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第IV部 共通基盤の強化

防衛白書トップ > 第IV部 共通基盤の強化 > 第2章 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化 > 第2節 ハラスメントを一切許容しない環境の構築 > 1 ハラスメント被害への対応

第2節 ハラスメントを一切許容しない環境の構築

防衛省・自衛隊に対し、国民から多くの期待が寄せられるなか、防衛省・自衛隊がその実力を最大限に発揮し任務を遂行するためには、国民の支持と信頼を勝ち得ることが必要不可欠である。そのためには常に規律正しい存在であることが求められている。

防衛省・自衛隊では、高い規律を保持した隊員を育成するため、従来から服務指導の徹底などの諸施策を実施してきた。しかし、近年、ハラスメントを理由とした懲戒処分が少なからず発生している。防衛省・自衛隊が組織力を発揮し、様々な事態にしっかりと対応していくためには、防衛力の中核である隊員が士気高く安心して働ける環境を構築する必要がある。特に、ハラスメントは、部隊行動を基本とする防衛省・自衛隊において、隊員相互の信頼関係を失わせ、組織の根幹を揺るがす、決してあってはならないものである。

こうした認識のもと、防衛省・自衛隊は、ハラスメントを一切許容しない環境の構築のため、ハラスメント案件の対応およびハラスメント防止対策の抜本的見直しについて、スピード感をもって取り組むこととしている。

1 ハラスメント被害への対応

防衛省・自衛隊では、隊員からの相談に対応するホットラインを設置している。その相談件数は、2016年度の常設当初、年間109件であったところ、2023年度は857件と増加傾向にある。

特に、相談件数の約8割を占めるパワー・ハラスメントは、隊員の人格・人権を損ない、自殺事故にもつながる行為であり、周囲の勤務環境にも影響を及ぼす大きな問題である。パワー・ハラスメントは、隊員の認識不足や上司・部下との間のコミュニケーション・ギャップなどの問題に起因するとして、それらの問題を解消していくため、①隊員の啓発・意識向上のための集合教育・e-ラーニング、②隊員(特に管理職)の理解促進・指導能力向上のための教育、③相談体制の改善・強化などの施策を行ってきた。

また、暴行、傷害やパワー・ハラスメントなどの規律違反の根絶を図るため、2020年から懲戒処分の基準を厳罰化した。以後、2022年度までのハラスメントを事由とする懲戒処分者数は、549人であり、この内、最も重い「免職1」が30件(パワー・ハラスメント3件、セクシュアル・ハラスメント27件)であった。

さらに、ハラスメントに関する悩みを抱えている隊員の中には、部内の相談窓口では、相談しにくいと感じている者がいることから、弁護士が対応する相談窓口に加え、部外の心理カウンセラーなどが休日や勤務時間外に対応する相談窓口を設置している。

しかしながら、これまで様々なハラスメント防止対策を講じてきたにもかかわらず、ハラスメントが生起し、また、その対応も不十分であったケースが存在している。例えば、元陸上自衛官が訓練中や日常的にセクシュアル・ハラスメントを受けたとして、所属部隊に被害を訴えたにもかかわらず、上官への報告や事実関係の調査などが適切に実施されなかった事案である。本人の告発を経て、上級部隊などによる調査の結果、2022年9月に性暴力を含むセクシュアル・ハラスメント行為などが確認され、同年、関係者の懲戒処分が行われた。

こうした事案は、防衛省が行ってきたハラスメント防止対策が、その実効性において不十分であったことの表れであり、極めて深刻かつ誠に遺憾である。

参照図表IV-2-2-1(ハラスメントを事由とする処分者数)、図表IV-2-2-2(防衛省ハラスメントホットライン相談件数の推移)

図表IV-2-2-1 ハラスメントを事由とする処分者数

図表IV-2-2-2 防衛省ハラスメントホットライン相談件数の推移

1 懲戒処分の種類には、免職、降任、停職、減給、戒告がある。これらは、違反行為の原因、動機、状況、規律違反者の地位、階級、部内外に及ぼす影響などを総合的に考慮し、決定される。