日米安保体制のもと、在日米軍のプレゼンスは、抑止力として機能している一方で、在日米軍の駐留に伴う地域住民の生活環境への影響を踏まえ、各地域の実情に合った負担軽減の努力が必要である。特に、在日米軍の再編は、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化しつつ、沖縄をはじめとする地元の負担を軽減するための極めて重要な取組であることから、防衛省としては、在日米軍施設・区域を抱える地元の理解と協力を得る努力を続けつつ、米軍再編事業などを着実に進めていく。
わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増すなか、日米安保体制に基づく日米同盟が、わが国の防衛や地域の平和と安定に寄与する抑止力として十分に機能するためには、在日米軍のプレゼンスが確保されていることや、在日米軍が緊急事態に迅速かつ機動的に対応できる態勢が、平時からわが国とその周辺でとられていることなどが必要である。このため、わが国は、日米安保条約に基づいて米軍の駐留を認めており、在日米軍の駐留は、日米安保体制の中核的要素となっている。
また、安定的な在日米軍の駐留を実現することは、わが国に対する武力攻撃に対して、日米安保条約第5条に基づく日米の共同対処を迅速に行うために必要である。さらに、わが国防衛のための米軍の行動は、在日米軍のみならず、適時の兵力の来援によってもなされるが、在日米軍は、そのような来援のための基盤ともなる。
なお、日米安保条約は、第5条で米国の日本防衛義務を規定する一方、第6条でわが国の安全と極東における国際の平和と安全の維持のため、わが国の施設・区域の使用を米国に認めており、日米両国の義務は同一ではないものの、全体として見れば日米双方の義務のバランスはとられている。
在日米軍施設・区域や在日米軍の地位に関することは日米地位協定1により規定されており、この中には、在日米軍の使用に供するための施設・区域(在日米軍施設・区域)の提供に関すること、在日米軍が必要とする労務の需要の充足に関することなどの定めがある。また、環境補足協定2により、在日米軍に関連する環境の管理のための協力を促進し、軍属補足協定3により、軍属の範囲の明確化などを図っている。
在日米軍施設・区域について、わが国は、日米地位協定の定めるところにより、日米合同委員会を通じた日米両国政府間の合意に従い提供している。
わが国は、在日米軍施設・区域の安定的な使用を確保するため、民有地や公有地については、所有者との合意のもと、賃貸借契約などを結んでいる。しかし、このような合意が得られない場合には、駐留軍用地特措法4に基づき、土地の所有者に対する損失の補償を行ったうえで、使用権原5を取得することとしている。
また、施設・区域の米軍への提供には、例えば、日米共同訓練に際して、米軍が自衛隊の施設を使用する場合など、この協定に基づき、わが国の施設・区域について、一定の期間を限って米軍に使用させているものがある。
在日米軍が必要とする労働力(労務)は、日米地位協定によりわが国の援助を得て充足されることになっている。
全国の在日米軍施設・区域においては、2023年度末現在、2万5,779人の駐留軍等労働者(在日米軍従業員)が、司令部の事務職、整備・補給施設の技術者、基地警備部隊や消防組織の要員、福利厚生施設の販売員などとして勤務しており、在日米軍の円滑な運用を支えている。
こうした在日米軍従業員は、日米地位協定の規定により、わが国政府が雇用している。防衛省は、その人事管理、給与支払、衛生管理、福利厚生などに関する業務を行うことにより、在日米軍の駐留を支援している。
2015年9月、日米両政府は、環境補足協定への署名を行い、この協定は即日発効した。この補足協定は、法的拘束力を有する国際約束であり、日本環境管理基準(JEGS:Japan Environmental Governing Standards)の発出・維持や環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合および施設・区域の返還に関連する現地調査(文化財調査を含む。)を行う場合の在日米軍施設・区域への立入手続の作成・維持などについて規定している。
2017年1月、日米両政府は、軍属補足協定への署名を行い、この協定は即日発効した。この補足協定は、日米地位協定に一般的な規定しかない軍属の範囲を明確化し、コントラクターの被用者について軍属として認定されるための適格性基準を作成するとともに、通報・見直しなどの手続を定め、通常居住者の軍属からの除外などを定めている。
在日米軍関係経費には、同盟強靱化予算(在日米軍駐留経費負担)6、沖縄県民の負担を軽減するために沖縄に関する特別行動委員会(SACO:Special Action Committee on Okinawa)最終報告の内容を実施するための経費、米軍再編事業のうち地元の負担軽減などに資する措置にかかる経費などがある。
日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保するうえで、同盟強靱化予算(在日米軍駐留経費負担)は重要な役割を果たしている。1970年代半ばからのわが国における物価・賃金の高騰や国際経済情勢の変動などにより、1978年度からは福利費などの労務費を、1979年度からは提供施設整備費の負担を、それぞれ開始した。
また、日米両国を取り巻く経済情勢の変化により、労務費が急激に増加して従業員の雇用の安定が損なわれ、ひいては在日米軍の活動にも影響を及ぼすおそれが生じた。このため、1987年、日米両国政府は、日米地位協定の経費負担原則の特例的、限定的、暫定的な措置として、日米地位協定第24条についての特別な措置を定める協定(特別協定)7を締結した。
これに基づき、わが国は調整手当(現地域手当)など8項目の労務費を負担するようになった。その後の特別協定により、1991年度からは、基本給などの労務費と光熱水料などを、1996年度からは、訓練移転費を、また、2022年度からは、訓練資機材調達費を負担の対象としている。
参照図表III-2-5-1(在日米軍関係経費(2024年度予算)、図表III-2-5-2(同盟強靱化予算(在日米軍駐留経費負担)に係る特別協定などのもとでの日本側負担)
1 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定
2 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定を補足する日本国における合衆国軍隊に関連する環境の管理の分野における協力に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定
3 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定を補足する日本国における合衆国軍隊の軍属に係る扱いについての協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定
4 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法
5 「権原」とは、ある行為を正当化する法律上の原因をいう。
6 今次特別協定(日米地位協定第24条についての新たな特別な措置に関する協定)を巡る交渉の結果、本件経費を用いて日米同盟を一層強化する基盤を構築することで一致したことを踏まえ、日本側は、在日米軍駐留経費負担の通称を同盟強靱化予算とすることとした。
7 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第二十四条についての特別の措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定