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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

4 情報関連技術の広まりと情報戦

ロシアによるウクライナ侵略、2023年のイスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突、台湾総統選などでも指摘されているように、SNS(Social Networking Service)やインフルエンサーなどを媒体とし、偽情報の流布や、対象政府の信頼低下や社会の分断を企図した情報拡散などによる情報戦への懸念が高まっている。

ロシアや中国は国内外で情報戦を行い、自身にとって好ましい情報環境の構築を目指しているとみられる。例えば、中国は数十憶ドルをかけ、他国メディアへの投資を通じたプロパガンダの促進や偽情報の拡散、検閲などを実施しているとの指摘がある。また、中露で連携してプロパガンダや偽情報の拡散を行うなど、日本、米国、台湾、欧州などの対象国の国民やグローバルサウスなどの第三国に対して都合の良いナラティブを拡散していることが指摘されている。

SNS上での工作には、ボットと呼ばれる自律的なプログラムが多用されるようになっているとの指摘がある。大手ソーシャルメディア各社は、ボットアカウントの削除を進めているが、AIで生成した偽の顔写真を利用して削除対象とならないようにする動きもみられる。

また、AI技術の進展によって、ディープフェイクや生成AIで作成される動画、画像、文書は非常にリアルであり、簡単にアクセスできるツールにより短時間で作成できるため、一層深刻な脅威になる可能性がある。

このような脅威に対して、米国では、2023年9月に国家安全保障省がディープフェイクの脅威に関するアドバイザリを発表して注意喚起したほか、同年11月に国防省が「情報環境における作戦のための戦略2023」(SOIE:Strategy for Operations in the Information Environment)を策定し、国防長官府、統合参謀本部、各地域軍が、同一の目標のもと、一体となって実施する必要性を明示した。また、欧州ではEU(European Union)が「外国による情報操作と干渉」(FIMI(フィミ):Foreign Information Manipulation and Interference)という概念を提唱し、対策に取り組んでいる。

KEY WORD「外国による情報操作と干渉(FIMI)」

外国政府などによる自国の「価値観や手続き、政治プロセスに悪影響を及ぼす、あるいはその可能性のある一連の行動」を指す概念であり、EU、NATOはじめ欧州各国で危機感をもって捉えられている。FIMIは、多くの場合、合法的に行われ、外国や非国家主体あるいはその影響を受けた集団により、意図的・計画的に、世論への影響工作、大統領選挙などの民主的なプロセスの混乱などを目的とするものが多いとされている。このような情報操作は、私たち一人ひとりはもちろん、社会全体が自ら意思決定する機能を不全に陥らせるものであり、自由で開かれた情報に基づく民主主義社会への大きな脅威の一つとなっている。

技術的な対応としては、米国防省高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)が、メディア上の様々な情報の真偽と証明のための検知機能を開発しているほか、民間企業もAIやアルゴリズムを活用して、オンライン上の情報を自動で収集・分析するソフトウェアを開発しており、新しい情報収集手段として様々な国の公的機関への導入が進んでいる。