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<解説>台湾をめぐる中国の軍事動向

2022年8月に、ペロシ米下院議長(当時)の訪台に際し中国軍が弾道ミサイル発射を含む演習を実施して以降、台湾周辺での艦艇・航空機の活動の活発化が指摘されています。ここでは台湾国防部の公表を基に、2022年8月から2023年末までの中国軍の台湾周辺での軍事動向について、航空機・艦艇の活動を中心にみていきます。

まず、航空機の活動についてです。2022年8月以降、台湾国防部が公表した台湾空域への進入機数は増加しています。2022年1月から7月の間は約620機であったのに対し、8月から12月は約1,110機と、2022年の一年間を通じた進入機数は2021年(約970機)の約2倍に迫る増加となり、2023年も同様の水準を維持しました。また、2022年8月以降、中国軍は、台湾海峡の「中間線」を超える活動を継続的に実施しており、さらに2023年8月の頼清徳副総統(当時)の訪米に際し実施した軍事演習を契機として、航空機は「中間線」を越えたのち、「中間線」東側を沿うように長距離飛行するようになりました。

台湾国防部が公表した航跡イメージ図を踏まえると、中国軍機の活動空域は、従来は台湾南西空域が中心だったとみられますが、2022年8月以降、前述の「中間線」を越える飛行のほか、2023年は、台湾南西空域から西太平洋に進出する活動が増加しているとみられます。また、西太平洋の活動については、2023年に空母「山東」を使用した航空機の訓練も行っています。同年4月の蔡英文総統(当時)の訪米に際して実施した軍事演習では、J-15艦載機が台湾東部空域に進入したことが初公表されたほか、同年9月の空母「山東」の西太平洋展開について、台湾国防部長は、中国軍が空母を仮想敵と見立てた対抗訓練を実施したと指摘しており、これら訓練で台湾東西からの挟撃や第三国の介入阻止を演練したとみられます。加えて、2023年4月以降、中国軍の偵察型や偵察・攻撃併用型無人機による台湾周回飛行が複数回公表されています。このように、中国軍機の活動空域は、従来の台湾南西空域中心から、台湾を取り囲むような形に徐々に拡大していることが指摘されています。

活動する航空機の機種に関して、戦闘機や爆撃機、情報収集機などの有人任務支援機のほか、2022年9月以降は無人機の活動も公表されています。台湾周辺での軍事演習に着目すると、2023年4月の演習は、2022年8月の演習と比べ、無人機や有人任務支援機の割合が増加しており、より実戦的な内容に深化させたとみられます。

次に、艦艇の活動についてです。2022年9月下旬以降、台湾国防部が台湾周辺海域で確認したとする中国軍艦艇は一日当たり3~4隻で推移していましたが、2023年4月の軍事演習を契機として、同年末までの一日当たりの平均確認隻数は約5.8隻に増加しています。さらに、台湾国防部長は、2022年末以降、台湾東部海域にも中国軍艦艇が常態的に展開するようになったと指摘しています。実際、2023年3月以降、艦載型とみられる哨戒ヘリが、従来の台湾西側に加え東側でも断続的に活動していることが公表されています。このように、中国軍は、台湾周辺海域への展開艦艇を増加させるとともに、台湾を取り囲むように恒常展開する態勢を構築しているとみられます。

こういった動向を踏まえると、中国軍は、航空機と艦艇が台湾周辺海空域で常態的に活動している状況を既成事実化させるとともに、台湾周辺海空域での運用習熟、情報収集強化などにより実戦能力の向上を追求しているものとみられます。このような中国軍による威圧的な軍事活動の活発化により、台湾海峡の平和と安定については、わが国を含むインド太平洋地域のみならず、国際社会において急速に懸念が高まっています。

台湾国防部が公表した中国軍機の航跡イメージ図の例

台湾国防部が公表した中国軍機の航跡イメージ図の例