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<解説>わが国周辺におけるロシアの軍事動向

ロシアはウクライナ侵略を継続する中で、極東に配備された部隊を含めた地上戦力を中心に通常戦力を大きく損耗しているとみられることから、今後、さらに核戦力への依存を深めていくと考えられます。わが国周辺においては、戦略原潜の活動海域であるオホーツク海周辺一帯の防衛に一層注力するとみられます。

戦略原潜については、それぞれ新型のボレイ級SSBNが2015年以降現在までに3隻、ヤーセン級攻撃型原子力潜水艦(SSGN:Submarine, Surface-to-Surface Missile, Nuclear-Powered)が2022年に1隻配備されており、将来的にボレイ級SSBNは計5隻、ヤーセン級SSGNは計4隻体制になるものとみられるほか、既存の原潜の一部も近代化改修されています。

戦略原潜の活動海域であるオホーツク海周辺一帯のカムチャツカ半島、帰属先未定地である千島列島及び南樺太、そしてわが国の北方領土において、ロシア軍は、地対艦ミサイル「バスチオン」や「バル」、地対空ミサイル「S-400」や「S-300V4」を近年新たに配備していますが、これらの動きは、ロシアが戦略原潜の活動海域であるオホーツク海一帯への他国軍の接近を阻もうとする、いわゆる「バスチオン」戦略の一環と考えられます。

また、「バスチオン」戦略強化の観点から、沿海州やカムチャツカ半島を拠点とする海空戦力の整備・活用を行っていくものとみられます。具体的には、太平洋艦隊は、戦術核及び通常弾頭を搭載可能な精密誘導兵器である「カリブル」巡航ミサイルを搭載する艦艇を整備中であり、ペトロパブロフスク・カムチャツキーにはステレグシチーII級フリゲートが、ウラジオストクにはキロ改級潜水艦が新たに配備されていますが、いずれの艦艇も「カリブル」を搭載可能となっています。2023年1月に実戦配備された極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」も、現在建造中のゴルシコフ級ミサイルフリゲートに搭載され、将来、極東に配備される可能性があります。

また、これらの海空戦力は、米国や、日本を含む米国の同盟国へのけん制の観点から、平素から活用されていくものとみられます。海空戦力の活動活発化は、ウクライナ侵略開始前からみられており、例えば、2017年12月には、Tu-95爆撃機がインドネシア東部ビアクに展開したほか、2021年夏には、太平洋艦隊がハワイ諸島西方の太平洋中部において大規模演習を実施したと報じられました。さらに中国との間では、2019年以降に爆撃機の共同飛行を、2021年以降に海軍艦艇の共同航行をわが国周辺で実施しています。

わが国周辺を含むインド太平洋地域におけるロシアの軍事動向については、中国との連携の動向を含め、強い懸念をもって注視していく必要があります。

2022年10月6日から7日にかけ、宗谷海峡を西進したロシア海軍キロ級潜水艦。太平洋艦隊において3隻目となる、「カリブル」巡航ミサイルを搭載可能なキロ改級潜水艦「マガダン」とみられる。

2022年10月6日から7日にかけ、宗谷海峡を西進したロシア海軍キロ級潜水艦。
太平洋艦隊において3隻目となる、「カリブル」巡航ミサイルを搭載可能なキロ改級潜水艦「マガダン」とみられる。