電磁波領域は、陸・海・空、宇宙、サイバー領域に至るまで、活用範囲や用途が拡大し、現在の戦闘様相における攻防の最前線となっている35。このため、電磁波領域における優勢を確保することが抑止力の強化や領域横断作戦の実現のために極めて重要である。
電磁波領域においては、相手方からの通信妨害などの厳しい電磁波環境においても、自衛隊の電子戦やその支援能力を有効に機能させ、相手によるこれらの作戦遂行能力を低下させるなど、能力強化を着実に進める。また、電磁波の管理機能を強化し、自衛隊全体でより効率的に電磁波を活用していくこととしている。
防衛省・自衛隊としては、民生用の周波数利用と自衛隊の指揮統制や情報収集活動などのための周波数利用を両立させ、自衛隊が安定的かつ柔軟な電波利用を確保できるよう、関係省庁と緊密に連携しつつ、電磁波領域における能力を強化していく。
参照図表III-1-4-14(電子戦能力と電磁波管理能力(イメージ))、I部4章4節(電磁波領域をめぐる動向)
平素からの情報収集・分析に基づき、レーダーや通信など、わが国に侵攻を企図する相手方の電波利用を無力化することは、他の領域における能力が劣勢の場合にも、それを克服してわが国の防衛を全うするための一つの手段として有効であり、その能力強化を図っている。
2024年度には、平素から電波情報の収集・分析を行い、有事においては、相手の電波利用を無力化する機能を有するネットワーク電子戦システム(NEWS:Network Electronic Warfare System)や対空電子戦装置を取得するとともに、低電力通信妨害技術や将来電磁パルス(EMP:ElectroMagnetic Pulse)装備技術の研究を進めていく。また、小型無人機などへの対処能力の向上を図るため、高出力レーザーや高出力マイクロ波(HPM:High Power Microwave)といった指向性エネルギー技術の研究を推進することとしている。
電磁波領域における妨害などに際してその影響を局限し、航空優勢を確保するため、電子防護能力に優れたF-35A戦闘機の取得を推進する。また、戦闘機運用の柔軟性を向上させるため、電子防護能力に優れ、短距離離陸・垂直着陸が可能なF-35B戦闘機を取得するとともに、F-15戦闘機の能力向上を進めていく。
電磁波領域での戦闘を優位に進めるためには、平時から有事までのあらゆる段階において、電磁波に関する情報を収集・分析し、これを味方の部隊で適切に共有することが重要である。
2024年度は、電子妨害や電子防護に必要となる、電磁波に関する情報を収集する能力を強化するため、RC-2電波情報収集機を取得するほか、電子作戦機の開発を行う。
電磁波を効果的、積極的に利用して戦闘を優位に進めるためには、電子戦能力を向上していくとともに、電磁波の周波数や利用状況を一元的に把握・調整し、部隊などに適切に周波数を割り当てる電磁波管理の態勢を整備することが必要である。
このため、装備品の通信装置やレーダー、電子戦装置などが使用する電磁波の状況を把握、モニター上で可視化し、電磁波の利用状況を把握・管理する機能を強化するため、電磁波管理機能の整備を進めていく。
自衛隊の電磁波領域の能力強化や専門的知見を有する隊員の育成のため、統合電磁波作戦訓練を実施するほか、米国の電子戦教育課程への要員派遣などを通じ、最新の電磁波領域に関する知見の収集やノウハウの獲得を図っている36。
2023年11月に実施した自衛隊統合演習においては、陸・海・空自の電子戦部隊が空自入間(いるま)基地(埼玉県)に集結し、統合電磁波作戦の訓練にかかる調整を行った。また、同年9月から10月にかけて、海自は米海軍との相互運用性の向上を図るため、EP-3多用機を米国に派遣し、米海軍との電磁機動戦訓練を実施した。
自衛隊統合演習において、統合電磁波作戦訓練のため
空自入間基地に集合した陸・海・空自の電子戦部隊