近年、北朝鮮はかつてない高い頻度で弾道ミサイルなどの発射を繰り返し、2022年には、一年間の発射数としては過去最高の59発の発射を強行しました。23年においても、発射数こそ22年に及ばないものの、新型の固体燃料推進方式のICBM級弾道ミサイルのほか、新型の衛星運搬用ロケット「千里馬1」による「軍事偵察衛星」の発射など、質的な意味での核・ミサイル能力向上に注力しているものとみられます。
現在確認されているこうした北朝鮮の核・ミサイル開発の方向性については、21年の北朝鮮労働党大会にその青写真を見ることができます。金正恩委員長は21年の党大会において、核兵器の小型・軽量化や、戦術核兵器、「超大型核弾頭」、「極超音速滑空飛行弾頭」、固体燃料推進式ICBMの開発、軍事偵察衛星の運用といった具体的な目標に言及しました。北朝鮮はその実現に向けて計画的に核・ミサイル開発・運用能力の強化を進めているとみられます。
実際の発射状況を見ると、こうした開発目標に一定程度沿った形での技術進展が見られます。特にICBM級弾道ミサイルについては、液体燃料推進方式の「火星17」は23年3月に、固体燃料推進方式の「火星18」については23年12月に、それぞれ試験発射段階を終えたことを示唆する発射訓練としてこれらの弾道ミサイルを発射しています。
そのうえで、21年の党大会において言及された目標が北朝鮮の開発目標の全てではなく、開発目標の外縁は、開発状況に応じて拡大していく可能性があります。これまでも、21年の党大会では明示的に言及のなかった兵器体系について、金正恩委員長の視察などにおける発言によって開発目標に含まれていることが判明した例がありました。23年8月の軍需工場視察において言及された発射台付き車両の生産や、23年11月のIRBM固体燃料エンジン試験において言及されたIRBM戦力の更新などがこれにあたると考えられます。実際に、23年から24年にかけて、金正恩委員長が各種発射台付き車両の生産工場を視察し、24年1月には、戦略ミサイルのための発射台付き車両の生産が進捗していることが伝えられ、24年以降は、固体燃料推進方式の新型IRBM級弾道ミサイルも発射しています。
2024年1月、発射台付き車両生産状況の視察として
北朝鮮が公表した画像【朝鮮通信=時事】
このように各種ミサイルの開発や発射を進める一方、北朝鮮は、韓国に対する挑発姿勢も一層強めてきています。北朝鮮は、22年に引き続き23年以降も「戦術核運用部隊」の訓練と称する発射など、短距離弾道ミサイルの発射を高い頻度で行いました。23年4月と8月には、党中央軍事委員会において、金正恩委員長が韓国の地図とみられるものを指す画像とともに、前線攻撃作戦計画を把握したり、前線部隊の軍事行動指針を議論したりする様子が伝えられています。また、23年12月の党中央委員会総会においては、韓国との関係を「敵対的な2つの国家の関係」と表現し、有事の際には核を含め、全ての手段を動員して韓国の全領土を平定する準備に言及しました。
北朝鮮の国内においては、核兵器に関する制度面の整備も進めているものとみられます。22年9月に核兵器の使用条件などを規定した法令「核武力政策について」を採択したことに引き続き、23年9月には、朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法を改正し、戦争の抑止のために「核兵器の発展を高度化」する旨を規定しました。北朝鮮はこれにより、自身の対外的なスタンスとして核兵器保有・発展の方向性を国際社会に示したものと考えられます。
このように、北朝鮮は1年を通してミサイル関連技術・運用能力向上を追求してきましたが、その背景には、①核・長距離ミサイルの保有による対米抑止力の獲得、②米韓両軍との武力紛争に対処可能な、戦術核兵器やその運搬手段である各種ミサイルの整備という狙いがあるとみられます。特に、戦術核兵器や運搬手段の整備については、戦争発生の際の軍事的な対応として自身の核兵器使用の可能性を相手方に考慮させ、事態のエスカレーションを主導的に管理することを企図しているとの指摘もあります。北朝鮮が紛争のあらゆる段階において事態に対処できるという自信を深めた場合、軍事的な挑発行為がさらにエスカレートしていくおそれがあります。