大量破壊兵器やその運搬手段となりうるミサイルなどの拡散、武器および軍事転用可能な貨物・機微技術の拡散については、国際社会の平和と安定に対する差し迫った課題である。また、特定の通常兵器の規制についても、人道上の観点と防衛上の必要性とのバランスを考慮しつつ、各国で取り組んでいる。
これらの課題に対しては、軍備管理・軍縮・不拡散にかかわる国際的な体制が整備されており、わが国も積極的な役割を果たしている。
KEY WORD軍備管理・軍縮・不拡散
「軍備管理」
軍備または兵器の規制、検証・査察、信頼醸成、通常兵器の移転の規制など。
「軍縮」(軍備縮小)
国際的な合意のもと、特定の軍備の縮小または兵器の削減を行い、さらにはそれを廃絶すること。
「不拡散」
わが国や国際社会にとって脅威となりうる兵器(核兵器、生物・化学兵器といった大量破壊兵器やそれらを運ぶミサイルならびに通常兵器)やその開発に用いられる関連物資・技術の拡散を防ぐこと。
国家安全保障戦略は、自由で開かれた国際秩序を強化するための取組のうち、重要な方策の一つとして、大量破壊兵器などの軍備管理・軍縮・不拡散について述べている。また、国家防衛戦略では、国際機関や国際輸出管理レジームの実効性の向上に協力していくこととしている。
参照図表III-3-4(通常兵器、大量破壊兵器、ミサイルおよび関連物資などの軍備管理・軍縮・不拡散体制)
わが国は、核兵器、化学兵器および生物兵器といった大量破壊兵器や、その運搬手段となりうるミサイル、関連技術・物資などに関する軍備管理・軍縮・不拡散のための国際的な取組に積極的に参画している。
化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention)については、条約交渉の段階から化学防護の知見を提供し、条約成立後も検証措置などを行うために設立された化学兵器禁止機関(OPCW:Organisation for the Prohibition of Chemical Weapons)に化学防護の専門家である陸上自衛官をこれまで8名派遣している。また、陸自化学学校(さいたま市)では、防護研究のため、条約の規制対象である化学物質を少量合成していることから、条約の規定に従い、年次報告の提出やOPCW設立当初から計13回の査察を受入れており、問題ないことが確認されている。
OPCWに派遣された隊員(査察時)
わが国は、CWCに基づいて、中国における遺棄化学兵器を廃棄処理する事業にも政府全体として取り組んでいる1。防衛省・自衛隊は、同事業を担当する内閣府に陸上自衛官を含む職員を出向させており、2000年以降、計20回(2023年9月現在)の発掘・回収事業に、化学・弾薬を専門とする陸上自衛官を派遣している。
そのほか、国際輸出管理レジームであるワッセナー・アレンジメントやオーストラリア・グループ、ミサイル技術管理レジーム(MTCR:Missile Technology Control Regime)などの主要な会合に防衛省職員を派遣し、安全保障上の観点から、重要な技術の不拡散に資するための提案などを行っている。また、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO:Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization)準備委員会が実施する訓練に自衛官を派遣するなど、規制や取決めの実効性を高めるため協力してきた。
通常兵器の規制に関して、わが国は、人道上の観点と安全保障上の必要性を踏まえつつ、特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW:Convention on Certain Conventional Weapons)などの各種条約に加え、CCWの枠組み外で採択されたクラスター弾に関する条約(オスロ条約2)も締結している。わが国は、同条約の発効を受け、2015年2月に自衛隊が保有する全てのクラスター弾の廃棄を完了した。
また、CCWの枠組みにおいて、自律型致死兵器システム(LAWS:Lethal Autonomous Weapons Systems)に関する政府専門家会合などにも随時職員を派遣している。LAWSにかかる議論については、その特徴、人間の関与のあり方、国際法の観点などから議論されており、わが国としては、引き続き、安全保障上の観点も考慮しつつ、積極的に議論に関与していくこととしている。
加えて、近年、AI(Artificial Intelligence)が軍事領域に与える影響について国際的な議論が活発化しており、2023年2月にオランダで開催された「軍事領域における責任あるAI利用(REAIM:Responsible Artificial Intelligence in the Military Domain)」2023サミットに岡防衛審議官(当時)が参加した。
対人地雷の禁止に関しては、例外保有などに関する年次報告を対人地雷禁止条約(オタワ条約3)事務局に対して行うなど、国際社会の対人地雷問題への取組に積極的に協力してきた。
また、生物兵器禁止条約(BWC:Biological Weapons Convention)に関連し、毎年、信頼醸成措置報告書を提出しており、防衛医科大学校や防衛装備庁の施設についてもその中で報告している。
このほか、軍備や軍事支出の透明性の向上などを目的とした国連軍備登録制度や国連軍事支出報告制度、武器貿易条約(ATT:Arms Trade Treaty4)に基づく年次報告を行うとともに、制度の見直し・改善のための政府専門家会合などに随時職員を派遣している。