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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

防衛白書トップ > 第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ > 第1章 わが国自身の防衛体制 > 第5節 情報戦への対応を含む情報力強化の取組 > 1 情報収集・分析などの機能の強化

第5節 情報戦への対応を含む情報力強化の取組

1 情報収集・分析などの機能の強化

1 軍事情報の収集

急速かつ複雑に変化する安全保障環境において、政府が的確な意思決定を行うには、質が高く時宜に適った情報収集・分析が不可欠である。わが国周辺における軍事活動が活発化するなか、防衛省・自衛隊としては、様々な手段を適切に活用し、隙のない情報収集体制を構築していくこととしている。

防衛省・自衛隊は、平素から、各種の手段による情報の迅速・的確な収集に努めている。具体的な情報収集の手段としては、①わが国上空に飛来する軍事通信電波や電子兵器の発する電波などの収集・処理・分析、②各種画像衛星からのデータの収集・判読・分析、③艦艇・航空機などによる警戒監視、④各種公開情報の収集・整理、⑤各国国防機関などとの情報交換、⑥防衛駐在官などによる情報収集などがあげられる。

防衛省としては、防衛駐在官の派遣体制の強化に加え、赴任国における効果的な情報収集活動などを実施する観点から、赴任前研修の充実・強化、キャリアパスの確保、関連情報の蓄積をはじめ、情報サイクル自体を強化し、防衛駐在官支援体制の向上についても取り組んでいく。

防衛駐在官については、2023年度に、ロシアによるウクライナ侵略を踏まえ、欧州に関する情報収集を強化するため、ルーマニア、英国、ウクライナに各1名を増員するとともに、カタールに新規派遣した。2024年度には、カンボジア、エストニア、スリランカに新規派遣するとともに、ベトナムへの増員を計画している。

参照図表III-1-5-1(防衛駐在官の派遣状況(イメージ))

図表III-1-5-1 防衛駐在官の派遣状況(イメージ)

動画アイコンQRコード資料:防衛省・自衛隊の『ここが知りたい!』 防衛駐在官について
URL:https://www.mod.go.jp/j/press/shiritai/chuuzaikan/index.html

2 情報分析などの機能の強化に向けた取組

今後、より一層、戦闘様相が迅速化・複雑化していく状況において、戦いを制するためには、AI(Artificial Intelligence)を含む各種手段を最大限に活用し、情報収集・分析などの能力のさらなる強化を通じ、リアルタイムで情報共有可能な体制を確立し、これまで以上に、わが国周辺国などの意思と能力を常時継続的かつ正確に把握する必要がある。

このため、情報の収集・整理・分析・共有・保全を実効的に実施し、政策判断や部隊運用に資するよう、情報本部を中心とした電波情報、画像情報、人的情報、公刊情報などの機能別能力を強化するとともに、地理空間情報の活用を含め統合的な分析能力を抜本的に強化していく。このため、情報本部や陸・海・空自の情報システムの整備、各種情報収集アセットや各通信所・沿岸監視隊における情報収集器材の維持・整備、各種情報資料の収集・整理に必要な予算を取得し、情報分析などの機能の強化を図ることとしている。

また、多様化するニーズに情報部門が的確に応えていくため、能力の高い情報収集・分析要員の確保・育成を進め、採用、教育・研修、人事配置などの様々な面において着実な措置を講じ、総合的な情報収集・分析機能を強化していく。さらに、情報関連の国内関係機関との協力・連携を進めていくとともに、情報収集衛星により収集した情報を防衛省・自衛隊の活動により効果的に活用するために必要な措置をとることとしている。

3 情報本部
(1)情報本部の任務

情報本部は、冷戦後の安全保障環境が複雑さを増しているなかで、高度かつ総合的な情報収集・分析を実施できる体制を整備するため、1997年に創設された防衛省の中央情報機関であり、わが国最大の情報機関である。電波情報、画像・地理情報、公開情報などを収集し、国際・軍事情勢など、極めて速いスピードで変化しているわが国を取り巻く安全保障環境にかかわる分析を行っている。

