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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

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第2節 国家防衛戦略の概要

わが国を取り巻く安全保障環境や世界の軍事情勢の変化を把握し、これらを踏まえつつ、わが国の防衛力のあり方と保有すべき防衛力の水準について規定するいわばわが国の平和と安全を確保するグランドデザインとして、これまで防衛計画の大綱(防衛大綱)が定められてきた。防衛大綱は、1976年に初めて策定されて以来、計6回策定された。戦後最も厳しい安全保障環境を踏まえ、わが国の防衛目標、この防衛目標を達成するためのアプローチやその手段を包括的に示すものとして、防衛大綱に代えて、2022年12月に国家防衛戦略1が新たに策定された。

1 防衛大綱から国家防衛戦略への変遷

1 51大綱

51大綱2は、1970年代のデタント3を背景として策定されたものであり、①全般的には東西間の全面的軍事衝突などが生起する可能性は少ない、②わが国周辺においては、米中ソの均衡的な関係と日米安保体制の存在がわが国への本格的な侵略の防止に大きな役割を果たし続ける、との認識に立った。

そのうえで、わが国が保有する防衛力は、①防衛上必要な各種の機能を備え、②後方支援体制を含めてその組織および配備において均衡のとれた態勢をとることを主眼とし、③これをもって平時において十分な警戒態勢をとりうるとともに、④限定的かつ小規模な侵略までの事態に有効に対処することができ、⑤さらに情勢の変化が生じ、新たな防衛力の態勢が必要とされるに至ったときには、円滑にこれに移行できるよう配慮されたもの、とすることとした。51大綱で導入した「基盤的防衛力構想」は、このようにわが国への侵略の未然防止に重点を置いた抑止効果を重視した考え方である。

2 07大綱

07大綱4は、冷戦の終結など国際情勢が大きく変化する一方、国連平和維持活動(国連PKO(Peacekeeping Operations))や阪神・淡路大震災への対応など、自衛隊に対する期待が高まっていたことなどを考慮して策定された。

07大綱は、わが国の防衛力整備がそれまで、わが国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となってわが国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという「基盤的防衛力構想」に基づいて行われてきたとしたうえで、これを基本的に踏襲した。

一方、防衛力の内容は、防衛力の規模や機能を見直すことに加えて、わが国の防衛のみならず、大規模災害など各種事態への対応やより安定した安全保障環境への貢献など、様々な分野において自衛隊の能力をより一層活用することを重視するものとなっているのが特徴である。

3 16大綱

16大綱5は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織の活動などの新たな脅威や多様な事態への対応が課題となるなか、わが国の安全保障および防衛力のあり方について新たな指針を示す必要があるとの判断のもとで策定された。

16大綱は、①わが国に直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するとともにその被害を最小化すること、②国際的な安全保障環境を改善し、わが国に脅威が及ばないようにすること、の2つを安全保障の目標とし、そのために①わが国自身の努力、②同盟国との協力、③国際社会との協力、の3つのアプローチを統合的に組み合わせることとした。そのうえで、防衛力のあり方については、「基盤的防衛力構想」の有効な部分は継承するとしつつ、対処能力をより重視し、新たな脅威や多様な事態に対応できるよう、多機能で弾力的な実効性のある防衛力が必要であるとした。

4 22大綱

22大綱6は、①わが国周辺において、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在するとともに、多くの国が軍事力を近代化し、また各種の活動を活発化させていること、②軍事科学技術などの飛躍的な発展にともない、兆候が現れてから事態が発生するまでの時間は短縮化する傾向にあるなかでシームレスに対応する必要があること、③多くの安全保障課題は、国境を越えて広がるため、平素からの各国の連携・協力が重要となっているなかで、軍事力の役割が多様化し、平素から常時継続的に軍事力を運用することが一般化しつつあることなどを踏まえ、策定された。

22大綱は、今後の防衛力について、防衛力の存在を重視した従来の「基盤的防衛力構想」によらず、防衛力の運用に焦点を当て、与えられた防衛力の役割を効果的に果たすための各種の活動を能動的に行える動的なものとしていく必要があるとした。このため、即応性、機動性、柔軟性、持続性、多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた「動的防衛力」を構築することとした。

5 25大綱

25大綱7は、わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増すなかで、いわゆるグレーゾーンの事態を含め、自衛隊の対応が求められる事態が増加するとともに長期化しつつあるなか、自衛隊の活動量を下支えする防衛力の質と量の確保が必ずしも十分とは言えない状況を踏まえて策定された。

このような反省点に立って、25大綱は、より統合運用を徹底し、装備の運用水準を高め、その活動量をさらに増加させるとともに、各種活動を下支えする防衛力の質と量を必要かつ十分に確保し、抑止力と対処力を高めていくこととした。このため、自衛隊全体の機能・能力に着目した統合運用の観点からの能力評価を実施し、総合的な観点から特に重視すべき機能・能力を導き出すこととした。このような能力評価の結果を踏まえることで、刻々と変化するわが国を取り巻く安全保障環境に適応し、メリハリのきいた防衛力の効率的な整備が可能となった。あわせて、後方支援基盤をこれまで以上に幅広く強化し、最も効果的に運用できる態勢を構築することとした。

このように、25大綱は、多様な活動を状況に臨機に即応して機動的に行いうる、より実効的な防衛力である「統合機動防衛力」を構築することとした。

6 30大綱

30大綱8は、わが国を取り巻く安全保障環境が格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増していることを踏まえ、「統合機動防衛力」の方向性を深化させた真に実効的な防衛力を構築すべく策定された。

具体的には、①全ての領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により全体としての能力を増幅させる領域横断作戦が実施でき、②平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とし、③日米同盟の強化や安全保障協力の推進が可能な性質を有する、真に実効的な防衛力として、「多次元統合防衛力」を構築することとした。特に、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力は、軍全体の作戦遂行能力を著しく向上させるものであることから、各国が注力している分野である。わが国としても、このような能力や、それと一体となって、航空機、艦艇、ミサイルなどによる攻撃に効果的に対処するための能力の強化や、後方分野も含めた防衛力の持続性・強靱性の強化を重視していくこととした。

参照図表II-2-2-1(防衛力の役割の変化)

図表II-2-2-1 防衛力の役割の変化

1 国家防衛戦略について(令和4年12月16日国家安全保障会議及び閣議決定)

2 昭和52年度以降に係る防衛計画の大綱について(昭和51年10月29日国防会議及び閣議決定)

3 1962年のキューバ危機を契機として、当時冷戦と呼ばれる対立関係にあった米ソの緊張状態が緩和していった状況を指す。1979年のソ連のアフガニスタン侵攻によって終焉。

4 平成8年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成7年11月28日安全保障会議及び閣議決定)

5 平成17年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成16年12月10日安全保障会議及び閣議決定)

6 平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成22年12月17日安全保障会議及び閣議決定)

7 平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成25年12月17日国家安全保障会議及び閣議決定)

8 平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成30年12月18日国家安全保障会議及び閣議決定)