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<解説>防衛協力から見るインドの安全保障政策

インドは冷戦下、米国・ソ連のどちらの陣営にも属さず、第三世界のリーダーとしての台頭を目指し、非同盟、全方位外交を推進してきました。一方、インドは、パキスタンと中国との間で国境問題を抱え、軍事衝突も発生していたことから、外交面・軍事面で支援を得られるパートナーを必要としていました。

そうした状況のもと、インドは、共産主義の拡大防止の観点からインドとの協力を模索する米国に接近することもありましたが、米国が、パキスタンを軍事的に支援し、後には対ソけん制の観点から中国へ接近したことなどから、米国との協力関係は必ずしも順調に進展しませんでした。一方、1950年代以降、中国との対立を深めていくソ連は、対中国けん制の観点などからインドに接近し、戦闘機や戦車をはじめとする多種多様な装備品を提供したことから、軍事装備面を中心に、インドの対ロシア依存が高まりました。

冷戦終結後も、インドは引き続き軍事装備面でロシアに依存する傾向にありましたが、自律性を高める観点から、軍事装備品の国産化や、ロシアに依存しない協力関係の多角化を進めています。

フランスは、ロシアに次ぐ第2位の装備品輸入元(2018-22年、SIPRI)となっています。2022年には仏製の第4.5世代戦闘機「ラファール」を導入し、フランスの技術協力による国産潜水艦の建造も進めています。2023年1月に開催された年次戦略対話では、二国間の防衛・安全保障協力を強化することに合意しました。

G20首脳会合に際して会談したモディ首相とマクロン大統領(2022年11月)【EPA=時事】

G20首脳会合に際して会談したモディ首相とマクロン大統領(2022年11月)【EPA=時事】

過去5年間におけるインドの装備品購入元(2018-2022年、SIPRI)

過去5年間におけるインドの装備品購入元(2018-2022年、SIPRI)

また、インドはイスラエルから、国境地帯やインド洋におけるISR活動に使用する無人機やレーダーシステム及びミサイルなどを購入してきたほか、地対空ミサイルシステム「バラク8」の共同開発に成功しており、現在も新型の地対空ミサイルの開発に取り組んでいます。

米国との間では、これまでも軍の相互運用性を高める各種協定の締結や共同演習を行ってきましたが、米国が中国を最も重大な地政学的課題であると位置づける中で、さらに協力関係を深化させており、例えば、2023年1月末に開催された第1回米印重要新興技術イニシアチブ会合では、これまで米国企業から輸入してきた、国産軽戦闘機向けジェットエンジンについて、米国はインドでの共同生産に関する審査の迅速化を約束しました。さらに、人工知能、量子技術などについての国際協力の拡大や、半導体サプライチェーンの強靭化にも取り組むとしており、これら先端技術における協力は、インドの軍事技術・防衛産業の発展にも寄与するものとみられます。

このようなインドの防衛協力の多角化の取組は、協力の相手となっている国々にとっても、インド太平洋地域への関与や広大なインド市場へのアクセス確保の観点から有益なものになっていると考えられ、今後も継続していくものと考えられます。