また、情報本部は、国家防衛戦略において、情報の収集・分析に加え、わが国防衛における情報戦対応の中心的な役割を担うとされ、国際軍事情勢などに関する情報収集・分析・発信能力を抜本的に強化していくこととしている。

(2)情報本部の活動

情報本部は、陸・海・空の自衛官と事務官・技官(語学系、技術系、行政・一般事務)からなる組織であり、自衛官は各部隊などにおける経験に基づく知見を、事務官・技官は語学、技術などの専門的な知識を駆使し、一丸となって業務に従事している。具体的には、刻々と変化する国際情勢について、電波情報、画像情報、公開情報(新聞、インターネットなど)、関係者との意見交換などからもたらされる交換情報といった、様々な情報源から得た情報に基づき、軍事的、政治的、経済的要因を含む様々な観点から総合的な分析を実施している。

また、情報本部では、宇宙・サイバー・電磁波といった領域における情報収集・分析機能を強化しており、例えば、サイバー空間における脅威の動向について、公開情報の収集や諸外国との情報交換など、必要な情報の収集・分析を行っている。加えて、諸外国の経済安全保障に関する情報収集・分析体制の強化のため、2022年度に要員を増員した。

情報本部の情報業務の成果は、分析プロダクトとして、内閣総理大臣、防衛大臣、内閣官房国家安全保障局、内閣情報調査室や陸・海・空自の各部隊に対して適時適切に提供され、政策判断や部隊運用を支えている。また、関係省庁や諸外国カウンターパートとの情報交流も積極的に実施している。

4 情報保全に関する取組

防衛省・自衛隊においては、従来から、秘匿性の高い様々な情報を適切に保護するため、特定秘密保護法1などの関係法令に従い、関係省庁・部局間で連携しつつ、必要な情報保全のための体制整備に取り組んできた。

しかしながら、海自情報業務群司令が、かつて上司であった秘密を取り扱う資格のない者に対して2020年3月に実施した情勢ブリーフィングにおいて、特定秘密などの情報を故意に漏らし、特定秘密保護法と自衛隊法第59条第1項(守秘義務)に違反したことが判明した。これを受けて2023年3月、浜田防衛大臣(当時)より元職員との面会・ブリーフィングにおける対応要領や、管理者や退職する職員に対する保全教育の制度化などの再発防止策(大臣通達)を策定し、全職員に対し周知徹底した。

その後、再発防止措置の施行から約半年が経過したのを契機に、2023年10月以降、その実効性を検証した結果、業務効率の大幅な低下などが発生している部署もあることが判明した。このため、2024年1月以降、実効性を維持しつつ、再発防止措置の運用を改善することとした。具体的には、①元職員と日常的に接する募集・援護業務や調達などの関係業務に従事する職員については、元職員から特異な働きかけがあった場合のみ、その旨を各機関などの長に速やかに報告する、②面会・ブリーフィングは原則として複数人対応とするが、業務に支障をきたすなど複数人で対応することができない場合は、職務上の上級者の事前了解を得たうえで職員が単独で対応できることとした。

2022年6月、海上自衛隊の護衛艦「いなづま」の当時の艦長が、人事異動により同艦に配属された隊員を特定秘密の適性評価を経ていないにもかかわらず特定秘密取扱職員に指名し、同艦が2023年1月に山口県周防大島沖で事故を起こすまでの間に行われた約2か月の任務行動の際、戦闘指揮所(CIC:Combat Information Center)において特定秘密の情報を取り扱わせ、特定秘密保護法などに違反したことが判明した。また、2023年7月、北部方面隊隷下の部隊指揮官が上富良野演習場で行われた訓練において指示・伝達を行う際に、特定秘密の情報を知るべき立場にない隊員15名に対して特定秘密の情報を漏らし、特定秘密保護法などに違反したことが判明した。

かかる事案が生起したことを防衛省・自衛隊として深刻に受け止め、2024年4月、本件の調査結果と懲戒処分について公表すると同時に、再発防止に関する防衛大臣指示を発出したほか、防衛副大臣を委員長とする「特定秘密等漏えい事案に係る再発防止検討委員会」において、より実効的な再発防止方策について検討を集中的に行い、情報保全のより一層の徹底を図ることとした。

1 特定秘密の保護に関する法律