しています。2019年から始まった中露の爆撃機を中心とした「共同空中戦略パトロール」は、参加する機種を多様化させ、飛行範囲を拡大しながら継続的に実施されています。2021年から始まった中露の艦艇による「海上共同パトロール」も毎年行われており、2023年には米国のアラスカ沖を航行し、ベーリング海で訓練を行った後に、沖縄本島と宮古島の間を通過して東シナ海まで共同で航行しました。中露両軍の協調は、軍事的な連携へと進展しつつあるといえるでしょう。

ロシア軍との連携を強める中国側の狙いの一つは、実戦経験の豊富なロシア軍との共同訓練や共同行動を通じて、中国軍の作戦能力の向上につなげることにあるでしょう。また、米国への対抗姿勢を強める中国にとっては、同じく米国と対立するロシアとの軍事的連携を強化することで、米国やその同盟国・パートナー国との戦略的競争で優位に立つことも目的とされているでしょう。一方でロシアにとっては、米国に対抗する上での戦略的パートナーとして中国を重視するとともに、米国に軍事面で対抗する中国を側面支援し、米軍にインド太平洋地域への関与の強化を促すことで、欧州正面でロシアに対峙する米軍のプレゼンスの低下も期待していると思われます。

ロシアがウクライナに侵略した後でも、中露両軍の共同訓練や共同行動は着実に実行されていることから、中露の軍事的連携は今後も深まっていくことが想定されます。日本の安全保障を確保し、東アジアの安定を維持するためにも、その動向に警戒を怠ってはならないでしょう。

(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。