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<解説>2022年の北朝鮮の核・ミサイル開発動向

2022年、北朝鮮はかつてない高い頻度で弾道ミサイル等の発射を繰り返し、その発数は少なくとも59発に及びます。

金正恩委員長は21年の党大会において、核兵器の小型・軽量化や、戦術核兵器、「超大型核弾頭」、「極超音速滑空飛行弾頭」、固体燃料推進式ICBMの開発といった具体的な目標に言及しました。北朝鮮はその実現に向けて計画的に核・ミサイル開発を進めているとみられ、22年に入ると、まず1月5日に「極超音速ミサイル」と称する弾道ミサイルを発射し、同月中に6回にわたり各種弾道ミサイルの発射を行いました。

また、この頃、金委員長は「暫定的に中止していた全ての活動を再稼働する問題を迅速に検討」する旨表明し、18年に決定した「核実験と大陸間弾道ロケット試験発射」の中止の破棄を示唆しました。その後北朝鮮は2月から3月にかけて新型ICBM級弾道ミサイル「火星17」型を繰り返し発射したほか、3月以降、18年に爆破を公開していた核実験場の復旧を進めているとの指摘もなされはじめました。

このように対米核抑止力の構築を目的とした長射程ミサイルの開発を進める一方、北朝鮮は、韓国に対する挑発姿勢も強めていきます。4月に入ると、金与正党中央委副部長が韓国への核攻撃を排除しない旨表明し、その後北朝鮮は戦術核の運用に言及しつつ「新型戦術誘導兵器」と称するミサイルの発射を発表しました。5月以降は、ICBM級や変則軌道で飛翔するSLBMなどを発射したほか、6月には複数地点から短時間で8発もの短距離弾道ミサイルを発射するなど、様々な射程のミサイル関連技術・運用能力を検証したものとみられます。

9月には、法令「核武力政策について」を採択しましたが、例えば核兵器の使用条件として「非核攻撃」が「差し迫っていると判断された場合」が含まれるなど、その基準は必ずしも明らかではなく、北朝鮮はこれにより相手方に自身の核兵器使用の可能性を考慮させ、事態のエスカレーションを主導的に管理することを企図しているとの指摘もあります。

こうした中、米韓は9月から11月にかけ、米原子力空母などの戦略兵器も交えた各種共同訓練を実施しました。一方、北朝鮮は9月から10月にかけて、わが国上空を通過させる形での発射を含め、各種ミサイルの発射を繰り返しました。北朝鮮は一連の発射について、「戦術核運用部隊」の訓練を行い、韓国内の飛行場などを標的に見立てて戦術核兵器の運用要領等を演練したと発表しています。また、11月上旬には、米韓合同訓練への「対応軍事作戦」と称してICBM級を含む各種ミサイルの発射を強行し、朝鮮半島や地域の緊張を著しく高めました。さらに、同月18日には、22年中に発射を繰り返したICBM級「火星17」型を再び発射し、最終試験発射を成功させた旨発表しました。

このように、北朝鮮は1年を通してミサイル関連技術・運用能力向上を追求してきましたが、その背景には、①核・長距離ミサイルの保有による対米抑止力の獲得、②米韓両軍との武力紛争に対処可能な、戦術核兵器及びその運搬手段である各種ミサイルの整備という狙いがあるとみられます。

22年末、金委員長は、戦術核兵器の大量生産、核弾頭の保有量増大、新たなICBM体系の開発などを目標に掲げ、23年以降も核・ミサイル開発を継続する姿勢を示しました。北朝鮮が紛争のあらゆる段階において事態に対処できるという自信を深めた場合、軍事的な挑発行為がさらにエスカレートしていくおそれがあります。このように、北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威です。米国・韓国などとも緊密に連携し、情報収集・分析及び警戒監視に万全を期していきます。

2022年に北朝鮮が発射した弾道ミサイル等(弾道ミサイルの可能性があるものを含む)

2022年に北朝鮮が発射した弾道ミサイル等
(弾道ミサイルの可能性があるものを含む)